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75・やられたらやり返します

「はじめまして。ユーガルディアから来ました、ヴィルレジードと申します、よろしくお願いいたします」


 私が「フローザ」になった翌日――ヴォルドレッドは、リースゼルグが王宮の宝物庫から持ってきてくれた認識阻害の魔道具を使い、偽名を名乗って「生徒」としてアレンテリア魔法学園に転入してきた。


 外見は普段のヴォルドレッドがそのまま魔法学園の制服を着ているし、偽名も元の名前からあまり変わらないものだけど。魔道具の効果で、周囲からは「聖女の騎士である」とわからなくなっているらしい。


「なんて美しい殿方……!」

「私、あんな綺麗な男性、見たことがないわ!」


 ルディーナ達は、きゃあきゃあと色めき立っている。

 認識阻害の魔道具は、「ヴォルドレッドである」とわからなくさせるだけで、彼の外見の端麗さまで消せるわけではないらしい。生徒達からしたら、「知らない美形が転校してきた」くらいの認識だろう。


 ちなみに、アレンテリア魔法学園は上流階級が集う学園であるため、それなりの身分の設定でないと怪しまれる。とはいえ、国内の貴族を名乗れば、すぐに嘘だとバレてしまうだろう。そのため「ヴィルレジード」は身分としてはユーガルディアの貴族で、他国の文化を学ぶため留学してきた、という設定になっている。


「ふむ。ばっちりだな、ミア。お前と共にいられて、我も満足だ」


 リューは、私の力で全身に結界を張って、存在ごと視認できなくしている。

 そんなこんなで、フローザの問題を解決するため、彼らもこの学園に潜入することになった。


 ヴォルドレッドの紹介も終わり、一時限目の授業が始まろうとしたところで――


 ポイ、と。ルディーナの席の方向から、私の机の上に、何かが投げつけられた。

 ビー玉くらいの大きさの石だ。魔力の気配を感じるので、おそらく魔道具の一種だろう。炎のように赤く輝いていて、その赤さが次第に増してゆく。まるで、爆発寸前のように。


「先生、私の机にこんなものが」


 危険を察知した私は、それをポイッと空中に放り投げる。


「「「きゃああああああああああああ!?」」」


 赤い石は教室の空中で弾け、パン! と花火のような音と煙を上げた。教師も、生徒達も、投げた本人であるはずのルディーナも全員悲鳴を上げる。


 他の生徒達は、この件に関しては無関係で巻き添えかもしれないけど、今までずっとフローザへの仕打ちを見て見ぬふりをしていたんだろうし、報いみたいなものだ(報いにしては、まだ軽すぎるが)。そもそも元凶はこの魔道具を持ってきたルディーナなのだから、恨むなら彼女を恨んでほしい。


 担任のヤミルダは、キッと目を吊り上げてこちらを睨む。


「何をするのですか、フローザ!」

「私が持ってきたものではありません。私の机にこんなものを投げた人間を責めてください」

「言い訳するんじゃありません! あなたが悪いんでしょう!」

「何故私の言葉を聞かず、私が悪いと決めつけるのですか?」


 ぎゃあぎゃあと喚き散らす教師に淡々と返していると、後ろの方でルディーナ達がひそひそと何か話しているのが聞こえた。能力向上(ステータスアップ)で聴力を上げ、会話内容を聞き取ってみる。


「まったく、何なのあいつ! いつもみたいに、おとなしくしていればいいのに!」

「せっかくヴィルレジード様の前で恥をかかせてやろうと思ったのに」

「ふん。まあ、まだ同じ魔道具はいくつか持ってきているわ。次は成功させてやる」


(……ふうん)


 私はつかつかとルディーナの席へ近付き、彼女の鞄を掴んだ。


「ちょっと、何するのよ!? やっぱり生贄候補になるような奴は野蛮ね!」


 高い声で喚くルディーナを無視し、私は皆が見ている前で、彼女の鞄をひっくり返す。

 さっきの魔道具が数個、バラバラと中から出てきた。


「先生。見ての通り、この魔道具を持ってきたのはルディーナです。責められるべきは彼女です。……それとも、これほど確たる証拠があっても、まだ身分がどうのこうの言って目を逸らすおつもりでしょうか? あなたは教師として、それでいいのでしょうか」

「なっ……」


 私の言葉に、ヤミルダは動揺していたが……。ルディーナは堂々と嘘を主張した。


「違います、先生! これは、フローザが私の鞄に入れたんです! フローザが、私を陥れようとしているのです!」


 ヤミルダはその言葉を聞くなり、にやりと口角を上げる。


「ルディーナはこう言っていますよ。やはりあなたが嘘を吐いているのでしょう、フローザ!」

「私の言葉は聞かず、何故ルディーナの言葉だけ信じるのですか? 公平性に欠けます」

「ルディーナは侯爵令嬢かつ、公爵子息の婚約者です。彼女は、未来の公爵夫人なのよ。対してあなたは単なる男爵令嬢。ルディーナ嬢の言葉を重んじるのは当然のことです!」


 彼女はまた、身分を盾に私の口を塞ぎにかかる。

 そこで他の生徒から、すっと手が挙がった。


「先生。ルディーナさんがフローザさんの机に魔道具を投げるのを、私も見ていました」


 にっこりと、優美な微笑でそう告げたのは――ヴォルドレッドだ。


読んでくださってありがとうございます!

次回更新は8月8日(金)夜の予定です!

ブクマなどしていただけるとめちゃくちゃ嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
この教師イラつきますね。 拠り所の身分を失ったら折れるのかな。
メンタル最強&フィジカル最強を敵に回すとか、どうかしてるぜ…
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