69・とんでもない奴に気に入られます
ユーガルディアの祝勝会でたくさん祝福と感謝を捧げられた後――私達は、フェンゼルに帰ってきた。
これまでのことをリースゼルグに報告に行くと、彼は朗らかな笑顔で迎えてくれる。
「お帰りなさい、ミア様、メイ様、ヴォルドレッド。ユーガルディアでのご活躍は、私の耳にも届いていました。魔竜討伐、おめでとうございます」
「はい。リースゼルグも、真相水晶で協力してくださって、ありがとうございました」
「いえ。少しでもミア様のお力になれれば、私としても嬉しいですから」
「うむ。あの水晶のおかげで勇者の罪が暴かれ、聖女が我との戦いに本気になった。いい働きだったぞ、フェンゼルの王よ」
(――ん?)
思わず眉を顰めてしまう。
今のは、この場にいるはずのない奴の声だったから。
(というか、今の声って……)
嫌な予感がしたところで、私の目の前に、小さな魔法陣が出現する。
(やっぱり魔竜は、あの程度で消えてくれるほど甘くなかったってこと……!?)
身構えていると、魔法陣の中から現れたのは――
「さすがは聖女! この我を倒した者だ!」
――手乗りサイズの、ごく小さくて可愛らしいミニドラゴンだ。
「え……あんた、魔竜!?」
「いかにも。我は魔竜だ」
「いかにも、じゃないわよ。なんでここにいるの、消えたんじゃなかったの?」
「我は不死だ。封印の門は消したが、我の存在が消えるわけではない。聖女ミアよ、我はお前が気に入った。その強さも、不遜な態度も、我の理想通りだ。我は、お前の傍にいたい」
その言葉に、傍にいたヴォルドレッドがピクリと反応する。
「ミア様、そこを退いてください。その忌々しい魔竜を斬り刻みます。不死だというのであれば、重しをつけて海中に沈めるか、地中の奥深くに埋めましょう」
「落ち着きなさい、ヴォルドレッド。別にこの魔竜を庇う気はないけど、殺気を出しすぎよ、あなたは」
しかしヴォルドレッドの殺気を受けてもなお、ミニ魔竜は飄々としている。
「聖女ミア。我は魔竜だが、お前の攻撃によって一度倒され、もう国を滅ぼすような力は残っていない。また数百年すれば力も戻るだろうが、少なくとも、今の我は無害だ。だから、お前の傍に置いてほしい。――なんて頼んでも、お前は迷惑だろうからな」
「そうね、迷惑ね」
「だから、勝手に傍にいることにした」
「迷惑だっての!」
「お前が許可したわけでなく、我が勝手にお前の傍にいるのだ。責任の所在は我にある、もし他者に何かを言われたとしても、お前は悪くない」
「悪くないとか言うなら消えろっての!」
全力でツッコんでやってもなお、魔竜はどこ吹く風で、からからと笑っている。
「まあそう言うな。お前や、お前の大切な者達に危害はくわえないと誓う。それに今は本来の力を失っているとはいえ、我は伝説の魔竜。我が傍にいることで、役に立つこともあると思うぞ」
「はあ……」
(……変な奴に気に入られてしまったわ)
王宮の騎士さん達も、ザワザワと、驚愕と尊敬が混ざった目でこちらを見ている。
「すごい……魔竜を従魔にするということか? さすがは聖女様……!」
「魔竜を従えるなんて、聞いたことがないぞ。前代未聞だ……!」
(いや別に、こういう形で従えてやるつもりはなかったんだけどね……)
追っ払ってやりたいけど不死らしいし、フェンゼル内の他のどこかに行かれても困る。だったら、傍で監視しておいた方がまだマシかもしれない。……もし、あまりに鬱陶しかったら聖女の力で動きを封じて、檻にでも入れておこう。
「はあ……あなた、名前は何ていうの?」
「我は魔竜である。名前はない」
「猫みたいなこと言わないでよ、猫みたいにもふもふしているわけでもないのに」
ミニドラゴンだからこれはこれで可愛いけど、どうせ異世界で仲間にするならもふもふがよかった。モフりたかった。
「猫みたいなこととはよくわからんが。名前なら、お前がつけるといい。聖女ミア、お前は我が認めた、我の主人のようなものなのだから」
「あっそう。じゃあ魔竜だから『リュー』でいいわ」
「聖女。いくらなんでも、それはあまりに適当じゃないか」
「嫌ならどっかに行きなさいよ。私は別にあなたの主人になりたいわけじゃないんだから。素敵な名前をつけてくれる、優しいご主人様を探せば?」
「ふむ、つれないな。我にそんな態度をとる女は初めてだ。だが、そんなところもいい」
「人のことを『おもしれー女』みたいに言うんじゃないわよ」
「我は他のどんな者よりも、お前がいい。お前でなくては駄目だ。我の主人はお前だけだ、聖女ミア!」
「はあ……私はあなたに懐かれるつもりなんて、なかったんだけど」
「やはり斬り刻みましょう、ミア様」
「でも、伝説の魔竜を仲間にしちゃうなんて、お姉ちゃんすごいよ! ちょっと可愛いし、もう害はないみたいだし、いいんじゃない?」
私は頭を抱え、ヴォルドレッドは魔竜に対し殺気を放ち、メイちゃんは目を輝かせ、リースゼルグは苦笑していた。
「ええと……とりあえず、ユーガルディア国王に魔竜の件は報告しておきますね。もともとは魔竜は、ユーガルディアのものですし」
「ユーガルディアとしては、厄介払いできて万々歳でしょうけどね」
何故か勝手に増えてしまった仲間(?)に、私は頭を抱えた――
読んでくださってありがとうございます!
次回更新は金曜日の予定です。
第二部の終わりも近いので、ブクマや評価などをいただけるととても嬉しいです……!





