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62・勇者の嘘が明かされます

 ある日のこと。ユーガルディアの国王陛下に、リースゼルグから連絡があったそうだ。


 リースゼルグが私に届けたいものがあるので、ユーガルディア王宮に向かいたい、という連絡だったらしい。陛下が許可してくださったので、私は久々にリースゼルグに会うことになった。


「ミア様、お久しぶりです。お元気でしたでしょうか」

「ええ。リースゼルグこそ大丈夫ですか? あなたはいつも働きすぎだから、いつか過労で倒れるんじゃないかと心配です。フェンゼルを出発する前に渡した回復薬(ポーション)、ちゃんと飲んでいます?」


 私がフェンゼルにいない間、王宮の人々の健康も心配だったし、何かトラブルがあったときのために、回復薬を大量に作っておいたのだ。聖女の力を使えば簡単にできるしね。


「はい。ミア様の回復薬のおかげで、毎日とても楽しく働けています」

「楽しいのは何よりです。でも、回復薬を飲んでいても、ちゃんと休養もとってくださいね」

「ふふ、大丈夫ですよ。ご存じの通り、私、国を良くするために働くのは大好きですので」

「えーと、だからこそ心配しているんですけどね」


 本当に王に向いている人だと思うし、だからこそ私も安心してフェンゼルを離れることができたわけだけど、無理はしないでほしい。


「それにしても、わざわざ来ていただいて、本当にありがとうございます」

「転移魔法陣を使えば、そう時間はかかりませんし……何よりミア様のためであれば、どこであろうとすぐ飛んで参りますよ」


 リースゼルグは穏やかな笑顔で、冗談ではない様子で言ってくれた。彼は間違いなく一国の王で、元公爵で、本来人々の上に立つ人なのに。私に対しては、まるで騎士のように傅いてくれる。……私がノアウィールの森を浄化したあの日から、ずっと。


「それで、ミア様。こちらが、お渡ししたかったものです」


 リースゼルグは木箱の中から、厚手の布に包まれた大きな水晶を取り出す。

 大きいが、綺麗とは言い難い水晶だ。まるで靄がかかっているように、白く曇っている。


「これは……」

「以前少しお話しした、『真相水晶』です。聖なる魔力を込めることで、過去に起きたことを知ることができるという、伝説の道具(アイテム)なのです。これを使えば、メイ様がこの世界に来てしまった原因がわかるのではないかと」


(リースゼルグ、調査してくれるって言っていたものね)


 忙しい中、口先だけでなく本当に約束を守ってくれるなんて。あらためて、彼の誠実さを実感する。


「それにしても、過去を見られるなんて、すごく便利な道具ですね?」

「使用のために聖なる魔力が必要なので、大多数の人間には使うことができないのですけどね。それに一度使用すると、一定期間は使用できなくなってしまうので、そう頻繁に使えるものではありません。ですが、少しでもメイ様が元の世界に戻る手がかりが得られればと思いまして」


 そんな貴重な道具の貴重な機会を、メイちゃんのために使わせてくれることに感謝する。リースゼルグは、やっぱりいい人だ。


「今現在、ご覧の通りこの水晶は曇っています。ミア様のお力を使っていただければ、曇りが晴れ、あなたの知りたい真実が映し出されるかと」

「わかりました、やってみます」


 さっそく、水晶に向けて聖女の力を使う。

 長い間封印されていたせいか、水晶からの抵抗力を感じたので、少し強めに力を解放し、聖なる光を放出した。すると水晶の曇りが次第に晴れ、美しく透き通る。


(綺麗……)


 私はそっと、真相水晶に手を重ねる。

 次の瞬間、水晶から眩い光が溢れた。


(何かが、頭に流れ込んでくる……)


 これは――誰かの、記憶だろうか。だけど何か、嫌な感じに胸が騒ぐ。

 ザワザワと奇妙な心地に浸食されていると、あの自称勇者の姿が過って――


(これは……ブレードルの、記憶?)



 ◇ ◇ ◇



●ブレードルside


 ブレードルという男は、遥か昔に魔竜を倒したと言われる、勇者の一族の長男として生まれた。幼い頃から過保護な両親に甘やかされ、人々からは「勇者様」と敬われ、常に特別な存在として敬われてきた。


 そんな彼を、叱ったり注意したりする者が、いなかったわけではない。だがブレードルは、他者からの忠告に耳を傾けることはなかった。


「ブレードル様。最近辺境の森で魔獣が暴走しているとのことです。ブレードル様も、討伐に協力された方がよろしいかと……」

「辺境のことは俺には関係ないだろう。それに、俺は鍛錬で忙しいんだ」

「しかし、ブレードル様の鍛錬はいつも、素振りばかりでしょう。もっと実戦経験も積まれた方が……」

「おい」


 ブレードルは、助言してくれた使用人を睨みつける。


「お前、誰が魔竜を倒して、この国を救うと思っているんだ? 俺は勇者だぞ。俺がいなければこの国は救われないんだ。俺に文句をつけるなんて、この国が救われなくてもいいと思っているということだな!? 俺に魔獣を戦えと言うなど、俺が戦闘で死んで、この国が滅んでもいいということだな!?」

「い、いえ! 決してそのような……」

「そもそも、たかが使用人の分際で俺に口出しするな! 貴様は減給のうえ、休憩も禁止する!」


 遥か昔から伝説となっている「光の剣」は、勇者爵家の嫡男が十八歳になったとき、父親から受け継がれる。そして光の剣は、勇者の血を引く人間にしか真価を発揮できないと伝えられている。


 そのためユーガルディアの人間にとって、ブレードルの機嫌を損ねることは脅威だった。「勇者なんてやーめた、俺は魔竜なんて倒さない」と言われたら、国がどうなってしまうかわからないからだ。


 だからこそ、ブレードルにとって「勇者」という言葉は、煩わしい奴らを黙らせる魔法の言葉だった。「俺は勇者だぞ」と言えば、皆がひれ伏すのが快感だった。


 俺は選ばれし者であり、何をしても許される。

 俺は選ばれし者であり、皆は俺の言うことを何でも聞いて当然だ。

 俺は選ばれし者であり、そこらの愚か者どもとは違うのだから――


 そうしてブレードルは、「勇者の血を引いている」というだけで、何の功績も上げないまま「自分は特別だ」という意識だけ肥大化させていった。


(実戦経験など、勇者には必要ない。光の剣の力さえあれば、俺は絶対に魔竜を倒せるのだからな!)


 ブレードルの母親が「ブレードルは魔獣との戦闘なんてしなくていいのよ! だってあなたは、勇者ってだけで最強なんだもの!」と彼を甘やかしていたせいもあり、ブレードルは我儘放題のまま育ち――やがて十八歳になった。


(とうとう、光の剣を受け継ぐことができる! これで今より更に、俺の勇者としての名声が高まるぞ!)


 ブレードルは、人々を守ることではなく、ただ自分がこれからも周囲に敬われることに心を躍らせていた。


「いいか、ブレードル。この剣を鞘から抜いたとき、代々勇者にだけ受け継がれてきた、『世界の真実』を知ることができる。……だが、決してその内容を口外しないように」

「はい、父上」


(勇者だけが知ることのできる、世界の秘密……! 他の下賤な奴らには、一生知ることのできない真実! 一体、どんなものなんだ?)


 期待に胸を膨らませ、ブレードルは剣を抜いた。

 その瞬間、彼の頭に、過去の歴史の真実が流れ込んできて――


(な……んだ? これは……)


 それは遥か昔の出来事――伝承を覆す真実。


 ユーガルディアの伝承では、かつて魔竜を倒したのは「勇者」だと伝えられている。

 だがその伝承自体が、「勇者」に改ざんされたものだった。

 かつて魔竜を倒したのは――「聖女」である。

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ゴミクズぅ...
初代から盗人やったんかい(;・∀・)
血は争えない
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