41・牢獄の奴らに会いに行きます
リースゼルグに、「ワンドレアに話を聞くのがいい」と言われて――私はメイちゃんが元の世界に戻る方法を見つけるため、フェンゼルの監獄を訪れていた。ここに来るのは、前にアリサと真来の無様な姿を見に来て以来だ。
「まさか、またここに来ることになるとはね」
ワンドレアは以前、帰還の方法は知らないと言っていた。けれど召喚の方法を知っているのなら、そこからヒントを得られるかもしれない。
私は看守さんの案内のもと、囚人との面会室までやって来て、彼を呼び出してもらい――
「ひさしぶり、ワンドレア。調子はどう?」
「どうもこうも何も、最悪だ! 王宮にいた頃と比べて環境は最悪だし、毎日汗水垂らして働かなくちゃいけないし、自由もない。こんなところ、一刻も早く出たいぞ! ここを出たら、君にも自由に会いに行けるようになるしな。……あ、いや別に、君に会えて嬉しいなんて、思っていないんだからな!」
「典型的なツンデレでは?」
「ミア様のことは渡しませんよ、絶対に」
「ヴォルドレッドも、誰彼構わず張り合わなくていいから」
こほんと一息吐いて、本題に入る。
「ワンドレア。今日は、あなたに聞きたいことがあって来たの」
「ふん。なんでも聞け! 俺は君に答えられることなら、なんでも答えるぞ!」
「普通にありがたいわね」
「で、何が聞きたいんだ」
「この世界から、元の世界に戻る方法についてなんだけど」
「えっ……元の世界に戻る気なのか?」
「いえ。実は私の姪が、何故かこの世界に転移してきてしまったの。それで、その子を元の世界に帰してあげたくて」
可愛い姪っ子を監獄に連れてくるのは忍びなかったので、今日はメイちゃんは一緒ではない。ただ、一人で王宮にいても退屈だろうし、部屋に閉じこもっていては気が沈んでしまいそうだ。そのため今日は、護衛の女性騎士をつけたうえで、街に遊びに行ってもらっている。
「ワンドレア。異世界人が元の世界に戻る方法は、本当にないの?」
「ああ。王家に伝わる書物にも、聖女召喚の方法は記してあっても、帰還の方法なんてどこにも書いていなかった。それに異世界に干渉するには、膨大な魔力が必要となるからな」
「もし、ユーガルディアの宝玉を手に入れられたら、元の世界への帰還は可能だと思う?」
「……何? ユーガルディアの宝玉を手に入れられるアテがあるのか?」
「いえ、まだ全然ないけど。ただ、一応聞いておきたくて」
「……アテはないけど、狙ってはいるということだな」
「やっぱり、無謀だと思う?」
「いや。君が無茶苦茶な人間だということは知っている。ありえないと思う一方で、君なら魔竜くらい倒しそうだとも思う」
「褒められているのか褒められていないのか、よくわからないわね」
「ミア様。ミア様のことは私がいくらでもお褒めいたします。他の男に褒められる必要などありませんよ」
「真顔でさらっと会話に入ってこないで、ヴォルドレッド」
ワンドレアがこほんと咳ばらいをし、話を元に戻す。
「あー……宝玉の力があれば、異世界転移自体は可能かもしれない。しかし言っておくが、膨大な魔力があれば何でもできるというわけじゃない。あまり大人数で異世界転移はできないぞ。宝玉を使って元の世界に戻れるのは、おそらく一人だけ……君の聖女の魔力と合わせても、二人までが限界だろう」
「ふうん? まあ、メイちゃんさえ元の世界に帰れればいいから、別に問題ないわ」
その後、ワンドレアから聖女召喚の魔法陣や呪文、それが記されている書物の場所について聞いた。聖女の鑑定能力によってそれらを解析すれば、元の世界に戻る儀式に応用できるかもしれない。
「ワンドレア。いろいろ教えてくれてありがとう。私達はそろそろ行くわね」
「ふん、もう帰るのか! とっとと帰れ、なんて俺は一言も言っていないからな! もっとゆっくりしていけばいいものを!」
「だから、ツンデレなの? せっかくだけど、そろそろ帰るわ。メイちゃんのことも待たせているし」
しかしそこで、看守さんが私に声をかけた。
「聖女様。囚人のアリサとマクルが、聖女様に会いたいと申しております。面会をお許しになりますか?」
「そうですね……まあせっかくここまで来たし、様子くらい見て行ってもいいですが」
「では、連れてきます」
しばらくすると、囚人として行動を制限するための魔道具をつけられた、アリサと真来がやってきた。
「ああ、お姉ちゃん、やっとまた会えた! ねえ、私、今本当に酷い日々を送っているのよ! 家族なんだもん、助けてくれるわよね!?」
「美亜! 俺達、やり直そう! 俺、本当に反省してるからさ! 今の俺達なら、前と違う真実の愛を育めるはずだ!」
(……少しくらい反省していないかなと思ったけど、見事に相変わらずみたいね)
だけど、メイちゃんがこの世界に来たからこそ、聞いておきたかった。
「ねえ、アリサ。元の世界に戻りたい?」
「もちろん! こんな世界嫌だもの、絶対戻りたい!」
「元の世界で、何がしたいの?」
「そりゃあ、服やバッグいっぱい買ったり、イケメン達に囲まれたりして楽しみたい! 私をここから出してくれたら、お姉ちゃんにもそういうの、誘ってあげるわよ!?」
「……私のことじゃなくて。他に何か、大切なことがあるでしょ?」
「大切なこと? ああ、もちろん旅行とかも行きたいし、あとエステや美容院も!」
(……メイちゃん達のことを心配する言葉は、一言も出てこないのね)
アリサにとって子ども達が、どれだけ軽い存在なのか。あらためて実感して、ひどく嫌な気持ちになる。
「アリサは……子ども達に会いたいとは、思わないのね」
「え? ……な、何よ、私が酷い親だっていうの? 違うわよ! だって子ども達の方が、私のこと嫌いなんだも~ん。あの子達、酷いのよ! お姉ちゃんは親になったことがないから、わからないのよ。私、本当に大変だったんだから!」
そりゃあ、私は「親」になったことはない。けど親に蔑ろにされる「子ども」の気持ちはわかる。私の親も、私を便利な世話係としか思っていなかったから。
それに、メイちゃん達が小さい頃、お世話をしていたのは私だ。そんな私に、よくそんなことが言えるなと思うし――まだ四歳だった子ども達を「酷いのよ」なんて言って育児放棄することを正当化するなんて、私には、許せなかった。
「……真来は? アリサのこの言葉を、何とも思わないの……?」
(真来は、子ども達の父親じゃあない。でもアリサと結婚して、皆の父親になろうとしていたはずだったのに)
「そんなことない! 俺はちゃんと、あの子達のことを愛してたし! 特にメイちゃん、大きくなったら、絶対美人だっただろう。ああ、パパになって、成長したメイちゃんと一緒に寝たり、お風呂入ったりしてあげたかったなぁ。へへ……」
「あ、そうよね。確かにメイは私に似て可愛かったし、大きくなったらきっと、たくさんお金を稼いで私達を助けてくれたんだろうな~!」
「――っ」
あまりにもぞっとして、言葉を失う。指先から、氷のように冷たいものが這い上がる。
この二人が結婚してメイちゃん達を育てなくて、本当によかった。一歩間違えば子ども達が二人の玩具や金ヅルのように扱われていたのかと思うと、恐ろしくて仕方がない。
(信じられない……こいつらは本当に、まともな心なんて持ち合わせていないんだ)
「それで、美亜! 俺をこの牢獄から出してくれるよな!?」
「私のこと、元の世界に帰してくれるわよね!?」
期待を込めて私を見る二人を、私は軽蔑を込めてきつく睨み上げ――
「馬鹿言うんじゃないわよ。あんた達は永遠に外に出てこない方が、世の中が平和だわ。一生、自由になれるなんて思わないことね」
読んでくださってありがとうございます!
次回はミアがブチギレます!





