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40・元の世界に戻る方法を探します

 ある昼下がり。私は、国内の人々を治癒するため、ヴォルドレッドと共に転移魔法で遠出していた。メイちゃんも「フェンゼルのことについてもっと知りたい」と言って、私と一緒に来た。メイちゃんも回復士としての力自体はあるので、私の治癒を見ることで魔法の勉強になるかもしれないしね。


 今日やって来たのは、とある商家のお屋敷だ。この家の娘さんは七歳なのだけど、生まれてすぐ呪いにかかってしまい、幼い頃から外で遊ぶこともできず、ずっとベッドに横になってばかりの生活を強いられてきたらしい。


「けほ……ごほっ」

「聖女様、お願いします! 娘のレリーナを助けてやってください……! 私にできることでしたら、なんでもいたします!」

「大丈夫ですよ、すぐに力を使いますので」


(どうかこの子が元気になって、これからの人生を、健やかに歩めますように)


 祈りを込めて、聖女の力を使う。すると、苦しそうだったレリーナちゃんの身体に、眩い光が降り注ぐ。


 光を出さなくとも力は使えるのだけど、無詠唱のうえ何も起きずに治癒をすると、他の人達から見て、本当に治癒が行われたのかどうかわかりづらい。そのため、こういうときは判別しやすさのためにも光を出すようにしていた。


「わ……、あ、あれ!? 身体が楽になった……!」

「本当か、レリーナ!?」

「うん! もう、全然苦しくないの……! 聖女様、ありがとうございます!」

「ああ、よかった、よかったなぁレリーナ! 聖女様、私からも感謝申し上げます。娘を救っていただき、本当にありがとうございます!」

「いえ。よくなって、本当によかったです」

「お姉ちゃん、すごい……!」


 お父さんはレリーナちゃんを抱きしめ、涙を流しながら笑顔を浮かべた。


「レリーナ。これからは一緒に、どこへだって行けるぞ! 綺麗な花畑も、美しい湖も、なんだって見せてやるからな!」

「うん……! ふふ、お父さん、大好き……!」


(レリーナちゃんが元気になってくれて……皆さんが喜んでくれて、よかった)


 私達は、幸福の中で笑い合う親子を、そっと見守っていて。


「よかった……本当に……」


 私の隣のメイちゃんは……親子を心から祝福しながら、ほんの少しだけ、何かを思い出すようにしていた――



 ◇ ◇ ◇



 それからも私とメイちゃんは、楽しい日々を送っているけれど。

 メイちゃんはいつも明るく振舞っているものの、時折ぼんやりと遠くを見るような目をすることがある。それに、この前彼女がうとうとしていた際、寝言で日本でのことを呟いていた。


(元気そうにしていたって……やっぱり、元の世界でのことを思い出すと、辛いわよね?)


 彼女が暗い顔を見せないのは、私を心配させないためだろう。だけど、この前の親子を見たときのように、ふとした瞬間に家族のことが過って、胸を軋ませているのだと思う。いくらこちらの世界には私がいると言っても、メイちゃんは元の世界での家族や友達に、別れを言うことすらできず二度と会えなくなってしまったのだから。


(……この世界から、元の世界に戻る方法。本当に、ないのかしら?)


 そう考え――ある日私は、あらためて、ヴォルドレッドと共にリースゼルグの執務室を訪れた。


「忙しい中すみません、少しだけ、聞きたいことがあって……。以前、メイちゃんがこの世界に来てしまった理由や、元の世界に戻るための方法を調査してくれると言ってくれましたよね。何か、進展はありそうでしょうか?」


 そんな数日ですぐ何か判明するとは思っていないけれど、何か少しでも可能性があるのか、それともあの言葉は、メイちゃんの手前そう言ってくれただけで、成果は出そうにないのか。それだけでも聞いておきたい。


 リースゼルグは少しも目を逸らすことなく、誠実に答えてくれる。


「メイ様がこの世界に来てしまった理由を知る方法としては、この国には『真相水晶』という、真実を映す道具が西の遺跡に封印されているはずなので、騎士達に調査に行かせています。次に、メイ様が元の世界に戻れる可能性について、ですが。……あまり現実的ではない方法なので、過度な期待を抱かせてしまわないよう、あえてお知らせしませんでした。ただ、少しでも可能性があるとすれば……隣国、ユーガルディアですね」


「ユーガルディアに、何かあるのですか?」


「隣国ユーガルディアには、『封印の門』というものがあります。数百年に一度、そこから魔竜が現れるのです。魔竜は国に災厄をもたらす脅威ですが、倒せば、膨大な魔力を秘めた宝玉をドロップすると伝えられています」


「なんというか……さすがファンタジーな世界ですね」


「ただ、魔竜がいつ現れるかはわかりません。それに隣国で魔竜を倒すのは、勇者と相場が決まっています。貴重な宝玉は、隣国にとっても重要なアイテムですので、フェンゼルに譲ってくれるとは考えられませんね」


「まあ、そうですよね……」


 新生フェンゼルとして、これからユーガルディアとの国交は大事にしなければいけない、大切な時期だ。隣国から宝玉を奪おうなんて、国際問題になりかねない。


「……ただ。隣国にとって、魔竜は国を破壊する巨悪であることは間違いありません。それにせっかくの宝玉の魔力も、毎度、魔竜に破壊された国を修復するために使ってしまっていて、恩恵を受けられていないとも聞きます。ミア様には聖女の力がありますから……ミア様の力で魔竜をなんとかできれば、交渉次第では、宝玉を譲ってくれる可能性も、ゼロではないかもしれません」


(……かなり、困難だとは思う。でも、他に方法がないのだったら……)


「リースゼルグ。もう少し詳しく、魔竜について教えてくれますか?」

「はい。ユーガルディアの魔竜については、次のように伝えられています」


 リースゼルグは小さく息を吸い込み、朗々と語ってくれる。


「遥か昔、ユーガルディアでは瘴気による呪いが蔓延し、人々は苦しんでいました。当時のユーガルディア国王陛下は民を救うため、人外の存在が眠ると伝えられている『封印の門』に祈りを捧げたそうです。すると国王陛下の頭に、魔竜の声が聞こえてきて……魔竜は、次のように語りました。


『我は魔竜である。我は破壊を求めている。我の力を解放し、心のまま暴れ尽くすことを求めている。何より――我より強い者との戦闘を求めている。ユーガルディアの人間よ、貴様らと契約してやろう。ただし救いというものは、簡単に得られるものではない。貴様らに、我の暴走という名の試練を与える。貴様らが我の破壊を止め、我に勝利することができたのなら。我の心は満たされ、一粒の石と化すだろう。それが、貴様らの救い。勝利の対価、膨大な魔力をもたらす宝玉である』


 ……そうして実際に魔竜が出現し、ユーガルディアで暴れ回って、大勢の人間が重傷を負いました。ですがやがて光の剣を持つ男が、魔竜に勝利しました。魔竜は不死ですが、重傷を負い、門の中に戻っていきました。その際に魔竜が落とした宝玉の力によって、人々の傷や呪いは癒され、ユーガルディアは平和を取り戻し……魔竜を倒した男は勇者と呼ばれるようになったのです。


 しかしそれ以降、数百年に一度ほどの周期で、門から魔竜が現れ、ユーガルディアを破壊するようになりました。その破壊は、誰かに倒されるまで止まることはありません。勇者と死闘を繰り広げ、光の剣により討たれると、魔竜は宝玉を落とし、門の中に戻り、長い年月をかけて傷を自己治癒しながら、次の暴走のための力を蓄えるのです。


 過去のユーガルディア国王達は魔竜に、『もう宝玉はいらないから、国を破壊しないでくれ』と懇願しました。しかし魔竜は、『我はユーガルディアという国と契約をしたのだ。一度した契約は覆らない。我はこれからも何度でも現れ、この国を破壊し、勝者には宝玉を与える』と告げました。――こうして今でも、ユーガルディアは魔竜に苦しめられ、勇者を救いとしているのです」


 リースゼルグが語り終え、私は再度考える。

 やはり、魔竜退治で鍵となるのは「勇者」らしい。となると、この前のあの男と関わる必要があるだろうか。しかし、あの男が私に力を貸してくれるとは思えない。


「ミア様。何も問題はないかと存じます」

「え?」


 ここまでずっと黙って話を聞いていたヴォルドレッドが、口を開く。


「あの勇者が魔竜を倒すことに失敗し、それによって隣国が滅び、ミア様が魔竜を倒せば、全てが上手くいきます」

「それだと隣国全滅してるけどね!?」


 ヴォルドレッドの場合、冗談なのか本気で言っているのか区別がつきづらい。リースゼルグは冗談だと受け止めたようで、クスクスと笑っていた。やがて笑い終えた彼は、再び顔を上げる。


「あとは、異世界への転移方法については、ワンドレアに話を聞いてみるのがいいかもしれませんね。何しろ、ミア様をこの世界に召喚した張本人なのですから」


読んでくださってありがとうございます!

次回は『牢獄の奴らに会いに行きます』です。お楽しみに!

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勇者が魔竜を倒すことに失敗し隣国が滅んだ後に魔竜討伐戦すれば… ヴォルドレッドかしこーい!  あーでも国民が被害にあったらかわいそうかな。あの勇者は逃げ出して生き残るでしょうし。。でもあんな嫌な勇者に…
え?次回…あいつらに会いに行くの? めいちゃんも一緒に行くの? アリサがめいちゃんに助けを求めるも「あんたなんか母親じゃない!助けるかボケ!」て拒絶されてぎゃふんならいいけど、逆に罵詈雑言並べ立てられ…
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