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37・俺と一緒に来い? お断りします

 私の反応に、ブレードルは怒りで小刻みに震えていた。聖女なんてか弱そうな女は、従順ですぐ支配できる存在で、こんなふうに言い返してくるなんて思っていなかったのだろう。


「貴様、この俺にそんな物言い、無礼だとわかっているのか?」

「無礼なのはそちらだと存じますが。そもそも私達は初対面ですが、ブレードル様はまだ、私に自己紹介すらしていませんよね?」


 私が事前に賓客の資料を記憶していたから、会話が成り立っているのだ。こちらの事前準備がなければ、そもそも異世界人である私には、この男が誰なのかさえわからなかった。


「勇者である俺のことは、知っていて当然だろう。名乗る必要などない」

「そうですか。このような正式な場において、自分から名前を名乗らない御方は、無礼と思われても仕方ありません。ブレードル様は、私のことをどうこう言えませんよ」


 ブレードルは、最初から不愛想だったが、さっきから更に苛立ちが顔に滲み出ている。あらあら、一国の勇者と呼ばれる人間が、他国のパーティーでそんなあからさまに不機嫌を晒してはいけないと思うのだけど。


「さて。せっかくのパーティーですし、ブレードル様も、私以外にお話ししたい御方もたくさんいらっしゃるでしょう。私はもう行きますので、この後もぜひ楽しんでいってくださいませ」


 あまり波風を立てたくもないし、このへんにしておいてやろう、と思ってそう言ったのだが――


「話は終わっていないぞ。逃げる気か、卑怯者」


(せっかく不毛な時間を終わらせてやろうと思ったのに、往生際が悪いわね)


「お前のさっきの言葉で、俺はとても不快になったんだ。謝罪しろ」

「お断りします」

「人を不快にさせたら、謝罪するのが筋というものだろう。自分の間違いを認め、心を入れ替えたことを示すため、俺と共にユーガルディアへ来い」

「お断りします。謝罪する理由も、あなたに従う理由もありません」

「理由ならある。勇者に口ごたえするなど、お前は間違っている。俺は勇者として、間違った存在を野放しにしておくことはできん。勇者であるこの俺が、お前を正してやる! そのためにも、ユーガルディアに来い!」


 勇者勇者うるせえ。この男、それしか言えないのか?


「お断りします、と何度も言っています。私の意見を聞いてください」

「俺の誘いを断るなんておかしい。俺がお前に、正義の心を教えてやると言っているんだぞ」

「そうですか、お気遣いどうも。ですが正義というのは人それぞれ異なるものですから、自分の正義が絶対だとして他者に押し付けるのは傲慢だと思います」

「勇者であるこの俺に、傲慢などと言う方が傲慢だ。聖女、お前は異世界人であり、フェンゼルで生まれたわけではないのだから、どこの国にいてもいいだろう。だからユーガルディアに来い」


 ブレードルは私の手首を掴もうとしたが、ヴォルドレッドが私を引き寄せてくれて、奴が私に触れることはなかった。しかし、いいかげんしつこいので、私は社交用の作り笑顔から一転、すっと目を細める。


「ブレードル様。私はフェンゼルの聖女です。新国王の戴冠式が終わった直後のパーティーで私を自国へ連れて行こうなどと、国際問題と言われても言い逃れはできませんよ。大体、そんなに『聖女』を欲するなど、あなたはさんざん勇者だと主張しておきながら、結局自分一人では魔竜を倒せないのですか?」

「何……?」


 ピクッと、ブレードルは一際眉間の皺を深くした。先に無礼な発言を連発してきたのはそちらなのに、こちらの発言にはすぐ不快そうな顔をする人だ。丁寧に接してほしいなら、自分も相応の態度をとるべきだろう。もしも礼儀正しく声かけられていたら、私だって和やかに話していたのだから。


(ただ、この反応……。何か『勇者』として『聖女』にこだわる理由があるのかしら?)


「勘違いするな。別に俺は、お前の助けなどなくとも魔竜を倒せる! お前などどうせお飾り聖女なのだろうが、俺の勇者としての名声を高める役には立つだろう。だから俺のために働かせてやると言っているんだ!」

「そうですか、あなた一人で魔竜を倒せるのであれば何よりです。しかし、そうムキになって声を荒げるべきではありませんよ。それ以上大きい声を出せば、さすがに他の方々に、何事かと思われます。人々を不安にさせるのは、『勇者』であるあなたの本意ではないはずでは?」


 ここはリースゼルグ達のいる中心から離れた壁際なので、今、私達の会話内容に気付いている者はいない。だけど、これ以上騒げば注目を浴びるだろう。


「貴様……っ! どこまでも、この俺を馬鹿にする気か……!」

「私はただ、大声で人を恫喝するようなやり方は、穏便な話し合いではないと思ったまでです。――あなたが勇者だというのであれば、落ち着きなさい。今日はフェンゼルの新王、リースゼルグの戴冠の日です。そんな日に騒ぎを起こしたら、あなたご自慢の『勇者』という肩書にも、泥がつくことになりますよ」

「……っ」


 今この場に集まっているのは、フェンゼルや他国の重鎮ばかりだ。新参者である私やリースゼルグのことは舐めていても、他の人達に自分の無礼さが知られるのはまずい、ということくらいは理解しているのだろう。ブレードルは、悔しそうに拳を握りしめた。


「それでは、私はまた他の方々へのご挨拶に行ってきますね。ごきげんよう」


 私は再度、にっこりと社交用の笑顔をつくり、人々の輪の中に戻ってゆく。


 ちなみに、事前に見ていた資料によれば。あの勇者とピピフィーナは、今日が終わっても、しばらく観光のためフェンゼルに滞在するそうだ。王都内の高級宿に宿泊するらしい。


 彼らが滞在中に、何も問題を起こさないといいなと思うものの――

 まあ、何か起こすんだろうな。やばそうな奴らだし。別に本人達が自業自得で痛い目を見るだけならいいけど……


 私や私の大切な人達に危害をくわえるようなら――絶対に、タダではすまさない。

読んでくださってありがとうございます!

第一部から少し間が空いてしまったのですが読んでいただけて、めちゃくちゃ嬉しいです!!

本当にありがとうございますー!!

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