表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/104

35・これにて大団円となります

 それからのフェンゼルは――平和になった。ただし、やることは山積みだ。


 何せ新生フェンゼルとして、従来の体制を変えていくこととなり、今まで放置されていた問題も片っ端から片付けないといけない。これまで前王に代わって仕事をしていた(押し付けられていた)臣下や、前王に仕えていても悪事を働いていない者、情状酌量の余地がある者には、引き続き仕事を与えることになった。同時に、悪事を働いていた者にはきっちり罰を与えることになった。


 新たな王となるリースゼルグは、毎日仕事に追われている。


「リースゼルグ、大丈夫?」

「えっ、何がでしょうか?」


 心配して声をかけてみたら、激務のはずなのに、何故か顔がキラッキラしてる。


「いえ、王として忙しいだろうし、大丈夫なのかなと思ったんですが……」

「そんな! 人々のために力を尽くせるんですよ! こんなに嬉しいことはありません! ああ、アレもやりたいしコレもやりたいし、どんどん国を良くしていけるんだ! 幸せだなあ、ふふふ……!」


 わあ、めちゃくちゃ楽しそう。この人、本当に王に向いてるな。

 激務なのは心配だけど、私が聖女として疲労を取り除いているから、まあ、倒れる心配はないだろう。


 私は王ではないけれど、日本の現代知識を持つ者として、リースゼルグにいろいろ案を出している。


 今まで呪いのため働くことが難しかった、職を求めていた人達には、まずは文字の読み書きと算術などを教えたうえで、現代日本での便利な道具についての知識を与え、掃除機や洗濯機など電化製品っぽい魔道具を製作してもらい、他国に輸出することで経済を回す。電力は魔力によって代用。浄化されたノアウィールの森からは豊富に魔石が採れるため、魔石が枯渇する心配もない。


 あと、平民の人達もお風呂に入れるようになったらいいなと思うので、魔石でお湯を沸かす簡単なお風呂も開発予定だ。衛生環境を整えれば病なども流行しづらくなるし、今後石鹸やシャンプーなどももっと流通させていきたい。


 それから、学校や病院の数を今より増やす。教育や医療の充実は大事だ。医療に関しては、聖女の私がいればなんでも治癒できるとはいえ、私だって休日はたくさんあった方が嬉しいし、私一人だけに頼るようなやり方は良くない。私に何かあったとき、全てが崩れてしまうことになるのだから。


 それから農業の発展と、税率の見直しと……いやもう本当に、やることは無限にある。


(でも……どんどん国が良くなっていくっていうのは、なんだか嬉しいわね)


 この国はこれから、もっともっと豊かになってゆくんだ――



 ◇ ◇ ◇



「ふう」


 私は今、聖女として王宮に住んでいる。

 今日も、今後のフェンゼルについてリースゼルグと話し合いをし、心地いい疲労感を覚えたところで、自分の部屋に戻ってきた。


「お疲れでしょう、ミア様。お茶をお淹れします」

「ありがとう、ヴォルドレッド。でもあなたは執事じゃないし、そんなことしなくていいのよ?」

「私がしたいのです。ミア様のお世話は、誰にも譲りません」

「そ、そう」


 なんだかくすぐったいけど、本人がやりたいのなら、好きにさせる。

 ヴォルドレッドが淹れてくれた、温かくて美味しいお茶を飲みながら、ふと笑みが零れた。


「最近忙しいけど……充実していて、楽しいわ」

「それは何よりです。民も、ミア様のおかげで生活が桁違いに改善されたと、皆感謝しております」

「ふふ。あなた最初は、私のいいところは自分だけが知っていればいいとか、閉じ込めておきたいなんて言っていたくせに」

「もちろん今でもそう思っておりますよ?」


 にっこり。お、おう。本当に本気で言ってるな、この男。


「……ですが、ミア様が幸せそうなのが一番です。私は、『自分のやりたいことをやる』あなたに、惹かれたのですから」

「ヴォルドレッド……」


 名前を呼んで、ふと、気付く。


「そういえば、少し前から思っていたんだけど」

「なんでしょう?」

「あなたって、本当の名前があるんでしょう? そっちの名前で呼んだ方がいい?」


 以前彼の話を聞いたところによると、彼はルベルシアにいた頃は、別の名前だったらしい。そっちが本当の彼の名、ということだろう。


 だけどヴォルドレッドは、少しだけ何か考えるようにした後、じっと私を見つめて――


「……いえ。ミア様と出会った私は、ヴォルドレッドですから」


 その言葉には、いろいろな想いが込められているみたいだった。


(……皮肉なことだけど、王がヴォルドレッドをフェンゼルに連れてこなければ、きっと私達は、出会うことはなかった)


 今の彼は、元の名で、元の国で、元の暮らしを取り戻すことができる。

 だけど彼はそれを全て捨て、私の傍にいると――


 過去のあらゆる呪縛から解き放たれ、自由になって、自分の意思で。彼は、私の騎士ヴォルドレッドであることを、選んでくれたのだ。


 胸の奥が熱くなり、目を細める。


「……そう。じゃあ、これからもよろしくね。ヴォルドレッド」

「――はい、ミア様」


 彼はまた、まっすぐに私を見つめてくれる。

 ……不思議なものだと思う。広場での投票の際に、フェンゼル側の布を紫にしたように。この国を表す色は、紫だ。けれど、彼の瞳の色も、紫なのだ。同じ色なのに、彼の瞳は、とても綺麗だと思える。


 この世界は当初、私に優しくなく、性根の腐った人間ばかりだった。

 そんな世界でも、彼といるうちに、悪いものばかりではない気がしてきた。

 同じ色でも、物によって見え方が変わるように。

 同じ世界でも、大切な人がいることで、こんなにも違う。

 そんなことを考えていると……ヴォルドレッドが、私の前に跪く。


「……ミア様。あなたにとって、自分と無関係なこの世界に来ることになったのは、本来は不本意なことだったのでしょうが」


 彼の瞳が、私を映している。紫水晶のような美しい瞳の中に、私がいる。



「……それでも。私と出会ってくださって……ありがとうございます」



 私は――

 人から舐められるのも、軽んじられるのも、腹が立つ。

 だけど、優しい言葉をかけてもらうと、無性に泣きそうになる。

 自分に、優しくしてもらえるような価値があるのか、わからなくて。

 だって私は、元の世界では、親からも恋人からも、愛されなかったから。



「ミア様」


 泣きそうになっている私の前で、彼は微笑む。

 甘く柔らかな笑みで、ただ私だけを見つめて――



「愛しています」







ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!

これにて第一部完結ですので、よろしければブクマや★★★★★をいただけますと、めちゃくちゃ嬉しいです! 既にくださった方は本当に本当にありがとうございます!


少し間が空いてしまいますが、第二部も構想中です! 第二部でもスカッと楽しんでいただけるよう、バリバリ執筆していきます!


また、こちらの作品は書籍化も決定しています。皆様のおかげです!!

詳細をご報告できる時期になりましたら、いろいろ情報公開していきますので、今後ともよろしくお願いいたしますー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓の表紙画像をクリックするとTOブックス様のページに飛べます!
ks2ngf0b4hki8m5cb4tne5af9u86_23_1jb_1zt_iq8w.jpg
― 新着の感想 ―
 前王が闇の精霊に気に入られているなら現王は光の精霊に気に入られていそうだな。
第一部完ッ!時間差感想で申し訳ございませんが、お疲れ様でございます。ありがとうございます(^O^)
第一部完結おめでとうございます ここまですっきりざまぁは少ないのでとても良かったです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ