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34・悪は滅びます

 そうして私達は、フェンゼル国王を捕らえた。

 いくつもの呪いをかけたまま、魔法錠による拘束で、絶対に身動きが取れないようにしている。


 同じように王女や、今まで王と共に国民を蹂躙していた王妃、臣下達も捕らえ、牢獄に入れた。


 それから私とリースゼルグ、他の様々な人達も交えて意見を交わして。


 ある日――王都中央街の大広場に、国の人々を、できるかぎり集めた。各地の領主達も呼び、転移魔法で来てもらった。他にも、魔法の鏡や伝令魔石で、各地と中継がとれるようにしてある。


 広場に集まった人々には事前に、二種類の、色が違う布を配布してある。

 私は、広場にあらかじめ用意しておいた、演台のような場所に上った。


「フェンゼル国民の皆さん! 私は聖女ミア!」


 拡声効果のある特殊魔石を用いて声を出すと、今まで私が癒してきた人、私の活躍を知っている人達から、「聖女様!」「ミア様!」と歓声が上がる。


「現国王は人々を蹂躙し、国を放置し、あまつさえベリルラッドの、罪のない人々を焼き払おうとしました。王座についているべき人間ではないと、私は考えます。――ですが私は異世界人でしかありません。この国のことは、この国の人間が決めるべきです」


 そうしてリースゼルグに、私の前に出てきてもらう。

 同時にヴォルドレッドに、拘束した王と王女を運んできてもらった。


「現在のフェンゼル王家。そして王家に、国の在り方について進言したことで追放された、元公爵リースゼルグ。どちらを、この国の王に選びますか!? 正直に選んでください。フェンゼル王家を選ばなかったとしても、私が、決して彼らに処刑などさせません。また、リースゼルグを選ばなかったとしても、私があなた達に非難の目を向けることはありません。この国のことを決める権利も、自由も、あなた達のものだからです。私は、その自由を侵害する気はありません」


 広場に集まった人々は、おおいに驚き、ざわめく。すると前列で、挙手した人がいた。


「質問です!」

「なんでしょう」

「聖女様は、王にはならないのですか!?」

「私は、元は異世界人です。この世界で王になるべき人間ではありません。ただ……リースゼルグが王になるのであれば、聖女として、できることはします」


 リースゼルグは、こちらに微笑みを向けた。私も微笑みを返す。


「ありがとうございます、ミア様」

「あなたなら、人に無償労働を強要することはないでしょうからね」


 人々は、ワアッと熱い歓声を上げていた。まるで、長い悪夢から覚めたかのような喜びで溢れている。


「ミア様がいてくださるなら安心だ!」

「我々はリースゼルグ様が公爵だったとき、たくさん救っていただいた。リースゼルグ様についてゆくぞ!」

「ああ。リースゼルグ様は、とても誠実な御方だからな!」

 

 そして――私はあらためて、フェンゼル国民達に問う。


「さあ、その布を掲げて! 王家を支持するなら紫、リースゼルグを支持するなら青色の布を上げるのです!」


 匿名投票の方がいいかと思ったけれど、それだと魔法で結果を改竄される可能性があると教えてもらい、この投票方法にすることにしたのだ。あとは、人々の判断を待つだけ。


 フェンゼル王家を現す色は、紫である。それはロディレーズという、薔薇に似た、この国の花の色。フェンゼルの国旗の色でもある。対して私達の色は青。この国で自由を表す、空と海の色。


 そうして、王都の中央広場が――

 一面の、青色に染まる。


 まるで、眼下に空があるかのようだった。その青の下には、人々の笑顔がある。支配を受ける時代の終わり、新たな幸せに向かってゆく、希望に満ち溢れた顔。それはとても――美しい、と思えた。


「我々を支配し、苦しめるだけの王家などいらない!」

「聖女ミア様が選んだ、新たな王についてゆく!」

「新しいフェンゼルを、皆で造っていくんだ!」


 ワアアアアッと、割れんばかりの歓声が巻き起こる。人々は興奮し、歓喜の涙を流す姿もあった。私も思わず、胸が熱くなる。


 拘束されたままその光景を見ていた王と王女は、信じたくない結果を突き付けられ――耐え難いショックだったようで、ぐらりと目を回す。


「こ、このようなことがあってたまるか……許さん! 決して許さぬぞ!」

「こんなの嘘……嘘ですわ! この私より、偽聖女と、偽聖女が選んだ王が支持されるなんて……っ!」


 王と王女にとってどれだけ受け入れ難かろうが、これが現実だ。決して覆ることはない。


 こうして、今までの王族が、残虐的に民を支配する時代は、幕を閉じたのだ――



 ◇ ◇ ◇



 フェンゼル国王――もう前国王だが――の処遇について、あらためて国民投票した結果。

 ほぼ全ての民が、王の処刑を望んだ。

 王と王妃、王女は、この国の処刑官によって正式に処刑されると決定した。


「ふざけるな! 私が国王だ! 私が国王なのだぁっ! 処刑など、ふざけるなぁっ!!」

「そうですわ! 何故この私が! 死ぬべきは他の愚か者どもですわっ!!」


「うるせえ黙れ」


 バシュッ。私は騒ぎまくる王と王女に、聖女領域に保存しておいた、以前ヴォルドレッドが瀕死になった傷と、私が王に刺されたときの傷を、死にはしないギリギリの程度で移してやった。「自分が殺してしまう」のは嫌だけど、こいつらはそもそも殺されても仕方ないことをしてきたし、正直ただの処刑じゃ生温い。このくらいなら全く心が痛まん。この傷は、そもそもこいつらが原因の傷だから自業自得だし。


「ぐ、ぐあぁ……っ、い、痛いぃ……!」

「お願い、助けてぇ……っ!」


 死にかけて、助けを懇願されたところで、傷を回収してやる。だけど、簡単に楽にはしない。


 王達は処刑当日まで牢獄に繋がれ、その間、今まで民が苦しんできた数々の呪いを、拷問のように味わってもらうことになった。身体の痛みや腐敗、下痢など。それから、今まで人々が味わってきた貧困や支配を、悪夢として味わう呪いも。


 王達は今まで、一流魔法官による強力な結界のある王宮で自分達だけ優雅に過ごしてきたから、呪いの苦しみなんて知らなかっただろう。人々の苦痛を知り、文字通り死ぬまで終わらない地獄の中でもがき、自分の行いを後悔しながら処刑されればいい。


 ちなみに、ワンドレアは――


「……ふん。俺を処刑したいなら、すればいいだろう! 今まで、なんだか雰囲気に流されて、お前らに味方してやっていたが。そもそもお前は、ちょっと聖女の力があるだけの小娘でしかない! どうせお前らだって、そのうち破滅するに決まっている!」


 強がるようにふんぞり返っていたが、その真意は見え透いていた。


「ワンドレア。あなたは私が、あなたの処刑に対して罪悪感を抱かないように、わざとそう言っているのでしょう?」

「はあ!? だ、誰がお前のためなんかに!」

「足が震えていますよ」

「うるさい!」


 強がっているが、本当は怖いのだ。なのに、心配をかけないよう、泣かないようにしている。――出会った頃とは大違いだ。


「ワンドレア、大丈夫ですよ。国民投票の結果、あなたは前国王や王女と違い、満場一致で処刑とは、ならなかったので」

「えっ!?」

「王都の人々を救おうとしたことが評価され、国民達に『更生の余地あり』と判断されたそうです。ただし、それ以前の行いが酷すぎたので、罰は受けていただきます。――アリサや、真来達と同じように」


 そう、アリサと真来は、王達のように処刑とまではいかないが、それぞれ罰を受けることが確定している。


 まずアリサは、偽聖女として王都を混乱に陥れた罪。自分の能力について知らなかったことに関しては情状酌量の余地があるものの、「完全に回復しないのは皆の心が汚れているのが原因」などと虚偽の発言をして民達を騙し、混乱を増した罪は大きい。


 真来は、金がなさすぎたようで、私の知らないところで貴族の馬車などから何件も盗みを働き、なんだか勝手に罪人になっていたのだ。馬鹿すぎる。


 アリサ、真来、そしてワンドレアはこれから監獄に収容され、囚人労働を強いられることになる。ちなみに、監獄の中で問題を起こせば、そのぶん刑期も延びる。逆に真面目に労働をして何らかの成果を出せば、刑期が短くなって出られる可能性もあるが――


(まあ、アリサは絶対無理でしょう。あの子が真面目に働くなんて、天地がひっくり返ってもありえない)


 真来はそもそも、「女の子と一生そういうコトできない呪い」にかかったままなので、出たところで、浮気性な彼にとっては辛い人生が待ち受けている。アリサと真来に、救いなどない。


 ただワンドレアは、もしかしたら出られる可能性があるかもしれない。それは、これからの彼次第だ。


 そうしてアリサと真来は、牢獄にぶち込まれ――私はその様子を見に行くことにした。


「お、お姉ちゃぁん! よかった、来てくれて! 私達姉妹だもん、助けてくれるよね、ねっ!」

「美亜ぁ! 俺にはお前しかいないんだ! 助けてくれ、なっ!」


(この二人、本当に相変わらずだな……)


「先に言っとくけど、私は、私が助けてほしかったときに私を助けてくれなかったあんた達を救ってやる気なんて、一切ないから」

「なっ! そ、そんな、じゃあなんでここに来たのよ!」

「あんた達の無様な姿を拝んでやるためよ」

「何それ、お姉ちゃん、酷い……!」


「ええ、私酷いの。子どもの頃からずっとあなたに酷い酷い言われ続けてきたから、本当に酷い奴になっちゃったみたい。だってアリサ本当に昔からずっと、『お姉ちゃんが意地悪なのぉ』だの『お姉ちゃんが怖いのぉ』だの周りに言いふらしまくってたものね。それを信じて『もっとアリサに優しくしてやれよ!』『アリサがかわいそうだろ!』とか言ってた真来も同罪だから」


「ご……誤解よぉ! お姉ちゃん、私のこと勘違いしてるわ!」

「そうだ! 話せばわかる、俺達、ちょっとすれ違っちゃっただけだって!」


「元の世界では私の話なんて全然聞いてくれなかったくせに、都合のいいときだけ『勘違い』だの『話せばわかる』だの、本当に自分勝手ね。というか私、浮気の件について、まだ謝罪すらしてもらってないんだけど? 自分が助かることだけ考えていて、私に謝ろうって発想はないのかしら。結局、あなた達はどこまでも自分のことばかりだし、言い訳ばかりなのよ」


「美亜ぁ! 反省してるって! あんなこと、二度としないから!」

「二度とも何も、一度した時点で駄目なんだよこの屑ども」

「こんな男いらない! お姉ちゃんに返すからぁ!」

「私だって絶対いらないわよ、返品してこないで。私を裏切ってまで結婚するつもりだったんでしょ、自分達の決断に責任を持ちなさい」

「そ、そんな……」

「ならせめて、俺にかけた呪いだけでも解いてくれよぉっ! アリサと再会したから、せめてもの憂さ晴らししようとしても、なんっにもできなくて……これ、お前のせいだろ!? こ、こんなの酷すぎるよぉ!」

「二度としないとか言いつつ、がっつりまたアリサとそういうコトする気だったんじゃねーか。あんたの呪いは、怪我を治してやった代償よ。あんただってあのとき同意したんだから、今更何を言っても遅いわ」

「そんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 涙と鼻水で顔を汚しながらも、まだ縋るようにこちらを見る二人の前で、私は息を落とす。


「ねえ真来、アリサ。私があなた達の前から消えるとき、最後に言ったこと、覚えてる?」


 私を軽んじている二人は、私の言葉など、綺麗さっぱり忘れてしまったらしい。だから、あのときと同じことをもう一度言ってやる。



「許さないから」



 にっこり。いい笑顔でそう言ってやると、二人はこの世の終わりのような顔をしていた。


「あんたらと話すことなんて何もないわ。今更何を言われたところで、私はあなた達のことが大嫌い。このまま牢獄で一生何の自由もなく、毎日過酷な労働だけして、自分のしたことを永遠に後悔し続けながら朽ち果てていきなさい。それじゃ、さよなら」


「そ、そんなぁ、美亜ぁっ! 頼む、せめて呪いだけでもなんとかぁっ! こ、こんなの嫌だぁ~~~~~~~!!」

「お願いっ、私が悪かったからぁ! 助けてぇぇ! 働かなきゃいけないなんて、耐えられない~~~~~~~~~~~~~~~!!」


 私は彼らに背を向け、縋る声を無視する。

 こうして、悪は滅びたのだった――


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― 新着の感想 ―
王子、支配の力を封じた上で、断種は必要だと思います…次代に恐ろしい能力を残さないためと、まかり間違って悪徳貴族に子孫が旗頭にされ、傀儡政権とかあり得ますし。 まあ、美亜が決めることではないんですけど…
王家をやっつけたから世界平和になったね! というか支配の能力かなり怖いからね 妹と元恋人は異世界来てもらったおかげさまでざまぁ出来たからその点は王女様に感謝だわ
完全勝利 悪は滅びる定めなのだ 第一部完結おめでとうございます&お疲れ様でした! クズ王達は処刑され家族(苦笑)は一生逃げられない厳罰を下されハッピーエンドですね!
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