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3・理不尽には徹底的に抗います

 そうして私は、使用人の女性に案内され、王宮の客室に通された。


(おお! 王族達は最悪だったけど、王宮なだけあって部屋は豪華だ)


 アンティークっぽい調度品の数々に、天蓋付きのベッドまである。

 試しにベッドにぼふっと寝転ぶと、ふかふかで気持ちがよかった。


 王族達は私に見張りをつけたがったけれど、私が拒否したため、室内には一人だけだ。向こうも聖女の力を失うわけにはいかないから、私のことが気に食わなくても、迂闊に手出しできないのだろう。


(それにしても……王族達が無礼すぎて、ついつい大口叩いちゃったけど。私って本当に聖女なの? どんな力が使えるんだろう。えーと、こういうときは……)


 以前読んだネット小説の数々を思い出し、とある言葉を口に出してみる。


能力開示(ステータスオープン)


 次の瞬間、目の前に、光の表みたいなものが出てきた。


「わ、本当に出てきた」


 高校時代に読んでたネット小説の知識が役に立ったぞ、と喜びながら、自分の数値を確認する。


・アオバ ミア

・聖女 LV100

・HP:208,633

・MP:9,218,330

・能力については、こちらを参照


 能力の欄は、「こちら」のところがリンクみたいになっていて、指で押したら取説みたいなのが出てきた。便利か!


「何々……? ふむふむ……」


(へー……聖女の力って、こういう仕組みなんだ)


 私はもう元の世界に帰ることはできないらしいし、聖女の力は、私がこの世界で生き、周りに軽んじられず、尊厳を保つための切り札だ。だからこそ熟読したけれど……


(これなら……これからも、充分この世界で生きていけそう)


 元の世界であんな仕打ちを受けたうえ、この世界もだいぶ腐ってるみたいだし、正直、生きていてもいいことなんてない気がする。


 だからといって、あいつらがのうのうと生きているのに、なんで私が死んでやらなきゃならないのか。理不尽だろう。


「私は……私を軽んじる相手に、折れたりしない。徹底的に、抗ってやる」



 ◇ ◇ ◇



 それからも三日ほど、聖女の力を使わない日々が続いた。

 王女は何度も私に「とっとと聖女の力を使いなさい」「自分の立場をわかっているんですの?」と言ってくるが、本当に困っていてお願いするなら、相応の態度というものがあるだろう。口汚く命令されて、なぜ従ってやらなければならないのか。


 私は「あなた方が私に今までの無礼を謝罪するなら、聖女の力を使います」と言ってみたのだが、王女は「無礼を謝罪するのはあなたの方ですわ!」と激昂するばかりだ。


 そのため私は、部屋に引きこもっていた。この国の人々も、どんなに生意気であれ「聖女」を弱らせるわけにはいかないとは理解しているようで、食事は、王宮にしては質素だがちゃんと持ってきてくれた。ちなみに、廊下で使用人さん達がもっと豪華な食事を運んでいるのを見たことがあるので、私の食事が質素なのは食料が足りないわけではなく、せめてもの嫌がらせなのだと思う。


 どうやら私はこの世界の文字であればなんでも読めるようだったので、侍女さんに本を持ってきてもらい、読書もした。できるだけこの世界の知識を身に付けて、今後の身の振り方を考えないといけないし。


 そんなふうに過ごしていた、ある日――

 私の前に、死体が転がされた。


「見なさい。あなたが聖女として働かないせいで、この国ではこんな被害が出ていますのよ」


 王女が、騎士に運ばせてきたようだ。私の部屋の床が、血で染まる。


(いや……待って。まだ、生きてる)


 死体と見紛うほど傷を負っていて、ボロボロではあるが、足元の人――騎士のような男性には、まだ微かに息があった。


「どうですの、この国の民は哀れでしょう? 全部あなたのせいですのよ! わかったらとっとと力を使いなさい!」


 こんなふうに、今にも死にそうな人を利用して、私に罪悪感を植えつけて。

 かわいそうでしょ、と、本人でもないくせに他人を盾に脅迫して。

 私を従わせて、勝ち誇ろうとしているんだ。この女は。

 ――反吐が出る。


「それとも、無能な聖女。あなたは、この哀れな騎士に死ねとおっしゃるのかしら?」

「はい。死ね」


 そう言ってやると、王女は絶句していた。

 けれど次の瞬間には激昂しそうだったので、王女が口を開く前に、こちらから言う。


「――なんて言ったら、どうせ『この人でなし!』と私を責めるのでしょう?」


 挑発して、失言を誘導して、実際にこちらが何か言おうものなら、鬼の首をとったようにはしゃぎ回って。――お前みたいな人間のやることは見えすいてるんだよ。


(まあ……この騎士に罪がないのは、確かだけど)


 私はこの人がどんな人で、なぜこんなことになっているのか、一ミリも知らない。だからはっきり言えば、この人がどうなろうが、私には関係ない。


 だからといって、自分に助けられる力があるのに、このまま放置して死なせるのはさすがに後味が悪い。私の精神衛生上、悪そうだ。


 仕方ないから、無詠唱で誰にも気付かれないよう、聖女の力で痛みを消し、致命傷となる傷だけ癒してやった。誰のためでもない。私のためだ。


(――でも、これを当たり前にしたくない。『こういう手段を使えば、こいつは力を使うんだ』なんて思われたら最悪だ)


 幸い、王女も周りの人達も、私が既に聖女の力を使っているなんて全く気付かず、怒りで顔を真っ赤にしている。


「何度も言いますが、この世界でのことは、この世界の人々や事象のせいであって、私のせいではありません。無関係の私に力を使えと言うなら、相応の態度というものがあるでしょう、と。これまで何度も言ってきましたよね?」


(いや本当に、一体何度言わせる気なんだよ)


「こんなふうに、死にかけの人間を前にしても、あなたはそんなことを言うんですの! あなたなんて聖女ではありませんわ、この人でなし!」

「こんな大怪我をしている人がいるのに、あなただって私を責めるだけで、自分でこの人の手当てをしようともしていないでしょう。私を罵る暇があるなら、止血くらいしてあげたらどうですか」

「あなたが聖女の力を使えばいいだけでしょう! 私は、この騎士を救うために、あなたを叱って差し上げているんですのよ! これが私の優しさですわ!」

「あなたはこの人を助けたいわけじゃなくて、この人を利用して私を従わせたいだけでしょう」

「私は、あなたみたいな人でなしとは違いますわ! 私に聖女の力さえあったら、絶対にこの騎士を救ってあげましたもの! ああ、こんなに傷ついて、かわいそうに! できることなら代わってあげたいくらいですわ!」


 王女は大仰にそう言う。「優しい自分」に酔っているみたいだ。いやだから、心配するくらいなら、自分で何らかの手当てとか処置とかしてやれよ。聖女の力がなくたって、王女なんだから医師とかこの世界の回復士にいくらでも命令を下せるだろうに。


「……へえ。それが、王女様のお気持ちというわけですね」


 いいかげん、我慢の限界だった。

 こういう類の人間には、言葉なんて通じないんだ。元の世界のあいつらのせいで、私はそれをよく知ってしまっている。


 話し合えばわかる、なんて綺麗ごとだ。そもそも話し合いなんてもの、お互い、相手の話にちゃんと耳を傾けようという理性があって初めて成立するもの。――どちらか一方が、「一方的に自分の話を聞かせたいだけ」で相手の話に聞く耳を持たないのなら、それは「話し合い」ではなく単に「わからせてやりたい」というだけだ。


(そんな相手に、まともに相手をしてはいけない。まともじゃない人間にまともに対応しようとすれば、こちらが心を削られるだけなんだから)


 だから――私も、「まとも」でいることなんて、やめてやる。

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