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23・妹は王子にふられます

今回はアリサと王女の話です。

 王宮にて――王女は変わらぬ日々を送っているが、アリサの日常は、元の世界にいた頃から、がらりと変わっていた。


 王女達はミアの、ノアウィールの森での活躍をまだ知らない。ベリルラッド村から報告書は送られているのだが、王女は各地からの報告書なんて、ろくに見ないからだ。ベリルラッドの魔法官は、仕事なので王宮魔法官に伝令魔石で森の件について報告したものの、王宮魔法官は「王女殿下が偽聖女の活躍を知ったら、絶対に機嫌が悪くなって八つ当たりされる……」と怯え、報告を隠していた。


 そしてアリサは今日も、王女の命令で「真の聖女」として街に引きずり出され、力を使わされている。

 王女が日々、休憩もなく力を使わせようとするため、魔力の少ないアリサは、すぐにげっそりしてしまう。「私、身体が弱いのでぇ……」なんて泣き落としも、傲慢王女の前には無意味だ。


 しかもアリサの偽物の力では、癒しても癒しても、時間が経過すれば傷も呪いも元に戻ってしまうため、終わりがない。昨日癒したはずの人が再びやって来て、また力を使う羽目になる。それも結局一時しのぎでしかないので、無駄に魔力を消費しているだけである。


 ただでさえ少ない魔力を、毎日尽きるほど使わされて……。アリサは魔力の枯渇によって、男性好みの豊満だった身体は痩せ衰え、髪や肌からも艶が消えてきた。


 そこまで働かされてもなお、王女は「私が召喚した聖女の手柄は、私のものですわ!」と豪語し、民達には感謝を求めるくせに、アリサには何の報酬も渡さないのだ。


 アリサは最初、かわいこぶりながら何とか王女を自分の意のままに操ろうといろいろ演技していたのだが、毎日魔力を使わされるうちに疲れ果て、次第にそんな気力も削がれてきた。それでもやはり、今の扱いは我慢ならない。


「あの、王女様」


 ある日アリサは、王宮の庭園で一人、優雅にアフタヌーンティーをしていた王女に、顔をひきつらせながら言った。


「私のぶんのお茶やお菓子も欲しいのですが?」

「……? なぜですの?」


 王女は、心底不思議そうに言う。

 ミアのことを生意気だと思って冷遇していた王女だが、そもそも王女にとって自分以外の人間など虫ケラでしかなく、「自分のために何かして当然」なので、相手が誰であろうと感謝などしないのだ。


「いや、だって私、毎日こんなに力を使わせられているんですよ……? なのにお茶すら用意されないって、おかしいですよね。王女様は、そんなに豪勢なアフタヌーンティーをしているのに」

「私は王女。王族ですわ。他の人間と違うんですの。この国で最も豪勢な食事を口にするのは、当然でしょう」

「……でも私は、毎日真の聖女として働いているでしょう?」

「ええ。私のおかげで毎日働けているのだから、感謝なさい」


(こ、こんのクソ王女……! ぶん殴ってやりたい!)


 そう思うものの、偽聖女のアリサにはミアのような「傷を移す」能力はない。だからこそ、王女に手を出せば処刑されてしまう。そのため、逆らうことができない。


「でも、私も美味しいものが食べたいんです! 日本では、からあげとか、とんかつとか、たくさん美味しいものがあったのに、この国にはないし!」


(お姉ちゃんが作ってくれたからあげ、美味しかったなあ……。また食べたい……ああもう、お姉ちゃんなんて私の召使いなのに、なんで傍にいないのよ!?)


「だったら、厨房を貸して差し上げます。真の聖女、あなた、異世界の料理を作りなさい!」

「えっ!? 私が!?」

「だって異世界の料理について知っているのは、あなただけでしょう。そのレシピを他国に広めてやれば、他国から私が尊敬の目で見られますし、金になりますわ! それに、自分で作ったものは、自分で食べていいですわよ。私は優しいので、そのくらいは許して差し上げますわ」


(そう言われても……私、料理なんてやったことないし。お姉ちゃんにやらせるのが当たり前だったから……)


「元の世界で、姉や子ども達に料理をしていたんでしょう。そのくらい簡単ですわよね?」


 以前アリサは王女に、そう嘘をついていた。今更「嘘でーす、全部押し付けてました☆」とは言えない。


「わ……わかりました」


(まあ、お姉ちゃんにできてたんだから、私にもできるでしょ。そうよ、今の私は聖女なんだし、適当に作ってもおいしくなるかも)


 そうしてアリサは、ろくなレシピもわからず、初めてからあげを作ってみた。

 真の聖女様が異世界の料理を作っている、という話を聞いて、王宮騎士達も集まってくる。


「アリサ様が作ってくださったのか!?」

「アリサ様の手料理を食べられるなんて!」


 王宮騎士達は、アリサの上辺に騙されて、いまだに彼女をちやほやしていた。

 騎士達も王女も、期待を込めて「聖女様手作りの異世界料理」を食べたのだが――


「ゲホォ! なんですのこれ、豚の餌ですの!?」

「うげぇ、まっず。食えたもんじゃないな……」


 あまりの大不評っぷりに、アリサは慌てて清純な聖女ムーヴをかます。


「すみません。異世界では人気の料理なんですけどぉ……この世界の方々のお口には、合わないみたいですね……くすん」

「まったくですわ。あなたが責任持って全部食べなさい」


 王女はそう言って、ゴミを見る目でアリサを見る。


「はあ。あなたって本っ当に役立たずですわね! あなたのせいで、『何度力を使ってもらっても、身体がよくならない』と、民がうるさいんですのよ」


 王女の言葉に、騎士達も同意を示す。


「それは確かに。俺達も、怪我して癒してもらっても、すぐ元通りになっちゃうんだよなあ……」

「それに最近、アリサ様、美しさも衰えてきたし……」

「んな……っ!?」


 アリサが口をパクパクさせていると、王女はふっと息を吐き出した。


「せっかく召喚してあげたのに、あなたがそんなんじゃあ、召喚者である私の恥になってしまうでしょう。そうですわ……執事、『アレ』を持ってきなさい」

「かしこまりました」


 傍に控えていた執事は慣れた様子で、何か持ってくる。すると――


「ぎゃあああああああああああああ!?」


 アリサはもう演技も何もなく、野太い悲鳴を上げる。

 王女が、執事に持ってこさせた鞭で、アリサを打とうとしたのだ。

 間一髪のところで避けたものの、アリサは涙目になっていた。


「な、何するのよ!」

「何って、鞭打ちですわ」


 王宮の人間は、王女が気に入らない相手に鞭打ちをすることに慣れていて、驚きもしない。


「自分の傷を自分で癒していれば、聖女の力が上がるかもしれないでしょう? これも、あなたの力を上げてあげるためですわ。感謝なさい」

「ふ……ふざけんな、冗談じゃないわっ!」


 アリサは、王女達の前から逃げ出し――

 廊下で、王子とぶつかった。


「何か騒がしいが、どうしたんだ?」


(やった、王子だ!)


 もともとアリサはこの世界に来たときから王子を落とすつもりだったのだが、何故か王子は最近忙しそうで、なかなか捕まえられなかったのだ。


「王子様ぁ! 王女様が酷いんですぅ! ふぇ~ん、助けてくださぁいっ」

「イジャリーンが? そうか……後で言っておこう」


(やだ、優しい~。私に気があるんじゃない?)


「ねえ、王子様ぁ……。私、いい考えがあるんです。王子様と、聖女である私が結婚すればぁ、国のためにもなると思うんですけどぉ」


(王妃になれば、私だって贅沢三昧だし、あんな王女追放してやるわ!)


「え、君と結婚? 無理だ」

「んなっ!?」


 あっさりふられ、アリサは目を剥く。


「ど、どうしてですか!?」

「その、あー……」


 王子は戸惑うように視線を彷徨わせながら、ごにょごにょと言った。


「俺は……実は、君の姉のことが、気になっているんだが」


 アリサは、ピシッと凍りつく。

 だが、すぐに気を取り直した。姉のことを好きな男だからこそ、寝取ってやればいい、と。真来がそうだったように――


「王子様は、お姉ちゃんに騙されているんですぅ……。お姉ちゃんってば酷いんですよ。元の世界で、いつも私を虐げていてぇ……」

「いや、それは嘘だろう?」

「なっ、なんで嘘だなんて思うんですか?」

「あの聖女がそんなことをするとは思えない。彼女は……悪い女ではないと思う」


(――な)


 元の世界では、ミアの欲しいものはなんでも嘘泣きで奪い取ってきたアリサである。ミアが誕生日プレゼントに貰って大切にしていた人形も、ミアが自分のバイト代で買った洋服も、ミアが行くはずだったコンサートのチケットも……両親の愛情も、果てには婚約者まで。


 どんな男だって、アリサが傍に寄れば、ミアよりアリサを選んだ。「お姉ちゃんって本当は酷いのぉ」と目を潤ませれば、誰もが「それは酷いな! 許せない!」とアリサの味方になってくれた。


 だけどワンドレアは、アリサに見向きもしない。


「なあ、そんなことより。日に日に民達の混乱や苦しみは募っているみたいだ。俺も最近、医師や回復士達に命じて治療させてはいるが、普通の回復士では、呪いには対応できない。何か異世界の知恵があるなら、教えてくれると助かるんだが……。あっ、役立つ知識を教えてくれれば、何らかの礼はするつもりだ。無償労働はよくないと、あの聖女に言われたから……」


(そ、『そんなこと』よりって……。しかも、お姉ちゃんに言われたから……?)


 自分が結婚をチラつかせたのに、それをすごくどうでもいいように言われ、アリサのプライドは粉々だ。アリサの、女の勘が告げている。この男を落とすことはできない、と――


 大体、異世界の役立つ知識だって持っていない。さっき、からあげを作って恥をかいたばかりなのだ。


 何もかも上手くいかなくて――狙っている王子の前であるにもかかわらず、アリサはぐしゃぐしゃと頭をかきむしった。


「もう嫌! こんな生活、嫌ぁぁぁぁぁぁ! 元の世界に帰してぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

書籍化決定しました……!

詳細につきましては、発表できる時期になりましたら、あらためてご報告いたしますので、気長にお待ちいただけますと嬉しいです!

これも皆様のおかげです!!

本当にありがとうございますーーー!!!

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― 新着の感想 ―
書籍化したらすぐ買います!期待してます!がんばれええええええええ!
書籍化おめでとうございます。 現在、投稿開始から2週間弱で約七万字。 こんなに早く書籍化が決まる事が有るんですね。
書籍化おめでとうございます!
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