22・「聖女の加護付きからあげ」になります
「ミア様、誠にありがとうございます!」
「まさか瘴気が浄化されるなんて……本当に、夢のようです」
「呪いを消していただいたおかげで、すごく身体の調子もいいんです! ミア様のおかげです!」
村の広場の、木のテーブルの上に、皆さんが作ってくれた料理が並べられている。私はありがたく、その料理をいただくことにした。
(ふふ、とっても嬉しいな)
ただ、やはり異世界の村なだけあって、調味料は圧倒的に足りない。
料理といっても、基本的に野菜を焼くか煮るかして、僅かな塩をふっただけなのだ。現代日本の食卓を知っている身としては、素材の味そのまますぎる。
別にケチっているわけでもなんでもなく、調味料なんてものは高級品すぎて、この村の人達には手が届かないのだ。むしろ、こうして料理を振舞ってもらえるだけでも、本当にありがたいと思う。
(どうせなら私も、何か料理を振舞ってあげられたらいいんだけど。とはいえ私も、塩も砂糖も持っていないしな……)
何かできないものだろうか、と考えていると。常に私を見ていて、私の機微に敏感なヴォルドレッドが、何か察したらしい。
「ミア様、よろしければ私の持ち物をお使いください」
そう言って、ヴォルドレッドはこっそりと、私にいくつかの革袋を渡す。
中に入っていたのは、白く透明な粒。塩や砂糖のようだ。
「え!? これって……」
「こんなこともあろうかと、ミア様に救っていただいた後、私のアイテムボックスに入れておいたのです。他の食材や調味料も一通り揃っています」
ヴォルドレッドは、アイテムボックス内のリストを出してくれる。能力開示のときの、光の表みたいなやつだ。リストには胡椒や油、お酒もある。
「すごい……。よくこんなに集めておけたわね」
「王宮の食糧庫から、密かに奪いました」
「………………ま、まあ。私、王都であれだけ人を癒しても、王族から報酬とか貰ったわけじゃないしね。その対価と思えば、使ってもいいわよね」
「はい。それに私は、従属の呪いによって騎士団長として働かされていた頃、かろうじて衣食住は与えられていても、給金は支払われていませんでした。それを考えればこの程度、貰って当然です」
「お給料なかったの!?」
「ええ。呪いがあるからどうせ何も与えなくとも働くと、見返りなど何も与えられませんでした」
本当に無償労働強要王家だったんじゃないか。知れば知るほど最悪さが判明していくな。
「そう、だったら当然の対価ね。遠慮なく使ってしまいましょう」
私はヴォルドレッドから調味料を受け取ると、村の人達に声をかけた。
「あの、どこか調理場を貸してもらえませんか? 私も皆さんに、料理を作ります」
「そんな。ミア様に料理など、していただくわけにはいきません」
「いいんです、私も皆さんに、異世界の料理を味わってみてほしいですから。レシピをお教えしますので、よかったら皆さんも作ってみてください」
そうして私は、村人さんの家のキッチンを貸してもらった。
(森で倒した、鳥っぽい魔獣のお肉があるから、あれを使っちゃおう。王宮では王女の嫌がらせで質素な食事ばかりだったし、ひさしぶりに揚げ物とか、食べたいけど……)
おそらくこの村人さん達は揚げ物なんて初めてだろうし、ただでさえ栄養不足っぽいのに、いきなりそんなもの食べたら胃がびっくりしてしまうかもしれない。いや……
(聖女の力に、能力向上があるし。揚げ物に加護を与えて、美味しいまま身体に優しくできるのでは?)
そう考え、早速料理することにした。魔獣をヴォルドレッドにスキルで解体してもらうと、魔獣はたちまち、スーパーで売っているような「お肉」になった。
一口大に切ったお肉をボウルに入れ、塩胡椒と酒少々、すりおろした生姜とにんにくを加え、よく揉み込む。粉をまぶし、油で揚げる。菜箸がなくたって、細長い木の棒があればオッケー。浄化と能力向上で完全に殺菌できるから汚くない。
「どうぞ、召し上がってください」
テーブルに運ぶと、皆さんは目を見開いていた。
「なんですか、これは? 見たことがない料理です。けど、すごくおいしそう……」
「なんていい匂い……。食欲がそそられますね」
「『からあげ』っていうんです。食べてみてください」
揚げたて熱々のからあげを食べると、皆さん目を輝かせて――
「お、美味しい! なんだこれは!?」
「こんな美味しいもの、初めて食べました!」
「サクサクしてて、食感も面白い……!」
「よかった。たくさん食べてくれると嬉しいです」
皆さんにとっては食べ慣れないものだろうけれど、「聖女の加護付きからあげ」であるため、いくら食べても身体を壊すことはない。むしろ、一時的にだけど食べた人達の能力値が上がる仕様になっている。
「せーじょさま、『からあげ』すっごくおいしいー!」
「こんなにおなかいっぱい食べられるなんて、幸せ~!」
村の子ども達も、ニコニコとからあげを頬張っている。その姿を見て、お母さん方はほろりと涙を浮かべた。
「子ども達に、こんなに美味しいものを、お腹いっぱい食べさせてあげられるなんて……。聖女様、本当にありがとうございます」
「いえ。私も、喜んでもらえて嬉しいです」
その姿を見て、ふと思う。日本での、アリサの子ども達はどうしているだろうか。アリサは最低であっても、子ども達に罪はないし、私にとっては可愛い姪っ子達だった。
(お父さんが引き取ったらしいから、もう大丈夫だよね……元気に生きていてくれたらいいな)
私も私で、この世界で生きてゆく。そのために、考えを巡らす。
(こういう元の世界のレシピとか、現代知識で成り上がっていくのって、異世界もののお約束だよね。森で魔石が採れるんだったら、日本の電化製品っぽい魔道具を作って売るのもアリだろうし……)
やれることはたくさんある。私一人の力では足りなくても、きっとこの村の人達は力を貸してくれる。「追放」されたはずなのに、追放前よりむしろ希望が溢れていた。
(うん。これからも食生活や生活環境を、どんどん整えていくぞ!)