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21・浄化の力で感謝されます

(瞬殺だったな……)


 あらためて、この聖女の力のチートっぷりを思い知る。こういうことができるのだろうな、とは想像していたけれど、目の前で実際に魔獣が倒れるのを見ると、やっぱり驚く。


「……えーと。倒した魔獣ってどうすればいいんですか?」


 ネット小説の中には、魔獣は倒すとアイテムをドロップした後消滅してしまう、みたいな設定のものもあるけど。目の前の魔獣は消えることなくその場に倒れたままだ。


 すると、ヴォルドレッドが言う。


「魔獣の牙や骨は、武器や魔道具のための、貴重な素材となります。私は固有スキルで『アイテムボックス』も『解体』も持っていますので、この魔獣は、保存しておいて後で解体しましょう」


 ちなみに、魔獣が死んだ後であれば、傷を取り除いても、息を吹き返すということはないみたいだ。そのため、攻撃に使った傷はしっかり回収しておく。


 そうして私達はガンガン魔獣を倒しつつ、森の奥へと進んで――

 やがて、目的の場所に辿り着いた。


「これが、この地の瘴気の発生源である沼ですね」


 目の前には、いかにも異様な沼。

 淀み、濁り、紫色に染まっている。

 すると、リースゼルグさんが説明してくれた。


「はい。こういった瘴気の発生源となってしまった場所が、現在この国には各地に存在します。瘴気は人々に呪いを与えるほか、魔獣を強化し、凶暴化させます。それぞれの街や村は、魔法官の力で結界を張って、魔獣に襲われるのを防いでいますが……。魔力というものは揺らぎがあり、月の満ち欠けなどにも影響され、『魔力が強くなる日』があれば『魔力が弱まってしまう日』というのも、あるのです。飛行型魔獣には都を囲む壁も意味がありませんし、そのせいで、人々は苦しむ羽目になってしまっているのです」


 今まで治癒してきた人々の、傷や呪いに苦しむ姿と、それを治したときの笑顔が脳裏に過る。


「それじゃ、とっとと浄化しちゃいましょう」


 傷や呪いの除去だけでなく、穢れたものの「浄化」もまた聖女の力だ。

 私は目の前の沼に手をかざし、力を使った。


(お。さすがに今までみたいに、簡単じゃないっぽいな)


 ここの瘴気はかなり強固なようで、一瞬でサクっと浄化、というわけにはいかなかった。


(でも、力を全開にすれば、いける)


 ぶわっと、聖女の光り輝くオーラを噴き出す。

 その輝きで、沼を包み込むイメージをした。


「すごい……」

「なんて美しいんだ……」


 騎士さん達は、私の出す聖女の光の美しさに目を奪われていた。

 そうして、瘴気の発生源である沼は光に包まれ――

 紫色に淀んでいた沼が、まるで澄んだ泉のように変わった。


 更に――瘴気が消えた影響なのだろう。魔女の森のように暗かった森が、一瞬にして緑美しい森に変わる。変わるというか、元に戻ったのだろう。瘴気の影響を受けてしまう前の森に。


「う、うわああああああああああ!! 森が、美しかった頃の森に戻った!」

「すごい、すごすぎます、聖女様……!!」


 騎士さん達は、割れんばかりの歓声で私を称えてくれる。喜んでもらえたのは嬉しいけど、そんなに褒めてもらえるのはくすぐったい。


 けれど皆本当に嬉しそうにしてくれていて――私ははっと、あることに気付く。


「なんと……このような……」


 リースゼルグさんの目から、一筋の涙が伝っていたのだ。


「申し訳ございません、聖女様。どうしても、感極まってしまい……」


 彼は涙を拭うが、その目はまだ、夢の中にいるかのような熱を秘めていた。


「これが、私の見たかった光景なのです。この国は本当は、美しい国なのです。なのにいつしか、瘴気と魔獣によって、元の姿を失って……。まさかこのような光景を、取り戻せるだなんて」


 リースゼルグさんは、崇高なものを前にしたように、ゆっくりと私の前に膝をついた。


「ミア様。フェンゼルの民として、この御恩は、一生かけてお返しいたします」

「リースゼルグさん、頭を上げてください」

「リースゼルグ、とお呼びください。私は今後、ミア様のためなら、どのようなことでもいたします」

「そ、そんな。大袈裟ですよ」

「いえ。あなたは、それだけのことをしてくださったのです。このノアウィールの森が浄化されたなら、果実も魔石も、今までよりずっとふんだんに採れるようになるでしょう。人々の暮らしがいっそう豊かになり、多くの者が救われます。本当に、どうお礼を申し上げていいか……」


(……やっぱりこの人は、心からこの国と、民のことを想っている)


 できれば、こういう人に王になってもらいたい。

 もちろん、王といえば他国との駆け引きなども重要だし、民を思う気持ちだけでやっていけるほど甘くはないだろうが――

 少なくとも、あの王族達よりはずっとマシだ。


 そんなことを考えていると、ヴォルドレッドが、ふっと小さく息を落とした。


「……ミア様にとって有益な人間が増えるのは、ミア様にとっては喜ばしいことなのだろうが」


 彼は美しい顔に渋い表情を浮かべ、皆に告げる。


「覚えておくように。誰よりミア様に忠誠を誓い、ミア様のお役に立つ騎士は私だ。ミア様のお傍は、他の誰にも譲らない」

「こんなこと言ってますが、別に覚えておかなくていいですからね、皆さん」


 激重騎士の戯言です。テストには出ません。


 そんなこんなで、瘴気の浄化を終えた私達は、ベリルラッド村に戻って――


 村の人達は、私の歓迎と、浄化への感謝のための宴を開いてくれることになった。

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― 新着の感想 ―
地の文がリズミカルで本当に面白い。 さくさく読める。
ところで傷の移動って、対象のサイズで変化したりします? たとえば、長さ15cmの切り傷とか、人間でもけっこう深傷ですが、ネズミだと致命傷だし、クマでもそれなりの期間行動に支障の出る傷ですが、マメンチサ…
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