12・追放? 喜んで出て行きます
●アリサside
「ふふ、うふふふふ……! やった、やりましたわ! やっぱり私にもできましたわ! ま、高貴な私なのだから、当然ですけど!」
アリサが次に目を覚ますと、まるでファンタジーに出てくるお城の広間のような場所に立っていた。
足元には大きな魔法陣があり、目の前には――金髪縦ロールの、まるで王女様のようなドレスに身を包んだ女が立っている。
(はあ? 何よこの女。やけにキラキラした格好しちゃって。私より目立つじゃん、ムカつく)
煌びやかな王女の姿に、アリサはさっそく苛立ちを感じた。だが対照的に、王女は目を輝かせている。
「よくお聞きなさい! あなたは聖女……いえ。クソ生意気な偽聖女を裁き、この世界を救う、『真の聖女』ですわ!」
「私が……この世界を救う、聖女?」
それを聞いてアリサは、今まで怪訝な顔で王女を見つめていたものの、途端に顔を輝かせた。
(それって……私が選ばれし、特別な存在ってことよね。異世界でちやほやされたいって願ったら、本当にその通りになったなんて!? 私ってやっぱり、最高に運がいいわ!)
「私はこの国フェンゼルの王女、イジャリーン。あなたをこの世界に召喚して差し上げた張本人ですわ。わかったら私に感謝して、私のために尽くしなさい!」
聖女召喚の儀式――それはこの国において、王族にしかできない最上級の魔術儀式である。尋常ならざる魔力を消費するがゆえに、そう簡単に、何度も行えるようなものではない。
けれど王女は、宝物庫に封印されていた禁断の魔石をこっそり持ち出し、儀式の魔力源として使用してしまった。もちろん誰にも言わず、自分だけの判断で、である。
本来許されざる行為なのだが、愚かな王女は罪悪感など欠片もなく、ただ自分にも聖女が召喚できたことに喜んでいた。アリサも、これから華やかで贅沢三昧な日々を送れるのかと思うと、期待で胸が膨らんでいた。
(この女は、なんか態度デカくてムカつくけど……。ま、王女より聖女の方が世界から必要とされる存在だろうし、私の魅力でこの世界の男どもを虜にして、こいつが私を虐げた加害者だとか適当にでっちあげちゃえばいいわ)
そう考えたからこそ、アリサは上辺だけ、清純な女性を演じた。今まで、元夫や真来を騙してきたときと同じようにするだけなので、アリサにとってはそんな演技などお手のものだ。
「はい、王女様。私、聖女としてせいいっぱい頑張ります」
「うふふ、従順ですわね! それでこそ聖女! あのクソ生意気な偽聖女とは大違いですわ~!」
にこやかに笑いながらも、アリサはこれからのことについて、妄想を広げる。
(王女がいるってことは、王子とかもいるのかしら? イケメン王子を落として王妃になって贅沢三昧な日々、なんてのもいいんじゃない!?)
そこまで考えて、アリサはもう一つ、とあることに気付く。
(あれ? そういえば、真来はどうしたのかしら。一緒に倒れたから、一緒にこの世界に来たのかと思ったけど……どこにも見当たらないわね)
広間の中には、王女とアリサの二人きりだ。真来の姿はどこにもない。
(ま、いっか! 私はこれから聖女としてこの世界でちやほやされて、イケメン王子と結婚するんだから。あんな奴のことなんかどうだっていいわ)
そうしてアリサも王女も、満足げな笑顔を浮かべるのだった。
最終的には無惨な破滅を迎えるのだと、今はまだ、何も知らずに――
◇ ◇ ◇
●ミアside
「聖女様。王女殿下がお呼びです、至急、広間までいらしてください」
王都の人々に聖女の力を使った翌日――私は、使用人さんによって広間に呼び出された。仕方なく、ヴォルドレッドと共に向かう。
「うふふ、来ましたわね、偽聖女!」
広間には王女と、他にも王子など召喚のときにいた面々が全員揃っていて、王女はその中心に立っていた。なぜだろう、妙に機嫌がよさそうだ。この王女が機嫌がいいということは、また何かろくでもないことを言い出すのだろう。
「聞きなさい、偽聖女。あなたは聖女としてお兄様に召喚されておきながら、私達王族の言葉に従わず、あまつさえこの私に酷い暴虐を働きましたわ! あなたのような人間は必要ありません! この私、王女イジャリーンの名において、あなたをこの王宮から……いえ、王都から追放しますわ!」
王女は、ドヤ顔でそう言った。皆の前で追放してやるために、わざわざ王子や他の騎士達を集めたのだろう。ちなみに他の人達は、私を追放すると事前に聞かされていなかったようで、ひどく驚いた顔をしていた。
とはいえ私は、王女が私に不満を溜めすぎていることはわかっているし、別に追放されても聖女の力で生きていけるだろうし、これはむしろいい機会かもしれない。
「あ、はい。ここにいるとあなたがうるさいから、そろそろ出て行こうと思ってたんで、喜んで」
「なあっ!?」





