お姫様は六十代!
ふと思いついたネタを作品にしてみました。
ご笑納いただければ幸いです。
異世界召喚されて、勇者とか呼ばれたのはいいとしよう。
それで金貨五十枚持たされて、魔王を倒せと城から放り出されたのも、まあよしとしよう。よくはないけど。
最終的には最強になるとはいえ、呼ばれたばかりのレベル1状態。
下手すれば最弱魔物にも殺される可能性があるのに、なぜ一人旅?普通、訓練したり護衛とか付かない?
まあ召喚チートなのか、読み書き・言葉には不自由しなかったから、もらったお金で武装を整えて旅立ったけど。
慣れない異世界での日常生活に一人旅の苦労、魔物との数限りない戦いを潜り抜け、ついには魔王を単騎で倒したんだから、我ながら自分を褒めてあげたい。よくやった、俺。
もらったお金なんか小銭に感じるくらいに、魔王城から現金や宝物財宝をふんだくって凱旋したお城で、褒美として与えられたのは王様の第8女というお姫様との結婚だった。
……少しだけ嫌な予感はしていたのだ。
玉座にふんぞり返った王様が、だいぶお歳を召してらっしゃるなぁ、とか。
たぶん七十は越えてるよな、あのジジイ。下手したら八十代?
それでも、王子も何人かいるだろうし、8女なら若い方じゃないかなと思って頷いてしまったのがいけなかった。
城内の一室で引き合わされたのは……王族にしては質素な、よく言えば清楚な飾り気の少ない細身のドレスを身にまとった老婦人だったのだ。
「お初にお目にかかります、勇者様。
わたくしは現王の第8王女、シャーロットと申します。」
お年のわりにしっかりと伸ばした背筋で品のあるカーテシー?で挨拶をするシャーロットさん。
さすがに豊麗線や目尻のしわは隠しようもない。
しかし、長く真っ直ぐ伸ばされた艶のある金髪や、肌のはりといい白さといい美魔女と言っても過言ではないけど……いかんせん、どう見繕っても自分よりは30以上、下手すれば40は年上。
いや、元の世界の王族だって、王様が現役ならその娘は王女だけども!
八十の王様なら娘が六十代でもおかしくはないが!
その年上のお姫様と結婚することになったらしい勇者とは、何を隠そう俺のことだ!ある意味、真の勇者だな!
驚き、戸惑う自分の様子を見て少し困った様子のお姫様(たぶん六十代)。
苦笑まじりで話すには。
「やはり、わたくしのことをご存知なかったようですわね。
申し訳ございません、勇者様。
国王陛下には、わたくしを含めて15人の王子と22人の王女がいるのですが……。」
ハァ?なんというハーレム野郎だ!
あの国王は化け物か⁈
「他の王女たちは皆、すでに嫁いでいたり、あるいは嫁ぎ先が決まっておりまして、自由になる王女がわたくししかいなかったのです。
このような嫁ぎ遅れをあてがわれ、さぞご不快でございましょうが、どうかお許しくださいまし。
陛下には陛下のお考えがあると存じますが、形だけでも婚姻を結んでいただければ、あとは勇者様のご自由にお過ごしいただいても構いませんので。」
……落ち着いて話を聞いてみると。
あのハーレム絶倫国王様は、たくさんの王子王女を欲望のままにもうけたのはいいが、その身の振り方にほとほと困っていたようである。
他国や自国の王侯貴族に嫁がせられるところには皆嫁がせ、養子や婿にいけるところにもすべて出したが、いかんせん王族が養子や嫁に出せるところは限られているのだ。
さらには臣籍降下? ようは王族から外れて家臣として扱う人も何人か出すのだが、それもただでは出せないから領地とか与える必要があるわけで。
際限なく領地を分けるわけにもいかずに、嫁にも養子にも臣下にもできなかった王女が、このシャーロット姫であるという。
「わたくしのことはよいのです。姉上や妹たちは皆、なんとか嫁いでいけましたから。このまま部屋住みの身で朽ちていくとの覚悟はとうに済んでおりますゆえ。
ただ、このような老女を形だけとはいえ、妻にしなければならなくなった勇者様には申し訳なく……。」
ソファに座り向かい合い、申し訳なさそうに話すシャーロット姫。
落ち着いた上品な語り口に、これまた品のある所作。
この世界に来るまでは正真正銘、生粋の庶民だった自分の雑な動作が恥ずかしくなるくらいだ。
それに……。
さっきから自分を卑下してばかりだけど、このお姫様、自分で言うほどは悪くない気がしてきている。
パッチリとした大きな藍色の瞳は、深い叡智(年の功?)を宿しながらも、やや垂れ目気味(これも歳?)で柔らかい印象に。
鼻筋高く通り、まつ毛も長く、若い頃はさぞかしモテただろうと思われるが……今だってとても綺麗な人だと思うのだ。
見れば見るほど、その老成した美しさにむしろ惹かれるというか……あれっ?
俺って熟女とか、老け専とかの趣味はなかったはずだが……。ええい、構うもんか!
「あのっ!シャーロット姫!
もし……もしあなたさえ良ければ、俺と本当の意味で結婚してくれませんか?」
「ふぇっ⁈」
なに今の声。可愛い。
「その、俺はこの世界に呼ばれる前はただの平民でした。
だから当然、貴族や王族の礼儀作法なんてまったく分からないですし、魔王討伐の旅の間もそんなこと学ぶ余裕なんてありませんでした。
だから、あなたと結婚して、これからこの国で生きていくのに必要なことを教えて欲しいんです。」
真っ直ぐに見つめているとシャーロット姫の顔がみるみる赤く染まっていく。
自慢じゃないが、自分はイケメンの部類だと思っているし、さらにはこの魔王しばきの旅で身体もきっちり鍛えあげたから精悍さもマシマシのはず。
深窓の令嬢、文字通りの箱入り娘であるお姫様(たぶん六十代)には、突然のプロポーズは刺激が強かったようだ。
「で、でもわたくしは勇者様に釣り合う歳ではありませんし……。
勇者様にはこれからいくらでも相応しいお相手が現れるはず。わたくしは形だけでも構わないのですよ?それでも作法をお教えすることはできますし……。」
困惑しつつも否定する理由を挙げていく姫。
だんだん、このお姫様が言いたいことが分かってきた気がする。
ようは、推しと形だけでも結婚 (プラトニック)できるなら、それで充分だと。
自分は年寄りだから、それ以上は求めないと。
だが!しかぁ〜し!
俺はプラトニックでは満足できない気がするのだ!
まさか自分の中に熟女スキーが潜んでるとはカケラも思ってなかったが!
「歳のことなど関係ありません!
俺はあなたが良いんです!
どうかお願いします!」
いや、だってこの人、可愛いんだもん。
今も、席を立ってお姫様の前で膝をつき、手を握って求婚していると顔を真っ赤にしてオロオロとうろたえている様は、控えめに言って天使(六十代)か?
部屋住みの行き遅れ王族として、質素な生活を心がけていたせいかちょっと細身だけどプロポーションも良いし。
後で使用人たちから聞いた話では、王族といってもけっして威張ったり、理不尽なことはせず、下々の人たちからは大変人望があるという。
控えめで優しい性格からか、他の王女たちに嫁ぎ先を譲ってばかりいたために、この歳まで残ってしまったようだが、そのおかけで俺と出会ってくれたわけだから、その意味では大人しい性格にも感謝だな。
結局は推しである勇者からの求婚を断ることなど出来ずに、シャーロット姫は俺とのガチ結婚を承諾したのだった。
結論から言うと、この結婚は大成功だった。
シャーロット姫に嫁ぎ先を譲られた王女たちやその嫁ぎ先の貴族からは大変に感謝され、社交界での立ち位置も盤石になったし、姫から教わって貴族の作法もまあ、そこそこにはできるようになった。
ちなみに、魔王城からぶんどったお宝の中に若返りの秘薬があり、渋る姫を説得して飲ませたから、今のシャーロット姫の外見は40代そこそこに見える。美熟女グッジョブ。
今の自分の好みから言えば、少しだけ若すぎる気もするが、これはいずれ時が解決してくれることだ。
もう一度、美老女になる様を堪能できるなんて、ご褒美以外の何物でもない。
たまにシャーロット姫の歳のことを揶揄してくるクソ貴族もいるが、そんな奴らには若返って美魔女となったシャーロット姫とのイチャイチャを見せつけてやった。
お化粧プラス、勇者の完全回復魔法、さらには幸せに輝く姫は三十代と言っても通じる美しさ。
ハッハッハッ!賞賛と嫉妬の視線が気持ちいいね!
それでも手を出してくるアホ連中は、物理でボコボコにしてやった。勇者舐めんな。
単騎で魔王軍をしばいたんやぞ?今さら一貴族なんぞ相手になるか!
……まったくの余談ではあるが、ベッドの上でも姫は大変に可愛かった。
勢いあまって、子供まで作ってしまったし。
シャーロット姫によく似た可愛い女の子だ。マジ天使。
医者から妊娠したと告げられた時も、姫は「こんな歳で子供を授かるなんて……。」と真っ赤な顔を両手で覆って恥ずかしがったが、そんな恥じらう仕草もまた可愛らしいので良し。
最近の日課は、可愛い嫁と子供を連れて庭を散歩すること。
嫁をもらったら六十代のお姫様だったけれども、俺は、俺たちは幸せです。
ワイドショーとかで海外の王族(どこのとは言いませんが)の話が出る時に、どう見ても老人な王子王女がいらっしゃいますよね。六十代の皇太子とか。
そんなところから思いつきましたが、いかがだったでしょうか。
シャーロット姫は歳は六十代ですが、中身は十代の部分もある可愛らしいお姫様です。
結婚適齢期の低い世界では、おそらく三十を過ぎたあたりから色々諦めていたことでしょう。
自分をおいて、姉や妹たちに嫁ぎ先を譲っていく。そんな優しい老婦人だから幸せになってもらいたいですよね。