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仮面恋愛 ~好きになった『推し』は、一番嫌いな人でした~  作者: 鍵宮ファング
3章 Uの策略/恋のキューピッド大作戦
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3-7 Uの策略/大作戦の真相

 遡ること2時間と少し、体育の授業が終わった昼休み中のこと。


 物置部屋を兼ねた空き教室に、歌星琢磨は教室の主人のように座って待っていた。


 文化部が置いて行った段ボールや本などの資料が綺麗に敷き詰められた薄暗い教室の中、何故か歌星はサングラスをかけ、両手を顔の前で組んでいる。


 そこへ、同じくサングラスをかけたひよりが入って来た。


「ご苦労だ、暗号名「狐」。尾行している者は誰もいないな?」


「勿論、暗号名「狸」。問題はないわ」


 フフンと自慢げに鼻を鳴らし、ひよりはサングラスを小さく上げて言う。


 まるで「デキる女スパイ」のような雰囲気を出しているが、そのサングラスは百均に売っていそうな星の形をしていた。


 ひよりは早速歌星の向かい側に座り、同じく両手を顔の前で組み、サングラス越しに歌星を見つめる。


「それで、結果はどうだったの? ターゲット:KSの様子は?」


「オレちゃんの予想通り、完全に「嫌い」って感じじゃあなかったぜ」


「私の方も、答えは聞きそびれたけれど、ターゲット:TAの様子から、案外満更でもない感じだったわ」


 2人はそれぞれ、互いにターゲットと接触した時の情報を共有し、不敵な笑みを浮かべた。


 そして、その情報から歌星はある可能性を見いだした。


「コイツは予想以上に、面白い結果になりそうだな」


 歌星は言って、そのまま言葉を紡ぐ。


「あの2人の関係は良好だ」


 一見すれば犬猿の仲、付き合うなどもっての外であるターゲット。


 しかしそれは、「風紀委員長」と「ギャルのボス」という、それぞれ譲ることのできない立場にいるからこその争い。


 だがもし、その立場のない〈放課後〉であれば或いは――。


「あの2人がただの生徒、普通の男子と女子に戻った時なら、可能性はゼロじゃあない」


 確証を持っているように締めくくり、歌星は不気味な笑い声を上げる。


「けれどあの2人には、まだ足りない。〈キッカケ〉という名の、恋の起爆剤が」


 続けてひよりは言って、ニヤリと笑う。


 更に歌星には、ひよりにすら明かしていない〈確実な証拠〉を持っていた。


(それにこの前、女装した翔を尾行した時に見たあの男――ヤツの正体は天道綾音で間違いない!)


 先週の休日、歌星が惹きつけた買い物デート。その日に現われたのは、紛れもなく綾音であると。


 だが、まだ分からない。仮に「ヒビキ」が綾音だとして、翔がそれを知った上で付き合っているのか。


 はたまた正体を知らずに、付き合っているのか。


「ならば、オレちゃん達が〈恋の起爆剤〉になってやろうじゃあねえの」


「ついにやるのね、例の――「恋のキューピッド大作戦」を」


「そのための偽装ラブレターは既に作ってある。後はコレをターゲットの下駄箱に設置するだけだ」


 歌星は言いながら、用意したラブレターを取り出した。


 それに続いて、ひよりも用意したラブレターを取り出す。


 中身はそれぞれ、ターゲットの筆跡を真似て作った一級品。のはず。


 2人の考案した「恋のキューピッド大作戦」は次の通りだった。


 ラブレターでおびき寄せたターゲットを体育館倉庫の中に閉じ込め、吊り橋効果で2人の仲を確かめる。


 たとえ付き合っていようがいまいが、吊り橋効果で2人の仲が深まるのは確実である、と。


「そうと決まれば、早速作戦開始だ!」


「イエス、暗号名「狸」」


 ***


「とまあ、そんな感じでですね、2人の恋路を深めようってワケ」


 観念した歌星は自信満々に作戦の全貌を明かし、またポーズを取る。


 しかし2人の作戦を訊いてもなお、翔達が納得することはなかった。それどころか――


「ははーん、なるほどそういう魂胆だったワケねぇ。へぇー……」


「何かおかしいと言うか、嫌な意味で都合良すぎると思ったんですよ……」


 2人は普段の口調で言いながら手紙を握り潰し、ゆっくりと顔を上げた。


 その表情は笑顔に見えた。がしかし、その背後にはまるでこの世のものとは思えない恐ろしいオーラが溢れ出ていた。


「あ、あれ? ちょっと歌星君? 話が違う気がするんだけれど……」


「おっかしいなぁ、何か『ゴゴゴゴゴ……』って見えるし、もしかして2人って幽波紋使いだったり……?」


 予想外の出来事に、歌星は慌てておちゃらけるが、しかし何も起こらなかった。


 緊迫とした状況に、歌星は固唾を呑んで後ずさる。


 すると逃がすまいと綾音は一歩前に踏み出し、指の骨を鳴らしながら作戦の結果を教えた。


「一つ言うとしたら、そもそもアタシと如月が付き合うなんてことはまず、あり得ない」


 それに賛同するように、翔も続けて言った。


「まったく、良い迷惑です! それに歌星君のコードネーム、ラクーンは狸じゃなくてアライグマですし」


 ついでのように翔から間違いを指摘され、歌星は「ぎゃひっ!」と変な声を出して固まった。


 これでもう逃げ場はなくなった。作戦も大失敗、2人の関係値も振り出しに戻ってしまった……。


「ちょっと歌星君、どうするの?」


「こうなったら最終手段だ。まさかこんな所で使う羽目になろうとは……!」


「い、一体その作戦って……!」


「シンプルだ、たった一つのシンプルな作戦だ」


 ゆっくりと詰め寄ってくる翔と綾音。一方追い詰められた歌星は勿体ぶりながら足下を見た。


 そして、2人の隙を見つけた瞬間、歌星は踵を返して逃げた。


「逃げるんだよォォォォォォ――――――――ォ!」


「な、なんだコイツーーーーーッ!」


 突然逃げ出した歌星を追うように、ひよりも続いて逃げた。


「あっ! 逃げましたよ天道さん!」


「待ちやがれこの野郎ッ!」


 当然翔と綾音も、一緒に2人を追いかけた。


 雨に打たれる誰もいない校舎、鬱々とした気分を晴らすかのように、4人の鬼ごっこが繰り広げられた。


「誰がこんな小煩いチビを好きになるかァ!」


「今回限りは、廊下を走ってでも償ってもらいますからね!」


 青春の風を感じるような情景も、鬼の形相をした2人の前では台無しだった。


 歌星は2人の鬼から必死に逃げながら、心の中で叫ぶ。


(嘘だろ⁉ じゃ、じゃあまさか翔も天道も、お互いの正体知らねえってことなのかァッ⁉)


 だが同時に、鬼ごっこを心のどこかで楽しみながら、フフッと笑った。


(なら面白い、もうちょっとだけ様子見てみるか)


 歌星に反省の色はなかった。


 果たして2人は捕まり、翔と綾音から重い説教を食らうことになるのだが、それはまた別のお話である……。


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