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仮面恋愛 ~好きになった『推し』は、一番嫌いな人でした~  作者: 鍵宮ファング
3章 Uの策略/恋のキューピッド大作戦
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3-6 Uの策略

 ガチャン、と静かに鍵の開く音が鳴り、開かずの扉がゆっくりと開く。


 外は電気が付いているようで、陰鬱な湿気を纏った空気が飛び出すのと同時に、希望の光が倉庫の中に入り込む。


 やがて光に目が慣れ、白に包まれた景色に色が付いたそこには、ジャージ姿の大柄なゴリラがいた。


「お前ら、こんな所で何やってんだ?」


 突然の出来事に二人は目を丸くして驚き、ゴリラ――もといジャージの男の姿を凝視する。


 そうして数秒ほどの沈黙が流れ、状況を整理した綾音は口を開いた。


「あれ、ゴリ先じゃん」


「ゴリ先言うな、ちゃんと原田先生と呼べ」


 ゴリ先、もとい原田先生。この石護高校の体育教師である。


 濃い顔立ちと大柄な体型がまるでゴリラのように見えるため、生徒からは「ゴリラ先生」略してゴリ先と呼ばれている。


「原田先生、どうしてここに?」


 遅れて翔も状況の整理が終わり、原田に訊く。


 すると原田はため息を吐いて頭を掻きながら、


「万が一誰か残っていないか、見回りしていた。そうしたら体育館から声がしたんで向かったら」


 お前らがいた。最後まで言わなかったが、二人は原田の言葉の続きを察した。


「しかし天道ならまだしも、如月はどうしてここに?」


「ちょっと、まだしもって何よゴリ先!」


 続けて原田は不思議そうに顎に手を当て、翔を見た。


 生真面目な風紀委員長である翔が居残り、それも女子と一緒にいるなど違和感でしかなかったからだ。


 その事に気付いた翔は慌てて両手を挙げ、弁解した。


「こ、これはその偶々、偶然居合わせた天道さんと話をしていたら、突然閉じ込められただけで……」


「ほぉ、閉じ込められた、ねぇ?」


 翔の言い分に、原田は訝しんだ表情を向ける。


 顔には深い影がかかり、まるで森の賢者のような暗い表情に変わる。


 やはり弁解は無理があったか。叱られることを覚悟し、翔はぐっと目を瞑った。


「フフフ、ハッハッハ!」


 しかし翔の予想とは裏腹に、原田は腹を抱えて笑った。


「まさかな、生真面目な如月のことだ! 嘘を吐いたり、変な気起こすワケねえか!」


「……ま、コイツが何もしてないってのは、事実ですよ」


 ゲラゲラと涙を浮かべて大笑いする原田の横で、綾音は言葉を紡ぐようにして弁護する。


 そうして原田は親指の腹で涙を拭いながら、「それに」と続ける。


「それに、犬猿の仲で有名なお前らのことだ、付き合ってるのも考えられねえな!」


 一体何がツボに入ったのか、原田は安心した笑みを浮かべて高らかに笑った。


 しかし彼の言葉は、何故か二人の心に突き刺さった気がした。


「付き合う……じょ、冗談じゃないってのゴリ先! 誰がコイツとなんか……!」


「まあまあ、細けえことはいいんだよ! とにかく、雨が酷くなる前にさっさと帰れよ?」


 原田は言って、体育館を後にする。


 やはりその背中はとても大きく逞しく、翔も男ながら、彼の背筋に目を奪われそうになっていた。


 と、原田はふと何かを思い出し、声を上げて足を止めた。


「そうだ、さっき歌星と加賀美を見かけたんだが、二人とも待ち合わせ中か?」


 歌星と加賀美、それぞれ翔と綾音の親友である。


 確かに翔も綾音も、ここに来る少し前に二人と会っている。


 いやむしろ、その二人が行くように促した。


「歌星君が……まさかッ!」


 刹那の電流が駆け抜け、翔は急いで綾音の方を振り向いた。


「天道さん、その手紙ちょっと見せてください!」


「え、ああ、いいけど」


 綾音は困惑した表情を浮かべ、翔にラブレターを手渡す。


 翔はそれを受け取ると、その代わりに自分が受け取ったラブレターを綾音へ手渡した。


『天堂綾音さん


 どうしてもお話したいことがあります。


 どうか体育館層庫に来てください。侍っています』


 差出人不明の怪しい手紙。よく見るとその手紙には、何点か違和感が隠れていた。


 更に分析をすると、翔はあることに気が付いた。


「……やっぱり、何かおかしいと思ったんだ」


 その横で、綾音も受け取ったラブレターを見て気付いたのか、額に青筋を浮かべて手紙を握り潰した。


「……なるほどねぇ。この一連の事件を引き起こした犯人が掴めたわ」


 この倉庫監禁事件の真相に辿り着いた二人は顔を見合わせ、大きく肯いた。


 ***


 一方その頃、生徒達が完全に出払った教室の中に、二つの人影があった。


 一人は歌星琢磨。彼は誰もいないのをいいことに、友人の机を6個組み合わせ、その上でコッソリと持ち出した漫画を読んでいる。


 一人は加賀美ひより。彼女もまた誰もいないのをいいことに、鞄に隠していたメイク道具一式を机に展開し、鼻歌を歌いながらメイクをしていた。


「しっかし大丈夫かなぁ、あの二人」


「ゴリ先にバレそうになって逃げちゃったけど、まあ大丈夫でしょ」


 二人は暢気に自分の時間を楽しみつつ、倉庫に閉じ込められている翔と綾音を心配する。


 普段の学校生活では絶対流れないであろう、自室のようなのんびりとした時間が過ぎる教室。


 ざあざあと降り注ぐ雨音を音楽代わりにしていた二人の空間を邪魔するように、横開きのドアが開いた。


 ドアは限界まで勢いよく開かれ、落雷にも似た衝撃音を奏でる。


「な、なんだぁ⁉」


 歌星は驚いて飛び起き、ドアの先へと目を向ける。


 果たしてそこには、ご立腹な様子の翔と綾音が立っていた。


「あ、綾音ちゃん? どうして、ここに……」


「翔ちゃん、まさかラブレターのお相手って……」


 目を丸くする歌星とひより。一方、翔と綾音は肩で大きく呼吸しながら、二人を睨み付けて言った。


「歌星君、説明して。これは一体、どういうこと?」


「ひよりィ……アンタ、やりやがったわね?」


 二人の目はそれぞれ、親友をロックオンしている。


「どういうことって、何のことか、なぁ?」


「やりやがったって、私は何もして――」


「「異議ありッ!」」


 翔と綾音は同時に叫びながら、ラブレターを突き付けた。


 そうして翔と綾音は、歌星とひよりを追い詰めながら続ける。


「この筆跡、そして『道』『倉』『待』の漢字間違いのある手紙。ボクだったらこんなミスだらけの手紙、恥ずかしくて出せもしない」


「この特徴的な丸文字、確かにアタシの字とよく似てるけど、逆に真似ようとしすぎて不自然! それに、ここまでアタシの字をコピーできる人間は一人しかいない……」


 二人の指摘に、歌星とひよりは胸を射貫かれたように尻餅をつく。


 図星だった。


「この手紙を書いた真犯人は、歌星君! そして加賀美さん、あなた達だったんですね!」


 名探偵が犯人を告発する時のように、翔は指を力いっぱい突き付けた。


 すると二人は一瞬黙り込んだ。……かに見えたが、歌星はゆっくりと立ち上がり、クククと声を殺して笑った。


「……あーあ、バレちまったならしょうがねぇ。狐」


「……そうね、私達の計画も最早ここまでみたいね。狸」


 言うと二人は徐にポケットからサングラスを取り出し、顔を上げた。


「では全てを明かそうじゃあないか!」


 と、歌星はサングラスをかけ、ポーズを取る。


「耳をかっぽじってよーく聞きなさいッ! 『恋のキューピッド大作戦』の全貌をッ!」


 ひよりもサングラスをかけてポーズを取りながら言った。


 そして2人の口から明かされる。


『恋のキューピッド大作戦』の全貌――!


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