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リヒャルダ(1)

『希望と瑞宝の島』。

7人の王(多いよなァ……)がひしめくこの狭い世界に、俺こと四月一日わたぬき とびはやってきた。

より正確に言うならば、丁重に招かれてやってきた。


世界と世界を繋ぐ『異世界渡航局』に頼らず、俺の今の君主が俺を召喚し、自らの領地へと呼び寄せたのだ。


まあ……領地とか言っても、そんな広いわけじゃない。

城下町も商店も無いし、そもそも城も何もない。

庭付き一戸建てって不動産屋に紹介されてる程度の面積。いわゆる金持ちのお屋敷ってやつだろう、と思えなくもない程度の建物しかないのだ。


けどまぁ、よくあるRPGみたいな世界に来れただけでも、日本で平凡な団体職員をしてた俺にとってはなかなかの収穫だ。


両親も会社の人達も、入所者の皆だって、異世界に渡れたことを祝福してくれたし。

なんたって、もう仕事のことで悩まずに済むんだもんな!


ところで。

俺と同じく、この世界に新しくやって来たばかりだという俺の君主。

新人2人で大暴れしてやろう、などと誓い合ったお姫様ってのがさぁ……。

『トビ! トビや! 戻っておるのか!?』


女の子のアンティーク人形みたいな服装に小さなハイヒールを履いて、俺の部屋のドアをノックもせずに蹴り開け、猛ダッシュ&問答無用で(慌てて服を着た)俺に抱きついてくれちゃったりなんかしてる。

音だけで彼女の動きやら何やらを推測&受容ができちまうあたり、俺も重症だなぁ。

「あのねぇ、リヒャルダ陛下? 何度も何度も言ってますがね……」


『わーかっておるわい、うるさい奴じゃのー。トビは大人の男であるから、わしのような早乙女が触れてはならぬような、隠しておきたい部分をたくさん持っておるというのじゃろう?』

「そうですとも。俺が妄想するだけで満足できなくなったらどうするんですか、全くもう」


『それでも触れていたいこの乙女心、分かってくれぬわけでもあるまいに……ってか、妄想はしてくれとるんじゃね!?』

なんて言って可愛らしい顔をさらにかわいく輝かせてくれちゃったりするから、早めに白状すると直球ストレートど真ん中でロリコンな俺なんかにはたまらんわけであって。


まあ、俺は大人の男ですから?

自分の物語の年齢制限(カテゴリ)を切り替えなきゃいけないような行動は絶対しませんけどね!

今だって喉を鳴らさんばかりのお姫様を抱きしめたいけど必死で我慢してますし。


『……トビがあまりに堅物かたぶつじゃから、異性に好かれたり愛したりしたことがないのかと危ぶんでおったのだよ、わしは』

「ご心配はありがたいですけど、俺にだって……」


トビ君好き~、とか言ってわざと甘えて困らせる入所者の女の子ならいた。

ホントだ。副園長先生からの特命で、識字障害ディスクレシアの彼女に読み書き計算を教えていたのだ、俺は。


『そうであったか。すまぬ、君主としても女としても無神経であった』

リヒャルダ陛下はしゅんとしてうつむき、しばらく何事かを考えているようだった。

やがて顔を上げると、俺のベッドから降りて微笑みを向けてくださる。


『茶にしようぞ、トビ。お前が戦いを好きなのは知っているが、毎日毎日そうしてばかりでは疲れてしまうだろう。今日くらいはわしに付き合え』

「そうですね」


軽く提言に応じた俺は、ヒールを鳴らして先を歩むお姫様に従って、サンルームへと歩いた。

反感を買うのを承知で、端的に言おう。

俺は無敵に近い身体を持っている。

食事を摂る必要も、眠る必要もないと言えばないのだ。


リヒャルダ陛下が、自らの代わりに存分に戦えと仰ったのだ。

最強たるべしと。そうすれば褒美は思いのままだと。

そして、巨人族の武具と同じ構造の鎧兜と槍を賜った。


自分の世界では、優しいだけが取り柄のオタクだった俺に──自分で言うのはものすごくおかしいが──限りなく愛情に近い温情まで授けてくださる。


春の日射しが暖かく包む庭先のサンルームで、リヒャルダ陛下が用意してくださった紅茶とソフトビスケットをいただく。


ここはたった1人の女王陛下と、そのたった1人の騎士の国。

俺の、俺と彼女の国だ。

2023/4/17投稿。

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