第36話 決めましょうか国主を
:第三十六話:
決めましょうか国主を
ユウマに『今日の夜、十二時に第一倉庫裏へ来て』と言われたので、私はちゃんと十二時丁度に拠点から出た。
誰にも言わず…誰にも気づかれず。
多分だが、拠点で寝ているみんなは気づいてない
ハズだ。
真冬の十二時は、予想以上に寒くて、寒さに耐性のある私でも、身震いしそうだった。
夜空に浮かぶ星が綺麗で、第一倉庫に行く途中
何回も空を見上げて歩いた。
星々が幾つも集まり、星の川みたいになっていることに気づいた。
それに見惚れていると――――
「いたっ…」
「……イテッ!」
誰かとぶつかった。
私とぶつかって地べたに腰を付かない程の人だった。
誰かと思って、顔を見ると…カナトだった。
「ごめん、カナト…余所見してた…」
「俺も……すまん」
軽く謝り、倉庫に急ごうとする…が、何故カナトがここにいるのか気になった。
カナトは朝に強くて、夜に弱い。
なので、私、ユウマ、カナト、ジン、コウキ、アリスの六人の中で一番、早寝早起きなのがカナトなのだ。
ちなみに、私の起床順番は五番目だ。
どちらかというと、私は夜型の人だ。
カナトとジンはもっぱら朝型の人のようだが…。
そんなカナトが深夜に出歩いているハズがない。
………もしかして、想い人に会いに行く…、とか?
な、なな、なわけないよ…な? ないよね…?
そこんトコ気になったのでカナトに直接聞いてみることにした。
「カ、カナト…どうしてこんな時間に出歩いているのかな…?」
「ユウキこそ、なんで歩いてるんだ?」
質問に質問で返してくるなよ。
質問に質問で返すってのは…失礼なんだよ…?
まあ、いいや。
「私はユウマに呼び出されたんだ、カナトは?」
「えっ、ユウキも呼ばれたのか…実は、俺も呼ばれたんだ」
「カナトも…」
私、ユウキ、カナトの三名は、始まりのメンバーだ。
この三人で話す事があるだろうか…。
唯一、私だけは"転生者"という秘密があるが……。
カナトも、私と同じ目的だったようなので、せっかくだから第一倉庫まで一緒に行くことにした。
カナトと二人っきりで夜道を歩くのは…少しだけだけど…ドキドキしちゃうな…。
「なぁ…ユウキ頼みが……あるんだ」
「ん…? 何かな?」
「多分…ユウマが俺達に話すこと……わかると思うんだ」
「う、うん…それで?」
「だから…ユウマの話を聞いても…俺を…嫌いにならないでくれ…」
「う、うん? わかった」
いや、全然わかってなかった。
カナトが何を予想してるのか、マジでその時は謎だった。
ま、カナトに何か大きな秘密があるのだとしても
えっぐい事をユウマが言っても。
私は、カナトを絶対に嫌いにならない自身があるね。
そう思いながら、私とカナトは第一倉庫に向かって歩いていった。
数分後、私達は予定通り第一倉庫に着いていた。
拠点から数十分の位置にある倉庫に、私達は遅れたら駄目だと思い、すこし早めに歩いたのだ。
「カナト…ユウキ…一緒に来たんだね…」
「ああ、途中で一緒になったんだ」
「とりあえず、もう少し歩こう」
そう言って、ユウマは倉庫裏で話すのではなく、少し歩いて行き、倉庫から少し離れた草原へと移動した。
「ここなら…いっか」
「ユウマ…、ユウキに…あの事を話すんだろ…?」
「そうだね…」
カナトはユウマに何かを確認したようだった。
ユウマも、何かを決意した様子で、カナトに応えていた。
さあ、来い。
私は、どんな話が来ても受け止められるゾ。
恋愛関係の話では無い限りな。
「そろそろ…決めないといけない…僕たちの…リーダーを」
「……え?」
ユウマの言葉に反応したのはカナトだった。
何を言っているんだ、みたいな顔だった。
私は、全然驚かなかったが…。
「ユウマ…俺の身の上話じゃないのか……?」
「え…? 違うよ…? それはまた今度にしよう」
え…なんだなんだ?
カナトが予想していた話……とは、違うのかな?
カナトの驚きと安堵の表情を見たら、予想が外れたのがわかった。
つまり―――――
「ユウキ…あの話…当分後になったから」
「…うん」
カナトに言われた「どんな話を聞いても嫌いにならないでね」は、当分先のお話となったようだ。
よかったよかった…って、そうじゃない。
今ユウマが言った"僕たちのリーダー"…って…つまり…
「国主を…決めよう」
国の指導者って事だよね、マジか…。
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夜の重要な会議が始まった。
会議と言っても、ただの少年二人と少女一人で
これからの国作りで必要不可欠な"リーダー"を決め
ようという、ちょっぴり大きな会議だ。
いや……ちょっぴりどころか…結構大きな話だな。
「二人の意見を聞きたいんだ」
「ユウマ、どうして俺とユウキとお前の三人だけなんだ?」
カナトが、素朴な疑問を口にした。
それにユウマは、落ち着いた口調で
「僕達は…始まりのメンバーだからだね」
「まぁ、確かに…そうだな」
「あれから…一年も経ったのかぁ……」
だから、この三人で…この三人の中から…リーダーを
決めたいんだ、とユウマは言った。
私は…もう誰を国主に推薦するか、決めてある。
「僕は……ユウキを、国主にしたいと思ってる」
「え……私?」
「うん、ユウキが適任だと思うんだ」
真面目な雰囲気でそこまで言われると、少し照れちゃうな。
カナトは、何かを考えている様だった。
次は、私が言う番だ。
「私は…ユウマが良いと思う」
ユウマの目を真っすぐ見て、そう答えた。
ユウマは、少し驚いた表情を見せた。
ユウマの判断力、統率力、それに今はまだ磨かれていないカリスマ性。
このカリスマ性は、磨けば後に、世界一のカリスマ性になるだろう。
私は、前々から考えていた。
多分コウキ達を勧誘したあたりから、この国の国主になるとしたら…誰だろう、と。
もし、私がなったとしよう。
そうなれば、前世の知識を活用して、キレイストにも負けない立派な王国が出来上がったと思う。
だか、それは二番煎じなのだ。
新味のない、私はそれを望んでない。
単に面倒くさいってのもあるけど何よりも一番駄目な部分は、私じゃ王の器になり得ない事だ。
キレイストは、優秀な部下が居て財力もあったから素人の私でも出来た。
だが…今は違う。
ゼロから全てを始めているのだ。新しい事をしている。
もう一回言おう、二番煎じは、面白くない。
だからどんなに頼まれても、私は国主という責務を引き受けない。
私は、王を守る騎士団団長にでもなればいいのだ。
次はカナトが王になった場合を考えてみよう。
多分、カナトが王になったら…いい意味で私が国主になるよりも面白い国ができるだろう。
失礼だが、カナトでは……国主は務まらないと思う。
これは、あくまでも私の予想だ。
ユウマなら、完璧にこなせると思う。
国主という…責務を。
だから、私は一切の迷いもなくユウマの目を見据える。
「俺も……ユウマが、良いと思う」
カナトの小さな呟きが、辺りに響いたかのような錯覚を覚えた。
ユウマの顔を見てみると、訳が分からない、と言った様子で、しきりに私とカナトの顔を見ていた。
「なんで…カナトだって…ユウキが適任かもな、って
昔…言ってたじゃないか…!」
ユウマが、カナトと私の迷いのない表情を見て、より困惑の表情を強める。
「いや…今は、ユウマが一番だと思う。 そうだろう? ユウキ」
「うん」
カナトも私と同意見だ。
事前に「ユウマを王に据えよう」なんて、話し合った訳では無い。
私とカナトが、ユウマを推した、ということは
この国の指導者…つまり、国主は―――
「ユウマで…決まりだね」
ユウマは、私の、私達の…主となったのだ。
決して、責任回避って訳じゃ…ないよ? 決して…ね。
「納得できない……こんなの、納得…できないよ!」
「え…?」
困ったな…ユウマも、国主なんて引き受けたくないか。
いや、違うな…これは――――
「……ユウキの方が…強い…それに、優しいし…明るくてっ……カッコイイ……」
ユウマの頬を、涙が伝った。
やっぱり…ユウマは私を。
「ユウキは…僕の……僕の…」
…ごくり。
「ヒーローなんだ…」
ほへ?
「いつも不敵な笑みを浮かべて…必ず勝って、仲間想いで…そんなユウキを見て、僕は憧れたんだ」
「えっと………」
予想外…。
"ヒーロー"なんて、想像してなかったよ…。
予想してたのは……す、すす…好き……とか、なんだけどな…。
案外、人から向けられる"好意"って物は…妙に恥ずかしくて、嬉しい。
思わず顔を赤く染めてしまい、それをユウマとカナトに見られぬよう平静を保つ。
「僕が…僕なんかじゃ……絶対に…国主なんて務まらないよ…」
「それは違うよ、ユウマ」
自分を卑下する言葉を紡ぐユウマを、私の言葉で遮った。
「ユウマは、いつも皆の事を考えてくれていて、磨けば輝くカリスマ性の原石を持ってる…だからさ、私は…ユウマが適任だと思ったんだ」
「ユウキの言う通りだと思う、ユウマ…俺はお前が国主じゃなかったら…嫌だな」
「ユウキ…カナト……」
ユウマの目には、涙が溜まっており、今にでも溢れ出そうだった。
カナトが何かを決意した様子で、畏まった様子でユウマの眼の前で跪いた。
「ユウマ。俺は…お前の忠実な配下になる…。どうか
俺の忠誠を、受け取ってくれ」
と、王様に忠誠を誓う騎士のような感じで、ユウマの目をはっきりと見てカナトが言った。
ユウマはそれに少し驚いた表情を作った。
カナトは駄目だな、敬語を使ってないね。
私が、お手本を見せてあげよう。
「ユウマ様。私は、貴方様の剣となり盾となります。私の忠誠を…貴方様に」
跪き、手を左胸に置き、まっすぐユウマを…いや、
我等が主を真っ直ぐと見つめた。
数秒の沈黙の後、覚悟を決めた表情を作ったのは、ユウマだった。
「……分かった……。僕が……国主になる」
決意に満ちた表情は、今までのどのユウマよりも男らしく、カリスマ性に満ち溢れていた。
「ユウマ、改めて…よろしくね」
「うん…こちらこそ…よろしく、ユウキ」
「別に、親しく接してもいいんだよな?」
こうして、私達の国の国主は、ユウマに決まったのだった。
そして私は、今この瞬間…国を守る騎士になろう、とそう決意した。
「二人共…僕、ちゃんと最期までやり遂げるから…
側でずっと…見守っててよ」
「ああ!」
「当たり前だよ!」
カナト、私の順にユウマに答えた。
また明日から、楽しくなりそうだな、と私は思ったのだった。
実はというと、私が国主に選ばれなくて良かった、という気持ちが、ほんのちょっぴりあったのは…ナイショだ。
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翌日、ユウマが国主になることは、アリスやコウキ達にも話し、他の皆にも話した。
全員納得の様子だったので、ユウマは相当信頼されてるんだな、と思った。
反対意見は出なかった。
こうして、総勢800名全員の賛成のもとにより
ユウマは、正式に私達の主となった。
当の本人は、既にやる気に満ち溢れていた。
今日も、朝から建築状況の視察と難民の保護施設に出向いていった。
ユウマの護衛には、カナトが付いている。
よからぬ事を考えている輩がいても、カナトならきっと、大丈夫だろう。
そんなこんなで、変わらぬ日々を過ごしていると。
クリスマスがやって来た。