第18話 二度と失いたくないもの
:第十八話:
二度と失いたくないもの
私は………途方もなく…歩いた…。
ナツキが死んでから……。
数日が経った。
当初の目的だった南西の平原には付いた。
今いる場所は、日当たりのよい森だ。
風が心地よい。
でも…私の心は、ナツキを失った事による悲しみ、自分に対する無力感…罪悪感で、押し潰されそうになっている。
もう二度とこんな思い……味わいたく無いっ………
そんな事を何度も何度も思っていた……
―――だからだろうか、私は…知らぬうちに隙を曝け出してしまっていた。
痛みが走った瞬間、何が起こったのか理解する。
魔物の一体に吹き飛ばされたのだ。
その魔物の名は―――――黄金角馬牛。
額にある黄金の角が特徴的な魔物だ。
硬度は言わずもがな、殺傷能力も高くベテラン
冒険者達でも苦戦する魔物だ。
その角は高額で売買されており、いい小遣い稼ぎになると、記憶している。
その凶悪な角で、真上に飛ばされた…私。
(受け身……………取れる…かな)
そう思考するが、いい案なんて浮かぶはずがなく
地面が迫り―――そして……
ドガァッツ!!
鈍い音が周囲に広がる。
頭から落ちたようだ。
血……なんて…もう既に止まってる。
罪悪感と無力感に押しつぶされて尚"生きる"という
気持ちは失われない。
無慈悲に再生してゆく。
黄金角馬牛は自慢の一撃が無意味だった事に驚き
動きを止める。
(ナツキを……守れなかった………)
頭から落ちたというのに、私の…心の中はナツキに対する思いで、いっぱいだ。
黄金角馬牛は私に攻撃する気がないと知った途端
自慢の突進攻撃を繰り出す。
黄金角馬牛の突進はその凶悪な巨体で思いっきり
突進してくるので、避けるのも一苦労なのだ。
そんな突進をまともに受けてしまった私は、数十m先まで飛ばされてしまった。
(―――ッ?!人の気配がする……!)
人の気配を察知し、当たらないように体を空中で反らす。
僅かだが、少しだけ体を反らすことに成功した私は
ほんの少しだけ安心する。
秒速数mで吹っ飛ぶ私に当たれば……人は複雑骨折すると思う…。
流石に巻き込みたくはない……
安心する私。
突如横から女の子が吹っ飛んで来た事に驚く
少年二人組。
おっと…少年二人は魔物と戦っていたのか…
邪魔しちゃった―――
そんな事を考えた時、私をぶっ飛ばした黄金角馬牛が
私を追ってやって来た。
このままじゃ、少年二人に迷惑をかけることになるだろうから…………倒そうか…。
そう思い…むくりと起き上がると、少年二人が驚いたように問いかけてくる。
「君!!大丈夫?!」
心配の声をかけてくれるのは、黒髪の少年。
「マズいな……流石に黄金角馬牛は、俺でも無理だぞ……逃げちゃう?」
撤退を進言する者はすこし赤みがかった茶髪の少年。
どちらも今の私と同い年くらい……かな…?
流石にこの二人は黄金角馬牛に勝てそうにないので私が相手をしよう。
「ごめんね……コイツを連れてきたのは私のせいだ
だから、私が倒す。 そっち……はいけそう?」
勿論、黄金角馬牛と二人が相手してる白悪大熊
同時に相手取っても私が勝つだろう。
でも白悪大熊の"爪"は二人の少年を殺せるほどの
凶悪な爪なのだ。
死なせるつもりなんてない。
もう……人が死ぬのは懲り懲りだ…………。
返ってきた返事は「いけるよ」の一言。
そして二人の目は本気の目だ。
なら、…信じてみよう…。そう思い、黄金角馬牛の正面に立つ私。
剣を正面に構え、相手の出方を伺う。
黄金角馬牛は、力を溜めている様子だ。
その間、僅か数十秒。
力を溜め終えた、黄金角馬牛は私目掛けて全力の突進をしてきた。
技名:黄金突撃走 一直線上に全力で走り抜けるというシンプルな技だが、黄金のツノと溜めていた力で威力は絶大。
全身鉄鋼鎧でも安々と貫く威力を誇る、黄金角馬牛
の得意技だ。
が、力を溜めて時…私も剣に"家系魔法"を付与していたのだ。
剣に"氷"を纏わせ、相手―――つまり、黄金角馬牛の 代表を"皮、肉、細胞まで氷漬け"にする。
という想像をする。
これにより、剣に纏っている冷気に触れた瞬間
体面は、凍り…"脆く"なる。
そこに本命の攻撃となる、斬撃を入れ込む。
冷気に触れた部分は瞬時に"氷"となり驚く程簡単に斬れるのだ。
横に一閃。
それだけで黄金角馬牛は命を刈り取られた。
斬られたところは凍っており、血も流れていない。
が、足と胴体が分裂しており、生命活動などもうとっくに停止している。
さて…こっちは済んだし、二人の手伝いにでも―――
と思い、少年達の方を見てみるが…どうやら手助けは必要なさそうだ。
二人は私から見ても見事な連携で白悪大熊を翻弄したいる。
茶髪の少年が攻撃を防ぎ、黒髪の少年が弱点を的確に
斬り込んでいる。
まるで………一度目の生…の私とアルトみたいだ。
そう思うレベルで、二人の連携は素晴らしいものだった。
茶髪の少年が首を斬り、戦闘は終了した。
「君……凄いね…黄金角馬牛を一人で倒しちゃうとは…」
茶髪の少年がそう言うと、黒髪の少年も続く。
「ふっ飛ばされてきた時は『この子…死んだ……?』
って思ったけど…何事もなかったかのように立ち上がるんだもん…。凄い頑丈だね…。」
「アハハ……で、でしょ?ごめんね…急に飛ばされてきて………」
苦笑いして、怪我の方は隠しておく。
そして自己紹介タイムに突入する。
「私はユウキ、よろしくね」
「僕はユウマ…こっちは―――」
「カナトだ!よろしくな!!」
茶髪の子がカナトで黒髪の子がカナトか…
やっぱり昔の私とアルトを思い出す…。
「それで…ここには何をしに来たの?ユウマ、カナト」
私からの問にユウマがこう答える。
「僕たちはね、ここから遠い遠い建築が有名な
"スラクド"っていう町から来たんだ。」
へぇ…聞いたことないな…。
聞くと、827年に建築の巨匠が興した町らしく、とても綺麗な町並みをしている町なのだそうだ。
そして、その後に聞く言葉は私を驚かせるのに十分な発言であった。
「俺とユウマは、この何もない平原に町を作りたいんだ!」
………ふぁえ?え…いまなん…て言った…?!!
町を作る…だって………?
その言葉を聞いた瞬間…"運命"だと悟った。
だって…私も…ナツキと…一緒に町を作ろう!って…
言って飛び出してきたんだから。
ナツキが死ぬ時、志を…託された。
その志を………それに…私の…"夢"を叶えられるかもしれない。
そう思い……カナトとユウマに…こう、願う。
「お願い……私も…その町づくり…手伝わせて!!」
毎度毎度、私は…人と会うたびに運命を感じ、無茶を言う…が…どうしても…願わずにいられない。
だって…、ナツキと…それにアルトとの約束が…あるから。
―――この願いが後に世界を変えることとなる―――
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私は…今までのこととナツキの事を二人に話した。
「なるほど………分かった。 ユウキ……僕たちからも頼む!!手伝って欲しい!!君のあの凄い戦闘能力で僕達を助けて欲しい!!」
「俺もぉお!!その…ナツキちゃんの話聞かされたら……うぅ…涙でてきちゃったよ……、俺も歓迎するぜ!!」
二人共、快く歓迎してくれた。
いい奴等だ…。
とっても…嬉しい!!
その日の夜は、町づくりの事やこれからの事を夜通し話し合った。
久しぶりに………楽しかった。
そして…数日後。
「うん、ここ…いい感じな場所だ! ここに先ずは拠点を建てる!」
ユウマがそう宣言した。
聞くと、ユウマは建築士の資格を持っているのだそう。
カナトは、魔法などでユウマのサポート係だ。
私は…建築の事なんて…分からないから、力仕事…かな。
そう思い、ユウマの指示に従う。
ユウマが図面を見ながら必要な素材を提示してくれる
が、私は…それに従い木を斬ってくる。
カナトは家を建てる土地を魔法で強化しているようだ。
じゃあ、先ず木を三本ほど伐採し、枝などを切り
持ちやすくする……それを…担ぐ。
ん…三本がギリ……だ…な。
四本以上は多分もてない。三本持つこと自体人間が為せる事じゃないケド……。
それは転生のおかげだな。
感謝感謝!!
案の定、二人はビックリし目を丸くしていた。
が、魔法で強化していると勝手に納得したようだ。
伐採した木を細く魔法で加工し家の骨組みを作る。
結構立派な家が完成しそうだ。
ユウマが持っていた魔法で拡張されたバッグには色々な物が入っており、綺麗なガラスやドアノブなども入っていた。
便利だなー…いやマジで。
そう思いつつ、私は…せっせと木を伐採しまくってますよ、と。
カナトは土地を強化した後、ユウマの手伝いをしている骨組みを作ったりと魔法で強化したりと…
家造りに魔法使うんだ。
そう思いユウマに言うと。
「流石に、今の技術じゃ魔法で強化しないとすぐ崩れるからね………いつか魔法に頼らずスラクド本来の建築方法をしたいよ。」
確かに……いつかは人手を増やして立派な家とかを作りたいものだ。
そのために先ずは拠点を作らないとな!!
そう思い、私は…久しぶりに楽しく作業をする。
今の私は、もう既に…ユウマとカナト…この二人を
信頼し合える仲間と認識していたのだ。
もう二度と、…失いたくない…大切なもの…だ。
そう思いながら、汗水流し…伐採を続ける私であった。