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2.10の質問

 さてこの状況、どうすればいいのか。


 沈黙を打破するために私の口から出たのは、「ここ、PKさんのお部屋なんですか...」というあまりに分かりきった質問だった。


 だから何、と言われ会話が終了することを恐れたが、彼は小さくため息をつき「入れば」と後ろを向く。少し安心したものの、なんだか気を使われているようだ。


「すいません...」

私は申し訳なく思いながらPKに続いて部屋に足を踏み入れた。


 部屋の中は黒いソファとテーブルが幅を利かせた「おしゃれな男性の部屋」という感じだった。見渡したところベッドはなく、ソファにはタオルケットが丸められている。寝ていたというのは本当なのかもしれない。ただ普通の部屋と違うのは、工具やロープ、タンクなどの様々な道具が置かれている点だ。


 普通の家にはこんなものは置いていない。それもすぐ取れるような位置に。


「ここ住んでるんですか」


 尋ねるとPKは「半分な」と白い煙を吐き出した。

 いつの間に、煙草を吸っていたようだ。匂いが鼻をくすぐる。


「じゃー出掛けふから」


 煙草を口にくわえたまま部屋から出ようとしたPKの腕を慌てて捕まえる。細いと思っていた腕は固く筋肉質で、振り払われないように手に力を込めた。


「待って!」

「痛ぇよ」

「少しだけ、時間ください。いくつか質問させてもらえないですか」


 彼は抵抗せず煙草をふかすと、「いくつ?」と私を見下ろす。その顔が綺麗で、少し言葉に詰まってしまった。


「えっと、10...」

「多」

「9!」

「変わんねーだろ」

「じゃあ10で」


 というわけで私はPKの腕を開放し、ソファに座らせる。

「ささ、座って」

「......」


 テーブルをはさんで前に正座すると、まるで王と家来のような態勢で10の質問を開始した。


「1つ目。ここは、なんなんですか」

「...通称『宇宙旅行』。犯罪シンジケート」

「宇宙旅行?犯罪...シンジケート?」


 彼の言葉を簡単に飲み込めず、そっくりそのまま反芻する。似つかわしくない2つの単語が、頭の中を混乱させた。通称『宇宙旅行』ということは、正式名称が存在するのかもしれない。


それに彼が軽く「犯罪」というワードを出したことにショックを受ける自分がいた。犯罪シンジケートということは、つまりこの組織は暴力団やマフィアと括り的には同じわけだ。一体どのような犯罪を犯しているのだろうか。


「PKさんも、犯罪をしているんですか」

「......」

「あ、これ、ふ、2つ目の質問です」

「まぁ、宇宙旅行(この組織)にいる人間は全員犯罪者だな」

「......そう、ですか」


 あぁ最悪だ。

胸がバクバクと鳴って、呼吸が浅くなる。今、目の前にいる男も、そしてこれからの私もこのままでは犯罪者という事実をつきつけられた。


「私も、その宇宙旅行に入ったって、ことなんですよね...」

「入ったつーか売られたんだろ」

「はい」

「じゃあもっと立場は悪いな。お前は俺らが使う道具だから」

「道具...」


 今まで質問だけに回答していたところを初めて自ら話を進めたと思えば、人のことをこんなにも簡単に『道具』と言う。そもそも人が売られること自体おかしい話なのに、この人はそれをなんとも思わず、同情もせず、買われた以上は道具として働いて当然と、そう思っているのだろうか。


「次の質問は」

「あ!さっきチャイナ服(あの人)が、私が『どこか入るまで』って言ってたんですけど、それって...どういう意味なんですか」


 この質問の答えはこの組織がどのような組織なのかを、もう少し具体的に表したものだった。


「大体ここの奴らはグループで活動してる。元々の仲間や同じ目的同士で。犯罪者(俺ら)道具(お前ら)も、どこに属するかで活動は大きく変わる」

「どうやって所属が決まるんですか」

「さぁな」


 そういえばチャイナ服はこの人のことを、仲間を作らないと言っていた。だから知らないのかもしれない。


 逆に言えば、「じゃあ私も、どこにも入らないという選択肢も...」というかすかな希望を、彼は食い気味に否定する。


「それはどうかな。お前は金で買われた分働く必要がある」

「...」

「お前みたいに売られた女は多分、なるべく力があって大きい組織に取り入れられるように色んな手を使う。身体とかな」


 彼は私が売られてここに来たのだと、彼とはまた違う境遇なのだということを、無感情に淡々と説明したのだった。


 身体を使って犯罪組織に取り入る?

 この人は私のことも、そのようにして当然だと思っている。


 私の家族は、こうなると分かっていて私を売ったのだろうか。

 最初から愛されたことなんてなかったし、ずっと家から出たくて出たくてたまらなかった。

 こんな形で家を出て、売られたとしても地獄から抜け出せるんじゃないかと、本当は淡く期待していた。


 でもどうだ。話を聞く限り、ここも地獄だ。このままでは犯罪者だ。パーカーの裾をぎゅっと掴み、手の震えを抑える。


「私、外に出てきます」

「出させてもらえるのか?」

「...」

「いい、俺が出てく」


 PKは立ち上がり私の横をすり抜けると、錆びた音を立ててドアを開ける。階段を降りる足音が遠くなるのを聞きながら、私は顔を覆って静かにうなだれた。




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