桃駄郎
<世界迷惑劇場>
むかしむかしあるところに、子供のいないおじいさんとおばあさんがいました。
ある日、おばあさんが川で洗濯をしているところに、汚い子供が訪ねてきました。
「オイラは桃源郷からの使者、えっと、桃の使いだ。えらいんだぞ」
大きな態度の桃某さんは、この土地まで流れてきたものの、腹が減ったので食事をとらせろと言うのです。
その桃さんを連れて帰り、おじいさんと相談したおばあさん。
「きっとなにか困っているにちがいない。一緒にご飯を食べるくらいはよかろう」
おじいさんもおばあさんも、桃の男の子を可愛がりました。
このくらいの子供はみな家を手伝うものですが、まったく仕事をせずに悪さを働いたり畑から野菜をくすねたり。
しかし叱られて飛び出しても、夕飯時には必ず戻ってくるので可愛くも思い、愛着がわいていたのです。
その男の子に、老夫婦は『桃太郎』と名付けました。
やがて成長した桃太郎は、オニガシマのオニが悪さをしていると耳にし、退治しに行くことを宣言します。
おばあさんが作ってくれたきびだんごを持ち、オニ退治へと出発する桃太郎…… お供にしたのは、土地開発のための建築業者だった。
「振興開発特別措置をとれたなら、この無人島は宝の山だ…… くっくっく」
桃太郎は、金の亡者でした。
どうやら『有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法』とかいう早口言葉にしても覚えられない制度などを悪用する考えのようです。
その他にも、その島独自の植生があれば保護支援で儲かる、なにもしなくても金が入るといったクズ発想ばかり。
オニ退治なんてウソっぱちでした。
無人島へ向かった桃太郎に、しかし立ち塞がる影。
「ウホッ?」
ゴリラでした。
「なんだこいつ、とりあえず駆除しゴハッ!」
「ウホホホ、ホッ」
《バチィン》
刀を構えた桃太郎を、リーダーゴリラはビンタでKOしました。
業者に連れられて撤退する桃太郎。
しかし、桃太郎は諦めません。
きびだんごパワーでドーピングして襲いかかるも返り討ち。
元々が貧弱すぎました。
次はきびだんごを横流ししてお金に替えて、雇った海賊たちと襲いかかるも、返り討ち。
「ウホホ」
「ウホホ、ウッホゥ」
「な、何匹いやがる……」
この島にはたくさんのゴリラが棲んでいました。
オニガシマというよりゴリヶ島です。
それでも桃太郎の侵略は止まりませんでした。
ゴリーダーは何度も襲ってくる桃太郎たちにうんざりしていたので、追い返すのもこの頃にはデコピンです。
「くっ、そ、わかった。この島にはもう手を出さない。詫びとして、この南国産の黄色い果実をやるよ」
「ウホホホハ、ホウホウハホハ」
「ウッホホウホウホウッホッホ」
「ウホホホホゥ」
それはゴリラたちにとっての故郷の味、バナナ。
喜ぶゴリラたちでしたが、それは桃太郎のワナ。
話が通じると確信した桃太郎は、贈り物でゴリラを油断させたのです。
喜び踊るゴリラの中から子供をさらって、ゴリーダーを脅したのでした。
「ゥホウッ」
「このチビの命が惜しかったらお前ら島から出ていくんだ」
「騙したな、この人間!」
桃太郎に追い立てられ、みんな散り散りに泳いで他の島へと向かいました。
しかしゴリーダーだけは許されず、背中から斬り付けられ討ち取られてしまいました。
「お父さん!」
子供ゴリラは島から放り投げられ、海に落ちました。
そして流された先、犬に助けられ決意したのです。
島を乗っ取った鬼を、退治するのだと。
その事情を知った土佐犬は親身に怪我を治療して、子ゴリラに人間の鎧を与えました。
その奇妙な出で立ちに興味を引かれた大鷹が、子ゴリラの事情に涙して参戦しました。
土佐犬は闘犬です。
闘犬仲間を引き連れ、島を無惨に開発しようとする不動産・建築業者を吠えたて、噛みつき、追いかけて海に落としました。
大鷹は反撃しようとしていた桃太郎を見逃さず、その刀ときびだんごを奪い取りました。
子ゴリラは青くなっている桃太郎の顔をにらみ、指を鳴らします。
「こんにちは、そして、さようなら」
「ぐはぁっ!!」
子供とはいえゴリラのパンチに、桃太郎はゴミクズのように吹き飛ばされました。
うめいた桃太郎は降参し、まだバナナがあると言って海辺の小屋に入ろうとします。
でももう、その性根は知れていました。
そんなことはさせじと、追い討ち含めた子ゴリラによるフルボッコで桃太郎は気絶しました。
島の中は見る影もなく荒らされてしまいましたが、自然のちからはやがて元の姿を取り戻すでしょう。
散り散りになった仲間たちへの呼びかけは大鷹に任せ、島は土佐犬が守ってくれることになって一安心。
子ゴリラは桃太郎を縛り上げ、老夫婦の元へと向かいます。
ボコボコの桃太郎の姿に老夫婦は仰天。
しかし開発業者に書かせたこれまでの悪行を綴った手紙を見て、全てを悟った二人は子ゴリラに頭を下げました。
「この子が悪いことをしたね。お父さんのことは、詫びても足りない」
「この子と一緒に、私たちも償いをするよ」
「ウホッ?」
この立派な人物の近くにいて、なんで桃太郎が腐っていたのか子ゴリラにはわかりませんでした。
桃太郎を任せ、子ゴリラは帰ります。
リーダーの息子として、やらなくてはならないことが山積みなのでした。
土佐犬は新たなリーダーの家来として、一生ついていくと宣言をしてくれました。
大鷹は居心地のいい大松を棲みかにもらい、島の見張りを買って出て、今日も空から睨んでいます。
そして島にほぼ全てのゴリラが戻った頃。
伝え聞きだが、桃太郎が老夫婦の元から逃げだしたらしい。
元々商人の家からも逃げ出していて、老夫婦の家に転がり込んでいたのだと知り、新ゴリーダーは納得したものの、また来られては厄介だなあとため息をつきました。
しかし、島へと渡ろうとしていたが嵐に飲まれたと知らされると、さすがにゴリラの目にも涙。
「ウホウホウホホホホハホ」
《ドコドコドコドコドコドコ……》
追悼のドラミングが島に響き渡りました。
なんにせよ、これで無人島『ゴリヶ島』の平和は守られたのです。
めでたし、めでたし。
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