短編 泣き崩れる主人公《オマエ》と笑いいく踏み台《オレ》
「邪魔だ、モブ。俺様と嫁達の時間が勿体無いだろう」
”踏み台キャラ”、それは主人公の前に立ちふさがり、次の段階にまで向かわせる為の舞台装置、但し宿命のライバルとかの重要な役回りよりは噛ませ犬等の道化、読者からすればさっさとやられる事を望まれる存在。
私もその踏み台キャラの一人である。
この世界は分かり易く言えば二次創作の世界であり、私は典型的な思い上がり系転生者。
ヒロイン達に嫌がられているのにも自覚せず、照れているのだと都合良く解釈するストーカー思考。
発言からして二次創作を知っているのに、自分の言動がそのままだと理解しない愚か者。
原作知識を利用しようとし、何かを変えれば後も変わるのに、落語で教わった通りにしようとして応用の利かない間抜け同様に失敗する。
「畜生! モブ如きが調子に乗りやがって! 俺がオリ主だっ! この世界は俺様の物なんだぁあああああああっ!!」
当然、本当の主人公にヒロインは集まり、醜態を晒し愚かさを自覚しないままウロチョロしたり、呆気無く退場する……まあ、間抜けな姿で読者をスッキリさせる為の存在……らしい。
「オーリ、貴様をパーティから追放する。お前みたいな役立たずの世話を見ていられるか。さっさと消えろ!」
そして次は”追放物”でお馴染みの冒頭シーン。
役立たず扱いされた主人公が凄いのが後で発覚、踏み台キャラ達は馬鹿にしていた主人公が居ない事で破滅、落ちぶれて行く。
「畜生! お前さえ、お前さえ居なかったらっ!」
この日、栄光を掴んだ主人公の前で無様な姿を晒した
……主人公と同種の能力持ちの情報が入って来ないのか、とか、新しい仲間を入れるなら事前に試していないのか、とか、色々考えるし、仲間もそうしようとするのだが、まあ、私が何とか口八丁でそうはさせないように誘導したのさ。
踏み台転生者の時もわざわざ主人公の役割を持った子の目の前で原作ヒロイン達に絡み、原作のイベントに主人公が介入する際に邪魔になり過ぎない範囲に収まるように隠れて様子を伺って……正直キツかった。
考えても見てくれ。人格と記憶がそのままで肉体に精神が引っ張られてもいないのに、中身とは剥離した肉体年齢と同年代の女の子を口説く。
……前世の年齢からして親子ほど離れている学生程度の異性を口説く中年男、そんなのを演じなければならないのだからな。
ああ、キツいのはあの時も、三回程前の踏み台の時もだったな。
「あらあら、アクージョ様にアレだけ慈悲を掛けて貰っていて未だ学園に残っていますの? 図々しい」
「カマセーヌさん……」
あの時、私は女になっていた。
正確には実は高い身分の出だった主人公によって断罪される悪役令嬢の取り巻きの一人であり、ご機嫌取りの為に罠に掛けようとしたのだが……。
「……お馬鹿ですわね。勝手な真似をしたのは自分なのですし、責任をちゃんと取りなさい」
まあ、こんな風に自爆の挙げ句に見捨てられて家を追い出される。
こんな風に小説なら一巻の序盤に出てくる正直名前が有っても無くても大きい影響は無い、それが私の役目であり、既に殆どを終わらせて来た。
最初は戸惑いもしたがアドバイスもあった事だし、途中から似た内容のも有ったからな。
醜態を晒し、無様に散る道化、そんな役目を自覚してやっているのが不思議か?
……そうだろうな。
見ず知らずの他人の栄光の為に悲惨な運命を選択するだなんて余程の聖人君子でなければ不可能で、私はそうではない。
なら、どうしてやっているか? そもそもやるようになった経緯から話すとしよう……。
ある日、私は……私達は飛行機事故で死んだ……らしい。
「やあやあ、どうも。君には私の実験に付き合って貰うよ。報酬は君の大切な家族の新たな人生を幸せな物にするってのはどうかな?」
事故に遭った時の記憶は持っていないが、事故に遭ったという自覚はあるという奇妙な感覚を抱く俺が居たのは一面が白の空間であり、目の前には胡散臭いが無神論者だった私でさえ神であると認識してしまう謎の相手。
神にも色々居るのでギリシャ神話の神からマトモなエピソードを抜いた存在だと思わせる胡散臭い相手の申し出、それを私は受けるしかなかった。
私に任せたい役割は主人公の踏み台。
物語のように一定の道筋を辿りさえすればハッピーエンドが約束され、外れた場合にはバッドエンドになるケースが殆どだという世界において主人公の役割を果たす存在の始まりの辺りに遭遇する小さな障害、それを指示通りに演じろと言うのだ。
……その主人公達は私の子供達が生まれ変わった存在だという。
断るなんて選択肢が存在する筈もない。
「最近実験を終えたジャックって子もそうだったけれど、君も変わっているね」
「御託は良いから始めよう。手遅れにならぬ前に」
「世界五分前説って知っているかい? それまでの記憶やら何やらは全て作られた物で、世界は五分前に誕生したって話さ。必要なピースが揃って初めて物語は開始する。君という踏み台を投入してね。じゃあ、早速行こうか。君の家族を幸せにする為の舞台にさ」
私が変わっている? ああ、自分でも他人にそう思われるであろう自覚はあるさ。
だが、同時に私と同じ選択をする者は親ならば必ず存在するであろうと思っている。
そして、この日から私の第二第三……子供達の人数と同じ数の人生が始まった。
幸いなのは物語とした場合の開始時点からなので赤子の頃からスタートでは無い事だが……。
「大した力も持っていない雑魚がこのフミダイン様に逆らうんじゃねぇ!」
最初の世界は全ての者が特殊な能力を持つ世界であり、私は三倍の大きさになる能力を持った不良。
恐喝や暴行、目に余る悪行に良心が痛む日々の中、希望の光が現れた。
「私は負けない! 友達を傷付けた貴方なんて絶対に倒してやるんだから!」
出会って直ぐに分かったよ。
ああ、お前は下の兄弟の面倒を見ていたしっかり者の長女なのだと。
神の話では全員前世の記憶が無いらしいが、転生しても根本的な物は変わっていない。
心は泣きそうになるも体は反応せず、我が子にさえも乱暴を働こうとし、覚醒した力によってやられてしまう。
……もう私と彼女が出会う事はなく、別の世界にもう直ぐ行くのだから噂で近況を知る事も不可能だ。
私に出来る事は一つ、我が子により良い明日が待っているのを願うだけ。
それだけで私は幸せだ……。
「やあ! 子沢山は大変だろうけれど、次で最後だよ。魔法剣士を育てる学園において歴代最弱とされた主人公を馬鹿にし、決闘に負ける役目だけれど……一つ質問良いかな?」
「……何だ?」
神なのに一々質問するとは全知全能では無いらしい。
さて、何を聞く気なのやら……。
「いやさ、君からは今までの人生に関する殆どの記憶を奪っているから子供に関しては抱いていた想いと大体の情報しか知らないだろう? どうして此処までするのかって頼んだ身ながら不思議でさ」
ああ、此奴は間違い無く全知全能ではない。
だって簡単な答えすら想像出来ていないのだから。
「子への想いが、愛情が残っているのなら当然だろう。あの子達が私を忘れたとしても、それでも私はあの子達の父親だ。それ以外に理由は要らない」
我が子の幸せ、親にとってそれが何よりの願いなのだから。
「ふーん。じゃあ、次の一人称は”俺”でお願い。思いっきり馬鹿にして笑ってやってよ」
良いだろう。それが我が子の幸福に繋がるのならな。
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