時期外れの高校デビュー
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あぁ…痛い。
まさに氷の様な視線が心に刺さる。
「それで氷乃先輩も抱いたの?ふ〜ん」
あの後、氷乃先輩を心ゆくまで堪能した俺は部活終わりに様子を見に来た茜に、終わった後の現場を見られ、尋問を受けている。
因みに、あゆはあの後スヤスヤと自分のベッドで眠っていた。
「…あの…ほんとうに、ごめんなさい。茜ちゃんや…あゆちゃん…が居るって…分かってたのに…私…」
「いいや、氷乃先輩が謝ることじゃない。全て俺が悪い。茜、ほんとうにごめん。言葉で幾ら取り繕ったって仕方ないけど…」
「後悔は?してないの?」
今となっては、彼女を2人失うかもしれないという恐怖もあり、正直全く後悔してないという訳でもないが、目の前に抱いた相手が居るのだ。
その目の前で抱いたことを後悔したなんて発言は出来ないし、しない。
氷乃先輩の心を傷つけてまで2人を繋ぎ止めようとする程腐っちゃ居ないのだ。
「本当に?私たちを失うことになるかもしれないんだよ?」
「あぁ、後悔は全くしていない」
長い沈黙。
ゴミを見るような目で俺を見つめる茜から俺は1秒たりとも目を離さなかった。
「…はぁ。あゆの事を許した時から、こうなる日はいつか来るって思ってた。いいよ、2人のことも許す。あゆは?いいの?」
「正妻の茜がいいなら私はなーんでもっ。それに氷乃ちゃん先輩の気持ちは分かってたしー、皆んなでハッピーになれたら最高だよねっ」
「茜、あゆ、俺は2人と出会えて本当によかった。ありがとう」
そう言って2人を抱きしめる。
「もう…調子いいんだから…」
「蓮くんの性欲は2人じゃ受け止めきれないしっ」
それを見ていた氷乃先輩も2人に謝る。
「茜ちゃん…あゆちゃん…ほんとうに…ごめんなさい」
「いいんですよ、悪いのは蓮なんですから」
「こういう時はありがとうですよ、ほらっ氷乃ちゃん先輩もっ!」
そう言って迎え入れる体勢を取る茜とあゆの間に、すぽっと収まった彼女の目尻には涙が浮かんでいた。
「うん…ありがとう」
「俺は世界一幸せ者だー!」
きゃっきゃっと笑い合う彼女達をギュッと抱きしめ、幸せを実感したのだった。
次の日、登校していると同じように学校に向かっている男子生徒達が騒いでいた。
「おい、田中からLINE!めちゃくちゃ美人の転校生来たらしいぞ!」
「まじ?この時期に転校生?」
「2年?ウチのクラスだといいなぁ」
この時期に美人の転校生ねぇ…ん??
まさかと思いつつも、確信に近い物がある。
きっと氷乃先輩だ。
色々あって忘れていたが確か、あゆが制服の着方もレクチャーしていた筈だ。
急いで学校に向かうと、下駄箱付近で人集りができていた。
その中心には、やはり氷乃先輩。
おさげだった長い髪は、今はショートボブに切り揃えられ、眠た気だが色気のある目元に、真っ白な肌はチークでうっすらと桜色に彩られている。
膝下まであったスカートも膝少し上くらいまで短くなっているが、短すぎず、彼女の雰囲気と相まって品が感じられる。
「ねえ、そのリボンの色2年だよね!転校生?俺2年2組の田中!」
「ほら!困ってんだろ、そろそろ解放してやれよ〜」
「…」
氷乃先輩を質問攻めにしている男と、もう1人見覚えがある。
何時ぞやの、教室から飛び出て来て彼女にぶつかった挙句、謝りもせずに走り去って行った男と、その後を追って行った男だ。
転校生も何もクラスメイトじゃないか、それでも気付かないとは…周囲の彼女への関心の無さに呆れるな。
他の生徒達も、遠巻きに転校生?うそー?この時期に珍しくね?ヤバ!可愛い!可愛いというより綺麗〜、どこから引っ越して来たのかな?などザワザワしている。
人に囲まれることに慣れてない彼女はジッと黙ったままだ。
そろそろ助けてあげなくては…
また、注目の的だなこりゃ。
最近は男子からの射殺されそうな視線も少しは和らいで来たかと思ったんだが、一層視線に込められる殺意が増すことだろう。
あぁ、嫌だ、正直出て行きたくはない。
だが、ほったらかす訳にもいかない。人から注目を持たれる場の緊張ってのは慣れない物だな。
なんて事を考えつつ、氷乃先輩を質問攻めしている男に近付こうとすると。
1人の女子生徒が俺よりも先に男子生徒に近寄るる。
「転校生?あんた何言ってる訳?どう見たって2年2組の不香花じゃない。」
今日も相変わらずのツインテールに強気な態度。
彼女の人形のような美貌にパチクリと大きな瞳で、見つめられた男は大抵怯む。
「え…あ…橘さん、え?不香花って図書委員の?全然違くね?」
「うっそ!あのメガネの?こんな美人だったのか…」
「ちょっとメイクしてコンタクトにしただけじゃない、何処が全然違うのよ」
はい、散った散ったと輪を作っていた生徒達を散らして行く。
生徒達は皆、なんだ勘違いかよ、図書委員にあんな綺麗な子いたっけ。不香花さんってあのメガネの子?うそー?綺麗!俺、今日から不香花さん推しだわ等、それぞれ雑談しながら教室へ向かっていく。
天性のルックスで幼い頃から注目を浴び続けて来た彼女からしたら好奇の目を向ける集団を解散させるのもお手の物だ。
「あんたも黙ってないで何か言ったらどうなの」
「…橘さん…ありがとう。」
「ふん!そのトロ臭い喋り方どうにかならない訳?まあいいわ、ほらアンタの王子様も遅れてご登場よ」
そう言ってコチラを見つめる橘先輩と遅れて振り向く氷乃先輩。
「橘先輩おはようございます、氷乃先輩大丈夫でしたか?」
「姫のピンチに駆けつけるには遅いんじゃない?まあ、アンタ達の関係性なんて知らないけど、気をつけときなさいよ、トロいんだからすーぐ男どもにちょっかい出されるわよ」
態度や言葉はツンツンしているが、氷乃先輩を気にかけてくれているようだ。
言い過ぎな所はあるが、根はいい人なのだろう。
「俺の代わりに氷乃先輩を助けて頂いてありがとうございました」
「ふんっ!」
そういうと彼女は行ってしまった。
ツンツンとシャツの背中を引っ張られ、振り向くと氷乃先輩がコチラを見上げていた。
「蓮…くん…おは…よう」
「氷乃先輩、おはようございます。教室まで送ります」
「…うん」
教室に着くまでの間、彼女は俺の裾をきゅっと握ったままだった。
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