恋愛とは
「はぁっはぁっはぁっ…あぁっ」
「はいはい、残り1セット気合い入れていけー」
翌日、海斗さん改め師匠の自宅へと来ていた。
出会った駅から徒歩5分のところにある最近できたばかりの新築マンションだ。
その4LDKの一室がジムと化しており、
ベンチプレス、懸垂マシーン、ダンベル一式と帰宅部の俺とは今まで無縁の道具達が並んでいる。
1セット毎のインターバル30秒、今まで碌に活躍したことのない部位の筋肉が悲鳴をあげる。
まだまだ基礎的な体力すらできてない俺には器具を使っての筋トレは行わず、先日述べられた腕立て伏せやスクワットなどの自分の体重を使っての筋トレ、自重トレーニングが主だ。
「ラスト1!…はいっ終了ー。よく頑張ったな、後はさっさとこれ飲め」
そう言って渡されるのはドラッグストアなんかで売られているプロテイン、バナナ味だ。
匂いは甘くて美味しそうなんだが実際にプロテインシェイカー一杯分も飲むとなると正直キツい味だ。
筋トレの疲れも相まって吐きそうになるが、なんとか気合いで飲み込んだ。
「ぷふぁっ…!し、師匠筋トレなんかでモテるようになるんですか…?というか何撮ってるんですか」
俺にプロテインを渡して来た師匠が反対の手に持つ、無機質かビデオカメラの瞳を見返しながら尋ねる
「あぁ、お前のためでもあるが俺のYouTubeの企画でもあるからな。安心しろ顔出し嫌ならモザイクかけてやっから…
蓮、お前が好きな女性の身体ってどんなだ??」
「そうですね、やっぱり胸は大きければ嬉しいですけど色が白くて透明感のある健康的な身体ですかね…乃木坂のまいやんみたいな」
「そうか、そうだよなぁ俺ら男だって胸のサイズは好みがあるものの肌のハリツヤの良い女性を好む。それは何故だ?」
そう問われて答えに詰まる、自分が何故そういった女性を好むのかなんて考えた事もなかったからだ。
「え、何故ですか??やっぱりエロいから…ですかね」
エロい、なんだか惹かれる触ってみたいそれくらいの理由しか思い浮かばない。
「恋愛の本質は遺伝子の拡散である」
「遺伝子の拡散?」
「あぁ、より多くの子孫を後世に残す
これが全ての生物の生存理由であり、人間に置いての生殖活動すなわち恋愛の本質だ。
俺達人間が恋愛をするのは言わば、遺伝子様が生き延びるための方法だ。」
「はぁ…」
いきなり遺伝子が何だと難しい話が始まったので俺はうまく理解しきれない
「何故お前が色が白くて透明感があって健康的な女性を求めるのか、それは本能的な部分で感じ取っているからだ
“この女との間に出来る子はきっと元気に産まれてくるはずだ元気な子が生まれれば更に子孫は繁栄していく”と」
「な、なるほど考えた事もなかった…」
自分が本能的なところでそこまで考えているかは疑問だが、そう言われるとたしかに何故俺や色んな男が良い体をしたグラビアアイドルなんかに惹かれてしまうのか分かった気がする。
「だからお前も鍛える必要がある。
女だってあまり口にはしないが本能的な部分では男らしい体を求めてる。
人間はまだまだ狩りをして生きて来た歴史の方が長い。
だから今は狩りなんて無縁な社会でも遺伝子の記憶に残された強くて立派な体に惹かれるのさ。」
そう言った理由があったのか。
なんとなく女には細マッチョがウケるからとかその程度の認識で筋トレをさせられていると思っていた…
「学校では教えてれない恋愛の授業だ。
この夏休みの間に知識と体だけでもモテ男にしてやる、結果は必ずついてくる死ぬ気でついてこい。」
「はいっ!」
本当に何かが変わる、そんな予感を感じつつ、こうして俺の夏休みは始まった。