プールとネオン
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はぁ…なんでいっつもこうなんだろう…。
珍しく週末に休みが取れた父が、たまには家族で出かけようと言い出した。
行き先は隣の県の温泉地にある、若者にも人気のホテル。
ホテル内に温水の露天プールがあり、昼は綺麗な海が見え、夜はライトアップされ今時のナイトプールへと早変わりする。
父と母はホテル内のバーでお酒を飲んでくるから、あなたは若者らしく夜のプールにでも行ってみたら?と母に言われ、柄にもなくビキニなんか着て来たのが間違いだった。
色鮮やかなネオンの光に照らされたプール。
プールの側には同じくライトアップされたバーカウンター。
同年代…よりも少し上の大学生くらいの人達が多くいる。
私には場違いな場所だ、そう思いつつも、私だって本が好きなだけで中身は普通の女の子。
ここまで来たからには少しくらい楽しんで行こうと思い、プールに入った。
「うおっ、あの子おっぱいやべえ」
「マジだ、けどちょっと野暮ったくねぇ?」
「地味巨乳がまたいいんだろっ」
「変態かよ」
チャラそうな男性2人が笑いながら私の前を通り過ぎていく。
こういうのには慣れている。
制服を着てても目立つ、私の胸は良く男子の話題の的にされる。
けれど、化粧っ気もない、髪型もおさげで眼鏡のルックスのおかげでナンパされたりはしない。
目立たない端っこの方で少し雰囲気を楽しんだら帰ろう…
こんな所に友達や彼氏と来れたら楽しいんだろうなぁ。
他の子達みたいに髪の毛も綺麗にして、お化粧したり、お揃いの水着を着たりして浮き輪の上で写真を撮って。
なんて思いながら、ボーッとしていると背後に誰かが立つ気配。
チラリと後ろを確認すると、人のことを言えた義理じゃないんだけど、ヒョロリとした地味目の男性が、私が見ていた方と同じ景色を見ている。
いや、見ている風を装っている。
はぁ…なんでいっつもこうなんだろう。
こんな事ならさっきのチャラ男達にナンパされた方がまだマシだった。
悪い予感は的中し、地味な男性は後ろを行ったり来たり。
時たま、あたかも泳いでて当たりました的な事故を装い、手の甲や指先を背中や、太もも、お尻に当ててくる。
私が動くと同じように付いてくる。
プールを少し楽しむこともできないんて…声をあげて拒絶することができない自分が情けなくて涙が出てくる。
角の方で涙がおさまるのを待って、そしたらホテルの部屋に戻ろう。
他の女の子達が楽しそうにはしゃいでるのに、泣き顔を見られながら、プールを出て行くなんて惨めだ…。せめて気持ちを落ち着かせよう。
少し触られるくらい無視無視!
しっかりと私の後をつけてきた男の存在をしばらく無視して気持ちを落ち着かせていると
「さそってるんだよね?」
見た目通り、なんの特徴もない声で後ろから話しかけてくる。
私は背筋が凍りつき、恐怖で手足の指がジンジンと痺れ、文字通りその場で固まって動けなくなった。
唇も震え、なにも言葉を発せない私を見て、男は了承と捉えたのか背後から近づいてきて、背中をツンツンと突くように触ってくる。
気持ち悪い…逃げなくちゃ、逃げなくちゃいけないのに恐怖で身体が動かない。
人差し指でツンツンと背中を突いていた指がどんどん下へと下がっていく。
私のお尻を何度か突いたあと、満足したのか手が離れる。
よかった…このまま何処かに行ってくれたら。
そう思った矢先、男の青白く細い腕が、後ろから私を抱きしめる。
男が近づくと共にお尻に何かを押し当ててくる。
目の前が真っ暗になる。
イヤっ嫌嫌!気持ち悪い、怖いよ。
誰か、誰か…助けてっ
「んふぅー…すぅー…んふぅー」
男は私の頭の匂いを嗅ぎつつ、下半身を私に押し当てるのに夢中だ。
遠目から見れば、プールでイチャついてるちょっと痛いカップルくらいにしか思われてないだろう。
私が声を上げない限り誰も助けてなんてくれやしない。
叫ばなきゃ、自分の身は自分で守るんだ、そう思いつつも叫んだら何をされるか分からない恐怖と、男の気持ち悪さに足も、手も、唇も震えていうことを聞かない。
誰か…誰かっ
「たすっ…けてっ…」
「おっけー」
「いでっいでででっ!なにするんだよ!!」
「お前こそ何してんだ、その子泣いてるだろ」
そう言って現れたのはそこに居るはずのない人。
何で…どうして貴方はいつも私を助けてくれるの?
氷のように固まっていた身体から力が抜ける。
私の憧れの人、手の届かない、見ているだけしか叶わない筈の王子様。
「伊藤…くん…」
「やっぱり副委員長だった」
そう言って、ニコっと私に微笑みかける彼の笑顔は、どんなネオンの輝きよりも、私の気持ちを明るくさせた。
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