号外
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「オレサマ、ケイサツキライ」
「よぉしよぉし〜、カイくんは悪くないもんねぇ。いい子いい子〜」
マミさんの巨乳に顔を埋めながら頭を撫でられている師匠。
あの後、俺らは警察署に連れて行かれ一通り事情聴取を受けた。
警察が駆けつけた時、小太りの男をアイアンクローするマッチョという構図だった為、我が師匠が加害者だと疑われたのだ。
その誤解を解くのにそう時間は掛からなかったが、正義のヒーロー気分から一転、悪役に仕立て上げられた彼はすっかり警察嫌いになってしまったらしい。
「ほらぁ見てー、普段は絶対こんなことさせてくれないよぉ〜」
そう言いながらその大きな胸で師匠の頭を抱き、わしゃわしゃと頭を撫でるマミさん。
「けど、ほんとありがとうございました。
師匠が来てくれなかったらどうなっていたことか…」
「キニスンナ」
「早く元気出してくださいね」
なかなか本調子には戻らなさそうだ。
そのまま2人は帰って行き、俺は茜とあゆの元へと戻り、警察署まで親御さんが迎えに来るのを待つ。
あの時、警察がすぐ駆けつけてきたのはあゆのご両親が娘がストーカー被害にあっているから見回りを強化してくれと頼んでいたため、たまたま近くを巡回していた警察官が喧嘩と思って止めに来たようだった。
とにかく2人に何事もなくてよかった。
疲れ果てたのか、彼女達はベンチで仲良く手を繋ぎ迎えが来るまで眠っていた。
「なんじゃこりゃ…」
号外と書かれた校内新聞が校舎の至るところに貼られている。
そのタイトルは
『お手柄!ストーカーを退治し2人の美女をゲット!!』
そんなタイトルと共に俺があゆと茜に抱きつかれている写真が大きく掲載されていた。
周りの男子の視線が針のように刺さるのを感じながら、俺は自身の教室へと向かった。
うちの高校には新聞部というものがある。
去年までは校内の掲示板に学校内での些細なニュースや、写真付きの落とし物の知らせなど、なんの面白味もない記事を週に一回更新していた。
そんなおかげで、部員は減少、入部しても活動に参加しない名ばかりの幽霊部員も多い。
このままではいけないと思った新聞部部長、
この丸眼鏡に七三分けの男、三浦崇は何か新聞部の再起復興をかけたゴシップネタがないかと探していた。
今年、僕こと三浦は3年生となり部長になった。皆んなが注目するような記事を書いて、この学校新聞を生徒皆んなが楽しんでくれるような物にしたい、その一心だった。
3年になって初めて書いたのはこの学校の美男美女ランキングだった。
2、3年生はもちろん、新しく入ってきた一年生達も徹底的にリサーチし、聞き回り、アンケートを配布したりした。
男女ともに1位から3位までを公表した。
コレが生徒に大ウケし、初めて学校新聞を張り出した掲示板の前に人集りが出来た。
皆んなが自分が書いた記事を見て、アレコレと嬉しそうに話すのを見てやってよかったと、この部の活動で初めてやりがいを感じることができた。
花壇の花が枯れたとか、先生が授業に遅刻してきたとかそんな下らない内容じゃ誰も見ないのだ。
少し俗っぽくなるが、やはり人気の男子や女子にスポットを当てて記事を書く方が皆んなも見てくれる。
そう気付いた僕は、ランキング上位の生徒の動向に注目するようになった。
その中でも、今年入学してきたばかりで1、2位を獲得した2人の女子生徒。
1位 川本あゆ
2位 篠原茜
この2人の情報は常にチェックしていたのだが、夏休み明けから僕は季節外れのインフルエンザにかかり1週間、学校を休んでいた。
そして久しぶりの登校、新聞部の活動も開始するや否や、夏休みの間にあの2人の周りに何か変化が無かったかと探りを入れようとすると、衝撃の事実が発覚したのだ。
なんと篠原茜に彼氏が出来ていたのだ。
これはビッグニュース、相手は一体誰だ!?
男子ランキング1位坂口光太郎か?だが、彼は僕の調べによると恐らく…いやまだ確証は無い。
とにかく、この足で動いて調べるんだ。
一年生に聞くと、その相手はすぐに分かった。
篠原茜と同じクラスの伊藤蓮という男子生徒だ。
名前が分かった時点で、過去のアンケートや集計結果を見直したが人気ランキング投票では1票たりとも見当たら無…ん?あ、あった。
1票だけ名前があった。
可愛らしいウサギ柄のピンクのメモに小さな文字で伊藤蓮と。
知らなかっただけで以前から注目する女子は居たということか…。
とにかく、伊藤蓮という生徒について調べなくては。
クラスは1年1組、帰宅部、委員会は図書委員所属。
夏休み明けから一気に垢抜け、雰囲気が変わったという。
そして、なんと最近は人気No.1 川本あゆとよく一緒に帰宅しているという噂だ。
篠原茜とは別れたのか??
そう思ったが、昼は仲良く一緒に食べているのを確認した。
浮気か?この学校人気No.1、2の美少女2人と二股だって??信じられない…たしかにイケメンだったがランキング上位の男子達を凌駕する程という訳でも無い。
彼女ら2人は親友との情報だし、何か事情があっての事だろうか。
放課後、下駄箱の前で張っていると2人はやってきた。
篠原茜はおそらく部活動だろう。
悟られないように離れて尾行する。
普通に仲良さげに帰宅しているが、どうなのだろうか。
コレは浮気の現場なのだろうか…とりあえず2人仲良く帰宅しているという情報の裏は取れた、証拠として写真を一枚頂いておこう。
スマホの画面にポツリと雨粒が落ちてくる、雨か…だが心配はない。
取材の際はハプニングが付き物、いかなる状況も想定して折り畳み傘くらいは常にカバンの中に忍ばせている。
傘を持ってない2人は走り出し、おそらく川本あゆの自宅と見られる一軒家に到着した。
濡れた制服を絞り、そのまま2人は家の中へ。
これはもう言い逃れはできないのでは無いだろうか…ここまで状況証拠が揃ったとなると後は伊藤蓮、彼が家から出てきたところで直接話を聞くしかない。
そう決めた僕は張り込み用のイチゴパンと牛乳をコンビニで購入し、おそらく帰り道で通るだろう河川敷で待ち伏せることにした。
もうすっかり暗くなってきた、だがまだ彼が通っていない。
もう少し粘るかと考えていると急激にお腹が痛くなってきた。先程の牛乳で腹を下してしまったようだ…急いでコンビニに向かう。
その途中、彼こと伊藤蓮とすれ違う。
なにぃぃしまった、このままでは彼は帰ってしまう!
とにかく急いでコンビニに戻り、トイレを済ませ現場に戻る。
途中で眼鏡をかけた小太りの中年男性とぶつかる。
「あわわわっ!コレは失礼いたしまし…」
見た目は普通の中年男性だ…だが、右手に果物ナイフを持っている…普通じゃない。
「おお、おまっ危ないだろっ前見てあるけよっ」
「す、すみせんでした…」
震えが止まらない、下手すれば刺されそうだ。
僕はしばらくその場に立ち尽くしていたが、落ち着いて考えるとアレはどう見ても不審者だ。
何か事件が起きる前にとりあえず警察に通報だけはしておこう。
そうして、警察に連絡しこのあたりの地域に不審者がいると通報だけしておいた。
このまま今日は帰ろう、そう思って歩き出す。
たが帰宅途中、河川敷前を通ると事件は起きていた。
かなり遠目だが、ベンチに座った伊藤蓮に先程の男が何やら話しかけている…
そこからは怒涛の展開だった、篠原茜が現れ男はナイフを振り上げる。
彼はそれを受け止め、男と共に倒れ込む。
再度、ナイフを振りかざした男に、走ってきた川本あゆが体当たりで男を突き飛ばした。
彼女が何かを叫び、動かない男、そこへドローンを投函するチンピラとギャル。
まさに混沌と言った状況。
呆気に取られらながらも望遠レンズ付き一眼レフで撮った一枚。
川本あゆと篠原茜の2人が倒れ込む彼に抱きつくシーンを収めた僕は、警察官に何があったか話を聞き、帰宅後すぐに号外の作成へと取り掛かった。
すごい、すごいぞ。
学校新聞どころか、通常の新聞に載ってもおかしくない事件だ。
美人高校生モデルの交際相手にストーカーが襲いかかる。
伊藤蓮…今後は彼の動向に注意しなくては。
徹夜で準備し、誰よりも早く投稿した僕は学校中に号外を貼り付け教室に戻ったところで力尽きた。




