男のロマン
川本は二つ返事で連絡先を教えてくれた。
家に帰り着き、風呂に入り晩御飯とプロテインを終えた俺は貰ったクッキーに手を伸ばす。
すぐに食べ終わる、美味しかったと満足したところで川本に美味しかった、ありがとうと連絡を入れた。
数分後に携帯が鳴る、川本からかと開くと
篠原からだった。
『明日夕方から雨降るみたいだよー!
走るのやめてた方がいいかもっ』
篠原から連絡が来ること自体珍しく、さらに気遣ってくれている内容が心に沁みる。
そんな中俺はしれっと篠原の親友と連絡先を交換し、クッキー美味しかったなんて送ってしまったことに罪悪感を覚える。
なんだか浮気をしているような気分だ、こんなに健気な子を裏切ってしまって良いのだろうか。
たしかに俺の最初の目標はハーレムだ、男のロマンだ。
ただ、あの子に悲しい思いをさせてまで遂げたい夢なのだろうか。
そう思い悩みながら篠原に明日はやめておくと返事を送ると川本から返事が返ってくる。
『どういたしまして』
簡単な文と可愛らしいスタンプ付きだ。
2人の美少女と同時にやりとりをする優越感と、なんだか浮気をしているような罪悪感を抱えながらその日は眠りについた。
数日後、俺は緊張していた。
今日はついに普通自動二輪免許の卒業試験なのだ、
カンカンに晴れた8月の日に安全を考慮しての長袖長ズボン。
さらにはプロテクターと手袋、ヘルメットまで身に付けて緊張の汗を、暑さによる汗が全て流し去ってしまうくらい汗をかきながら自分の順番を待つ。
そしていよいよ、検査員に名前と番号を呼ばれる。
ハイっ!と大きく手を上げ、左右の安全を確認してから車体(CB400スーパーフォア)を跨ぐ。
スタンドを上げミラーの確認、左手でキーを回しエンジンをかける。
セルが回り、エンジンが動き出すのを音で感じる。
クラッチを握りギアを入れ、ゆっくりとクラッチを握る手を緩めるとゆっくりと進み出す。
決められたルートを決められた順番で通過する。
左右の安全確認を怠らず、しっかり30メートル前でウィンカーを上げる。
全ての課題をクリアし、最後はゆっくりと慎重にスタート地点に戻る。
始まった時と同じようにハイっ!と大きく手を上げ検査員に終了の意を伝える。
残りの人達が終わるのを見届け、結果を待つ
。検査員より合格を伝えられ近くの免許センターへと向かい免許証発行の手続きを行い、夕方には免許を手にすることができた。
なんだか全く実感がない、帰っている途中で師匠から着信が入る。
『よぉ、終わったか?』
「はい、なんとか合格して今帰ってます」
『じゃあそのままウチに寄れ』
「え?あ、はいわかりました」
言われた通り師匠宅へ向かう、珍しく建物の下で彼は出迎えてくれた。
そしてその横には黒と赤のバイクが1台停まっている。
「免許合格祝いだ、俺様が昔乗ってたバイク。VTR250だお前にやるよ」
「え?!ほんとですか!?」
「あぁ、乗ってみろ」
そう言われて跨ってみる。
キーを回しエンジンをかけると、教習車よりも重低音が大きく響く。
「ほらよ、そのまま適当に走ってこい」
フルフェイスのヘルメットを受け取り、被る。
クラッチを握りギアを入れゆっくり発進する。緊張しながら公道に出る、アクセルを回すとブォンとマフラーが鳴りスピードも上がる、2速、3速とギアをあげ身体が置いていかれるような加速間に感動する。
スゴイ、楽しい。風になった気分だ、どこまででも行けると本気で思える。
教習所で走るのとは訳が違う、なんとなく勧められて取ったが免許を取ってよかったと心の底から思った。