ピンチをチャンスに
ギラギラと輝く太陽の光に、肌の表面がジリジリと焼かれている感覚を味わいつつ俺は大きいドーナツ型の浮き輪の真ん中で両腕、両足を広げ空を仰ぐ。
もうとっくに足のつかない深さまで進んできており、ギャル3人も俺が乗ってる浮き輪に掴まっている。
左を見れば金髪ギャルの美砂さん、スレンダーながらにしっかりと寄せられた谷間も素晴らしい。
右には愛佳さん、無理のない自然体な美しい谷間だ。
そして、俺の足の間の部分にその豊満な胸ごと乗せてくつろいでるマミさん。
マミさんの位置は遠くから見ると如何わしいことをしているように捉われてもおかしく無い。
「ところで師匠は泳がないんですかね?」
「なんかぁカイくんサメが怖いらしいよぉ、昔見たジョーズがトラウマなんだって〜」
マミさんが言うと二人がクスクスと笑う。
「あの筋肉マンにも怖いものってあるんですね…」
「そこがまた可愛いよねぇ〜」
所謂ギャップ萌えってやつだろうか。
浮かぶのも飽きて、砂浜でしばらくビーチバレーを楽しんだ後、海の家でバーベキューの道具をレンタルしバーベキューをすることとなった。
お姉様方はお酒も入って楽しそうにはしゃいでいる。
チラリと篠原たちの様子を伺うと少し離れたところに貸し出し用のパラソル立て、昼食を取っているようだ。
そこに明るい茶髪の男と、金髪の色黒の男が近寄っていく。
しばらく様子を伺っていたが篠原達は断ってはいるが向こうもなかなかしつこく話しかけている。
しまいには川本の手を無理矢理引こうとし始める。
「チャンス到来、さっさと助けて評価あげてこい」
「え、俺喧嘩なんて…」
「彼女達のためだ、2、3発殴られるくらい我慢しろ」
そう言って背中を押される。
年上の不良っぽい人苦手だよ、怖いんだけど…
それでもここは行かなくてはいけないのは流石の自分でも分かる。
ええいっ!と恐怖を振り切るように走って彼女らの元に駆け寄る。
「お前マジ舐めすぎ、いい女だからって容赦しねぇーぞ」
「はなして!しつこい!!」
「やめてください!」
金髪のガタイのいい男が川本の手を掴んでいる。茶髪の男はニヤニヤと2人を眺めている。
そのまま全力で駆け寄った俺だが、砂浜に足を取られ猛スピードのまま金髪の男にタックルをかます。
「きゃっ…!」
「うおっ!」
俺がぶつかった衝撃によって川本を掴む手は離れたが、ここから一体どうすればいいのだろう…確実に殺される気がする、女である川本にもあんなにキレてたし…
「は?お前なに?」
とりあえず篠原と川本を守らなくては、彼女達と金髪男の前に立ちはだかる。
「篠原、川本向こう行ってろ」
「伊藤この人たち危ないよ、怪我しちゃうよ」
だよな、あぁ怖えぇ…流石に殴ったりしないよね?
「オイオイ、何無視してんだ?」
「ガキンチョお前そいつらの連れか?その2人貸せよ」
「嫌がってるんでやめて貰っていいですか」
なんかとか噛まずに言えたが、声が震え指先の感覚が冷たくなる。
人を威圧するのに慣れてる人間特有の空気を纏っている奴らだ。
対して俺は喧嘩なんてサッパリだ。
立ち塞がり必死で睨みつけるのが精一杯。
「何カッコってんだよ」
そう笑いながら俺の胸を押し、突き飛ばす。
尻もちを付いたと同時にこめかみあたりに衝撃が走る。
「いっ…!?」
蹴られた?まじか、割と人がいる場所でも平気で暴力を振るってきやがる。
なんてヤバい奴らだ、くそっこんな奴らに絡まれて女の子2人は怖かっただろうな…
男の俺でも怖い。
ジンジンと側頭部が痛むのを我慢し立ち上がり、もう一度言う。
「やめて下さい。」
「伊藤もういいよ!怪我しちゃうって!
警察呼ぼ!」
「よばせねぇよ!」
次は茶髪の男が篠原に掴みかかろうと向かっていく。突き飛ばされ蹴飛ばされた後の俺は足が震えて反応に遅れる。
間に合わない、くそっこんな奴に篠原を触らせたくない。
だけど無理だ、反応が遅れた上に金髪野郎に足をかけられ砂浜に転がる。
「いってぇ!!」
口に入った砂に不快感を覚えつつ顔をあげると、篠原に掴みかかろうとした男が頭を押さえてうずくまっている。
そのすぐ近くにはビールの缶が落ちている。
「まぁ、喧嘩もしたことないお前にしちゃ頑張ったな」
「師匠…」
「レンレン大丈夫ー??」
「高校生相手にナンパして暴力とかダサすぎー」
「そーだそーだぁ」
ギャル3人を引き連れた彼はとても頼もしく見えた。
というか、来るなら最初から付いてきて欲しかった。
「テメェ!」
金髪男が殴りかかるがうちのマッチョがその拳を掴んだ。
「俺様の握力90kg体験してみるか?」
「ぐぉっ…イタっイテテテ!」
「離して欲しけりゃとっとと失せろや」
「わかった、帰る帰るから、はなっ!イテテ!!」
「はっはっはっ!」
悪魔だ…自分から帰れって言ってんのに笑いながら全然離さない。
「さて、腕掴まれた子の分も充分返したし…消えやがれ。」
「「消えろぉー!」」
そうだ、篠原と川本は大丈夫だろうか。
振り返り彼女たちの元に寄る。
「あ、ありがとう」
「伊藤大丈夫?ほんとにありがとう」
川本は掴まれた腕を押さえ震える肩でお礼を言ってきた。
篠原は俺の心配までしてくれている。
「いいよ、2人とも怖かったよな。腕も掴まれて青アザになってる…もう大丈夫だから安心して」
そう言うと今まで必死に強気を保っていたのか、川本はその大きな瞳から涙を流して泣いた。
彼女たちの後ろから師匠が頭を撫でろとジェスチャーしてくるので、川本の頭に手を乗せぽんぽんっと軽く彼女の小さな頭を優しく撫でると、真っ赤な目でこちらを見る。
「だ、大丈夫だから」
「そっか」
そんな俺と川本を交互に眺める篠原。
こうして海水浴は幕を閉じた。




