リリアナと桂君
「いらっしゃいませー」
軽快な電子音が新しい来客を知らせる。
どうも、現代日本のコンビニで週3のパートをしてます。リリアナ・ステンシル元侯爵令嬢です。
は?頭がおかしい人なのと思ったそこのあなた。
私も自分の頭がおかしくて、日本に生まれて日本人の両親の庇護下でこの日本で普通に生活していたらどれ程良かったのかと思いますよ。
「うわっ!あのガイジンメッチャ派手じゃん」
若いお客さんなんかは、こんな感じで大きな声でお友達同士で話してますけど、私見た目こんなですけど言葉もの凄く理解出来てますから。
この髪の色、ピンクゴールドは染めてない地毛で態々金髪にするのも勿体ないし。桂君からは、そのままでいいからと絶対染めるなと言われてます。
そもそも、このコンビニのオーナー子息である桂君が秋葉原で行き倒れている私を、家出してコスプレマニアの子を拾ったと思っているのでそれに乗っかってます。
姉と兄、正確には兄とは異母兄妹で姉とは血の繋がりはなかったんですけど、めっちゃサイコさん達でドン引きしましたよ。
私が11歳の時に、兄と姉が城の皆を皆殺し、城下街も火の海とか半端ないことやらかして生き残った王侯貴族から。
「ふざけるな!ステンシルの家系の者とは2度と関わり合いたくもない」
と、異世界落ちで来世の縁も切られました。
いや、やったの私じゃねーし。
でも、あの異常な姉狂いの異母兄と根暗でサイコな姉と縁が切れるなら万々歳ですよ。
あれから6年まったりと桂君と暮らしてましたけど、なにか?
「リリちゃん時間じゃね?」
「桂君!あ、本当だ。教えてくれてありがとう」
スタッフルームから桂君が顔を出して言います。もうこんな時間ですか。
「笹山さん、すみません先に上がります」
「はいはい、気にしないで。気をつけて行くのよ」
「はい、ありがとうございます」
今日は用事があって早退させてもらう事になっている。もう少ししたらヘルプで友美ちゃんが来てくれることになっている。
「いこうか、リリちゃん」
「はい、桂君」
従業員出口から外に出るとまだ明るい。
ん?あの顔に体型は…。
「見つけたぞ!リリアナ」
アルバート殿下じゃん。
あの時に死んでなかったんだ。
凄い生命力だな。
「はぁ、お久しぶりです」
「久しぶりじゃ無いだろう!何故いなくなった」
「え?聞いてませんか?私異世界落ちになったんです。ていうか用事があるのでまた今度にしてもらえません?」
「はぁ?王族に向かって不敬だぞ」
「いゃもう、こっちの世界だと関係ないですから。それじゃ」
激高したアルバート殿下が、私に掴み掛かろうとすると、熊のようにでかい桂君がアルバート殿下の頭を掴む。
「リリちゃん、こいつなに?」
「桂君その人、故郷の昔の知り合い」
「ふーん」
ジタバタと藻掻いている。虫みたい。
あれ?桂君もしかして嫉妬してくれてる?
「離せ!は、離してくれ。頭が痛い」
「一応、事実婚だけど俺の嫁だから」
こっちに落とされて都合よく戸籍なんかある訳もなく。記憶を無くした身元不明の無国籍の少女です、はい。
そんな事より、今桂君の口から嫁って聞こえましたよね?
今まで桂君にめっちゃアピールしても、俺の嫁は魔法少女リリたんと言い切っていたあの桂君が!
2次元の嫁共聞いたかっ!私が嫁になったどー!(雄叫び)頭の中は鐘が響き渡ります。
「ほら、いくぞ」
「うん!桂君大好き!」
「あんまりはしゃぐなよ、腹の子供に障るだろ」
「ご、ごめんね!」
「嫁…子供…」
「あ、そうなんですー!私ママになるんでっ!ものすごーく幸せなんです」
キャピっと幸せアピールしてやる。
膝から崩れ落ちるアルバート殿下をほっといて、桂君の車に乗り込む。
今日は定期診断の日ですから。
この6年アタックしまくって、ライバルが2次元ってめっちゃ大変だったんだから、今更変な波風立てないで欲しいです。
「怨霊が…ローズマリーの怨霊が…」
知らんがな…私を異世界に落としたのあんた達じゃん…。まぁ精々頑張って下さい。
しっかし、あのサイコな姉の怨霊かぁ。
怖っ。
そんな姉の怨霊が異世界越えて遊びにくるのはまた別の話。