表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/100

リザレクション

 フェイレスは足下に倒れるゼロを見下ろした。


「最後の一撃、ほんの少しだけ肝を冷やしたぞ。もう満足しただろう?戻ってくるがよい」


 物言わぬ死体と化したゼロを慈しむように言葉を掛ける。

 そして、呆気に取られている人々を見回してセイラ、イザベラ、レナそしてリズを見た。


「我の役目は終わりだ。一度死霊と化したゼロに反魂蘇生術は効かぬ故、後は其方等に任せるぞ」


 フェイレスの言葉を受けたレナ、セイラ、イザベラ、リズがゼロに歩み寄る。

 フェイレスは最後に倒れたままのゼロの頭に手を当てた。


「ゼロよ、お前には死後の世界はまだ贅沢だと言った筈だ。あの娘等と共に人としての生を全うしてみせろ。それがあの死霊の娘の希望を叶えることにもなろう。生きよ!これが我がお前に課す最後の課題だ。さらばだ、愛弟子よ」


 フェイレスは立ち上がり、プリシラを見て頷くとその姿を消した。


 残されたのはゼロの仲間達とプリシラの軍団、連合軍だ。

 その全てがゼロの下に集まったレナ、セイラ、イザベラ、リズを見ている。


「神託によればゼロさんを救う手は1つだけ」

「リザレクションですわね?」


 セイラとイザベラは互いに頷き合う。


 リザレクション。

 それは死者を蘇生させる聖なる奇跡。

 清らかな乙女の高位聖職者によってのみ行使することが出来る祈りだ。

 今、それが出来るのは聖女の資質を持つセイラと聖騎士イザベラだけである。


「でも、ゼロさんには聖なる祈りが通用しません・・よね?」

「死霊の気を纏うが故に聖なる力に拒絶反応を起こしてしまう。おそらくリザレクションも同様ですわね」


 セイラとイザベラが途方に暮れる中、レナはしゃがみこんでゼロを見た。

 リズもその様子を覗き込んでいる。

 レナは死霊術師ゼロのパートナーとして、様々なことを学び、備えてきたのだ。

 フェイレスに言われずとも自分が為すべきことはある。


「死霊の気を纏うゼロにリザレクションは効かない。でも、リザレクション以外にゼロを救うことは出来ない。ゼロはそれを知ったうえで私に救いを求めたの?」


 レナは賢者として持てる知識を総動員して考える。


(私ならば相手が持つ魔力の波に合わせて生成した私の魔力をぶつけて中和させることが可能。けど、魔力と死霊の気は別。ならば、ゼロが纏う死霊の気を魔力に変換すればいいし、それも不可能ではない。でも、それだと変換作業に労力を割かれてしまい、私の魔力演算が追いつかない・・・)


 ふと気付いたように背後で覗き込んでいるリズを見た。


「逆だわ!私が調節した魔力をリズを通して死霊の気に変換してゼロに流し込んで中和させればいいのよ」

 

 精霊魔法を操り、死霊術師の能力を持つリズならば魔力を死霊の気に変換することが出来る筈だ。

 それが可能ならば、レナはゼロが纏う気の波に合わせて魔力の生成と制御を行ってリズに送り込み、リズがそれに変換してゼロに流し込む。

 その方法ならばレナは魔力演算に集中出来る。

 レナは自分の考えをリズに話した。


「出来ます。やってみせます!」


 リズは自分が死霊術師としては未だ未熟であることは自覚しているが、ゼロを救うためならば意地でもやり遂げてみせる決意を持って答えた。


 そうすれば後はセイラとイザベラの2人のリザレクションでゼロを呼び戻せばいいのだが、それも言うほど簡単なことではない。


「手順は分かりました。・・・でも、私もイザベラさんもリザレクションは何度も使えません。1回の祈りで力を使い果たしてしまいますから、やり直しはできません」

「それに、リザレクションは貴女達2人の力に合わせて力の強弱はつけられませんの。ゼロの様子を見ながら力を調節するのは貴女達の方ですのよ?しかも、少しでも誤ればゼロの身体と魂は崩れてしまいます。それでもやりますの?」


 セイラとイザベラの言葉を聞いてもレナとリズは力強く頷いた。

 どちらにせよ他に手段は無いのだ。


 4人はゼロの周囲に配置についた。

 仰向けに横たわるゼロの左右にセイラとイザベラが立つ。

 レナとリズはゼロの頭部側に位置し、膝を付いてゼロの額に手を置くリズに向かってレナが力を送るのだ。


「いくわよ、リズ」

「はい!」


 レナはリズの肩に手を当てて魔力を送り込み始めた。

 

 レナから送られた魔力を死霊の気に変換してゼロに送り込むリズの負担も大きいが、レナに至ってはゼロの状況を確認しつつ、死霊の気を中和させるために高度な魔力演算を繰り返しているため、脳が焼き切れそうな程の負担を強いられる。


「リズ!しっかり耐えてね」

「クッ・・はいっ!」


 2人の力でゼロが纏う死霊の気が中和されてゆく。

 レナはセイラとイザベラを見た。


「今っ!」


 セイラとイザベラがリザレクションの祈りを始めた。


「「シーグルの女神よ。ここに在りしは闘争に身をやつした罪深き戦士の躯。生きることは罪業を積み重ねること。なれどこの者は更なる罪を重ねる宿命を背負いし者。故にこの者の罪深き魂を慈悲の心をもって呼び戻し、更なる罪業を重ねる機会を与えたまえ。・・・・リザレクション!」」


 2人の祝詞に反応してゼロの身体が慈悲の光に包まれた。

 ゼロに拒絶反応は無い。

 レナ、リズ、セイラ、イザベラによるゼロを救うための儀式が始まった。


 ゼロは暗闇に立っている。

 遥か頭上に仄かな光が見えるがゼロはその光に向かおうとしない。

 むしろ目の前に広がる深い闇に向かって歩き出そうとする。


「主様・・・」


 ゼロを呼ぶ声に足を止めて見回せば、アルファ、オメガ、サーベル等のアンデッドがゼロを囲んでいる。

 その数は数万にも及ぶ。

 オメガがゼロの前に跪いた。


「マスター。旅立ちの時が来ました。貴方が進むべきは我等死者の道ではありません。我等の主で有り続けるため、生者の世界へとお戻りください」

 

 オメガに続いてリンツがゼロの前に立った。

 他のアンデッドは普段の姿だが、リンツはスケルトンの身体ではなく、生前の姿を残した霊体となっている。


「ゼロ、今まで俺の我が儘を聞いてくれてありがとうよ。俺も満足して輪廻の門を抜ける覚悟が出来た。ここから先は俺が行くべき道だ。お前はお前を待つ人達の下に帰れよ」


 そう言い残したリンツは闇に向かって歩き始めたが、数歩進んだところで何かを思い出したかのように振り返る。


「忘れていたぜ。ゼロ、リックスに礼を言っておいてくれ。ありがとうよ戦友ってな。それから、風の都市に帰ったら妻と娘にも宜しく伝えてくれ。苦労を掛けて済まなかった、俺は輪廻の輪に旅立ったから後は自分達の幸せを掴めってな。頼んだからな、これを伝えるためにもしっかりと生き返れよ!」


ニッコリと笑ったリンツは再び歩き始めて懐かしい戦歌を歌いながら闇に消えた。

 上を見上げてみればゼロを呼ぶ光が強くなっており、その光に向かってアンデッド達がゼロの進むべき道を示している。

 オメガがゼロの前に立ち、アルファがゼロの手を取る。


「マスター、参りましょう」

「主様、生者の道にお戻りください」


 2体に促されて光に向かうゼロ。


『・・ロ・・ゼロ・・・ゼロ!』


 眩い光のその先からゼロを呼ぶ声がする。

 レナ、リズ、セイラ、イザベラ、そして多くの仲間達の声に誘われて光の中に足を踏み入れるゼロ。

 オメガとアルファは光に包まれるゼロを見送る。


「私がお仕えするのはマスターただ1人。戻られましたならば、また何時でもお声掛けください。私は常にマスターのお側におります」


 オメガが恭しく頭を垂れた。


「主様・・私は他の何者よりも長く主にお仕えして死者としての力を蓄え、自らの輪廻転生の道を選択できるだけの力を得ました。故に主様が生きる道筋を決められたその暁には私も輪廻の門を抜ける決意です」


 光に飲まれゆくゼロの背中に語り掛けるアルファ。


「主様、戻られましたら覚悟を決めて選択してください。私はその時を心待ちにしています・・・・お父様」


 振り返ったゼロが目にしたのはカーテシーでゼロを見送るアルファの姿。

 その直後、ゼロは完全に光に飲み込まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ