師弟対決2
殺戮と闘争本能を抱きながらゼロの精神は風の無い湖の水面のように穏やかであった。
「フフッ、死霊に身をやつして落ち着いたか?我の教え、その身を持って思い知ったか?」
「はい、人の死とは水に溺れて沈みゆく者と同じ。生に縋り、もがけばもがく程苦しみが続き、魂を壊す。生を捨てて深く潜れば己が欲望と共に、死者としての生を受け入れることが出来る・・・」
「そうだ、今の貴様は死を受け入れつつも欲に駆られながら漂っているようなものだ。そのまま底に沈めば全てを受け入れ、より安らかとなるぞ?我等死霊術師には輪廻の門は開かれぬ。ならば、死霊としての生を受け入れたらどうだ?」
ゼロは笑みを浮かべた。
「そうすれば私は死霊としての穏やかで悠久の時を手に入れられるでしょう。しかし、私はまだそれを受け入れることは出来ません」
「ならば、戻ってくるか?貴様を呼び戻そうとしている娘等に身を委ねるか?」
ゼロは首を振った。
「私自らがレナさんに呼び戻して欲しいと望んだのだから、そうするべきなのでしょう。しかし、闘争本能を受け入れて屈した今、私が戦いに敗れて呼び戻されるならば良し、私を止めることが出来なければそれも良いのです。大丈夫、最早レナさん達を喰らおうという気はありません。戦いの相手として人々に徒なすのは今だけです。死力を尽くして戦って満足したら底に沈み死霊として穏やかにひっそりと悠久の時を生きますよ」
「ほう?我が貴様を止められないと言うのか?貴様、我に勝つつもりか?」
フェイレスは嬉しそうに笑みを浮かべて杖を構えてゼロに近づく。
「勝てるとは思いませんが、勝つつもりでいます。私の戦いは常にそうでした」
ゼロも剣を構えつつフェイレスとの間合いを取る。
フェイレスは2体のアンデッドを召喚した。
ヴァンパイアとデス・ナイト、幼いゼロにあらゆることを教えた2体だ。
ヴァンパイアはフェイレスの側近ともいえるバルツァー。
デス・ナイトは遥か東方の島国の剣士、サムライの神名。
この2体だけでもゼロのアンデッド達を遥かに凌駕する強さだ。
ゼロにしてみれば死霊術の師であるフェイレス、魔術や学問の師であるバルツァー、剣術の師の神名と、3人の師匠を相手しなければならないのだ。
「師匠にバルツァーに神名・・・。本気の師匠と戦う日が来ようとは夢にも思いませんでした」
「四の五のぬかすな。我の本気、受け止められねば貴様など魂ごと塵も残さずに消え失せるぞ!さあ、ゼロよ、我に挑んでこい!」
ゼロはアンデッド達を散開させた。
正面に大盾を構えたシールド、左右にサーベルとスピアが展開する。
シャドウとミラージュが彼等を援護し、ジャック・オー・ランタンが立体的に動き回る。
オメガ、アルファ、リンツはゼロの護衛だ。
「確かに死霊術師としては立派に成長したな。そのことは褒めてやる」
フェイレスの言葉と同時に無名が動いた。
真っ正面からシールドとの距離を一気に詰める。
左右にいるサーベルとスピアでは神名に対抗出来ないし神名の動きには追いつかない。
ゼロはサーベルとスピアを左右からフェイレスに向かわせ、神名の相手はシールドに任せる。
シールドではサーベル達以上に神名に勝ち目は無いが、守りに特化したシールドならば神名の攻撃を凌ぐことが出来る筈だ。
シールドも大盾だけでなく、短槍や剣を装備しているが、ゼロの思惑を知るが故にそれらの武器は抜いておらず、大盾のみで神名を迎え撃つ。
キンッ!
ゼロの剣と同じように斬ることに特化した神名の刀がシールドの大盾に当たって振り抜かれた。
デス・ナイトにまで進化したシールドの大盾は並大抵の攻撃では傷一つ付けることは出来ない。
その大盾の厚みの半分程までの深さまで神名の刀で斬り抜かれた。
「流石は神名、恐るべき剣筋ですね」
しかし、それもゼロの想定の範囲内だ。
シールドの大盾でなければ神名の攻撃を受け止められないが、このままだと直ぐにでも神名はシールドを突破してくるだろう。
ゼロは更にジャック・オー・ランタン1体をシールドの援護に回した。
これで暫くは神名を足止め出来る筈だ。
その間にサーベルとスピアがフェイレスに斬り掛かった。
シャドウとミラージュも2体を援護する。
「ふんっ、小手調べにもならん」
フェイレスは片手で杖を振るってサーベル達をあしらう。
その間もバルツァーは動こうとしない。
動く必要が無いのだ。
「サーベル達がまるで歯が立たない。やはり、師匠は圧倒的ですね」
だが、この結果もゼロは想定していた。
そもそもこの程度のことでフェイレスに立ち向かえるとは思っていない。
ただ単に少しでもフェイレスの手を煩わさせればいいのだ。
「行きなさい!」
ゼロの命を受けてオメガと残りの
ジャック・オー・ランタンが前進してフェイレスとの戦いに加わった。
その局面に至ってバルツァーが動いてオメガ達の牽制に回る。
神名とバルツァーとフェイレスが別個に動く。
この時をゼロは待っていた。
ゼロはフェイレスに向けて駆け出した。




