ゼロに挑む戦い
オックスは剣を構えるゼロとその配下のアンデッドを見渡した。
ゼロと10体のアンデッドに対してオックス、レナ、リリス、ライズ、イズ、リズ、チェスター、カミーラの8人で挑むのだ。
「みんな、分かっているな。俺達が戦おうとしているのはゼロだ。不器用で誇り高く、孤高で仲間思い、時には間抜けなところもある。そして、何よりも強い!忘れるな、目の前にいるゼロは魔王を、神を倒した男だ。俺達の仲間のゼロじゃねえ!魔王殺し、神殺しのゼロだ!全員が生き残れるなんて甘い考えは捨てろ!死にたくない奴、ゼロと戦いたくない奴は今のうちにこの場を離れろ。始まったら逃げ出すことも出来ないぞ!」
オックスの言葉を聞いて引き下がる者はいない。
「言った筈だ!この戦いで誰かが死ぬならば俺とカミーラだ!断じてゼロやあんた達じゃない!」
「・・・」
チェスターとカミーラが前に出る。
「見くびるなよ!俺はゼロになんか負けるとは思ってないぜ。このままゼロをイリーナの所に行かせたら俺がイリーナに殺される!」
ライズが笑った。
「ゼロ様には妹の想いの責任を取ってもらう必要がある。兄として逃がすわけにはいかない!」
「バカなことを言わないで兄様!兄様ではない、私がゼロ様を逃がしません。例え冥府の底にだって追っていきます!」
イズとリズも引くつもりは毛頭ない。
そして、リリスもオックスの肩に手を置いた。
「オックス、行きましょう。私達がゼロを助けるの。そのために私はオックス背中を守る。だから存分に暴れなさい」
オックスを中心に8人はゼロに向かう。
ゼロの魂は闇に支配されつつあった。
【戦う・・敵も刃を向けてきた・・敵を倒せ・殺せ・・・敵とは何だ?・・戦いは終わった・・・目の前にいるのは仲間達・・敵だ・・戦え・・戦いたくない・・剣を下ろせ・・・】
流されようとするゼロと抵抗するゼロ、2つのゼロが衝突し、ゼロの魂が歪み始めた。
『抗うな・・抗うことは無意味だ・・欲望に身を委ねろ・・闇に沈め・・・』
ゼロの声ではない。
ゼロを包み込む優しい声が魂に響き、ゼロは欲望の声に屈伏した。
「タタカエ!センメツセヨ」
抑揚のないゼロの声に反応してゼロの背後に控えるアルファ以外のアンデッドがオックス達に襲いかかった。
「ファイアーウォール!」
「地の精霊ノーム、守りの壁を打ち立てろ!」
レナとイズがオメガ達の前に炎と岩でできた防御壁を発生させるが、オメガ達は止まらない。
岩の壁を飛び越え、炎の壁を突破したオメガの爪がチェスターを襲う。
「チッ!速い!」
咄嗟に防御姿勢を取るチェスター。
「呪縛!」
カミーラの符も躱された。
「守ってる暇はねえぞ!」
横合いからライズが斬り掛かり、オメガを弾き飛ばす。
「すまない!助かったぜ」
「そんな暇ねえぞ!そら来たっ!」
オメガが飛び退いたのと入れ替わりに2体のジャック・オー・ランタンが大鎌を振りかざして飛び掛かってくる。
「今度こそ、呪縛!」
カミーラが投げた2枚の符。
1枚は躱されたが、残りの1枚がジャック・オー・ランタン1体を捕らえた。
「よしっ!」
動きを止めたジャック・オー・ランタンを狙ってチェスターが剣を振るう。
ライズはもう1体の牽制に回る。
チェスターの剣が振り抜かれる直前、シャドウの衝撃魔法に邪魔をされ、その一瞬の隙にミラージュがジャック・オー・ランタンの拘束を解いてしまう。
オックスとイズはサーベル、スピア、シールドを相手に戦うが、3体の連携に翻弄されて思うように攻撃を与えられない。
イズとリリスはオックス達の援護をするが、その2人を狙ってオメガが爪を振り下ろす!
「プラズマランス!」
間一髪2人を守るが、レナの魔法も躱されてオメガにはダメージを与えていない。
「畜生!此奴等やっぱり強い!ゼロが前に出ていなくてもこの有り様かよ!」
「改めてゼロの凄さを思い知らされるわね!」
リリスやリズが放つ矢もことごとく躱されてしまう。
そんなリリス達を狙って再びオメガが向かってくる。
オックスもサーベル達から離れることが出来ない。
「やっぱり力も手も足りねえ!」
「だったら私達が加勢しますわ!」
戦場に乱入してきたのはイザベラとヘルムント。
ヘルムントのメイスがオメガを押し戻した。
「このオメガは私達が引き受けます。他のアンデッドは任せましたわよ!」
司祭として祈りでは右に出る者がいないヘルムントは祈りの力を込めながらメイスを打ちつける。
「ヘルムントは名うてのヴァンパイアハンターですの!オメガ、貴方でもただでは済みませんのよ!」
ヘルムントだけではない、イザベラも負けじとサーベルを振るう。
「ならば私が上位スペクター2体を抑えます」
アイリアとリックスを連れたセイラも参戦してきた。
「俺はセイラを守りながらリンツを止めるか」
リックスもセイラの前でシミターと短剣を構える。
ゼロの仲間が、イザベラとヘルムントが、セイラ達がゼロを救うためにゼロに挑んでいる姿をプリシラは見守っていた。
「彼奴等でも今のゼロには歯が立つまい。見たところゼロの配下のアンデッド達と渡り合うのが精一杯だ。あれでゼロが動いたらひとたまりもないぞ」
プリシラが呟いたとおり、イザベラやセイラ達が加わったところでゼロを相手に不利であることは変わらない。
「だが、彼奴等に妾が手を貸せば望みはある。なのに何故に妾を止めた?何故ゼロを闇に落とした?」
「なまじ抗うと彼奴の魂が歪み潰れてしまう。ならば一度闇に落としてやればいい。それに、其方は闇に落ちた今のゼロを相手に手加減をしながら戦えるか?」
プリシラは暫し考え込み、首を振った。
「手加減は無理だな。妾とて本気で挑まねば今のゼロは止められまい」
「なればこそだ。其方が本気で戦えば彼奴の身体も無事では済むまい。それこそ彼奴を救うどころではなくなってしまう」
「全力の妾の力ではゼロに勝てたとしても、救うことは叶わぬということか。魔王たる妾も情けないものだ」
「だからこそ我が来たのだ。あの馬鹿者を救うのはあの娘等の役目だが、そのためには我が手を貸す必要があるだろうよ」
「ほう、其方とゼロの直接対決か?これは見ものだな」
「茶化すな。我とて命の呪縛から解き放たれた彼奴を相手にするとなれば余裕などないのだ。本気で相手せねば彼奴を押さえつけられぬよ」
プリシラは苦笑しながら見送った。




