ゼロ
ゼロは剣を手に俯いたまま佇んでいる。
レナに制止されてオックス達も足を止めた。
「ゼロ・・・お前、どうなっちまったんだ?」
アンデッドと化したゼロだが、仲間達はそれを目の当たりにしても信じることが出来ないのだ。
虚ろに佇んでいるゼロの前にはオメガ、サーベル、スピア、シールド、シャドウ、ミラージュ、ジャック・オー・ランタン、リンツが自分達の主を守るように並び、背後にはアルファが控えている。
彼等も普段の雰囲気とはまるで違い、容易に近づくことができない。
レナですらも後ずさりを続けながら恐怖に駆られた表情で震えていた。
「リズ、お前ならばゼロ様の今の状況が分かるのではないか?」
イズに問われたリズだが、青ざめた表情で言葉を発することも出来ずに首を振るだけだ。
ゼロの弟子として、死霊術師としてゼロが置かれている状況を理解できるが、あまりにも恐ろしい現実にそれを口に出すことができないのだ。
そのリズの様子を見ただけで仲間達は全てを悟った。
「ゼロ、俺達のこと分かるだろう?今ならまだ間に合う筈だ、戻ってこいよ」
ライズが意を決してゼロに歩み寄ろうとしたその時、ゼロの前に立つアンデッド達が一斉に武器を構えた。
即座に飛び退いたライズが剣に手を掛ける。
「ゼロ!てめぇどういうつもりだ!俺達に剣を向けようってのか?」
悲しげな表情でゼロを睨むライズ。
「ライズ下がれ!ゼロ達を刺激するな!」
オックスが諫めるが、そんなオックスも戦鎚を構えて最悪の事態に備えていた。
ゼロは深い闇の中にいた。
【戦いは終わった・・もう戦わなくていい・・・眠れ・・・】
闇の中に佇むゼロの胸にゼロの声が響いている。
【・・・戦いたい・・・まだ足りない・・剣を取れ・・・】
【戦いは終わった・・・敵はもういない】
闇の中で2つのゼロの声がせめぎ合う。
【眠れ・・・戦いは終わった】
【終わっていない・・戦え】
【進め・・闇に身を委ねろ】
【引き返せ・・・】
【眠れ・・帰るべき場所に帰るために・・・剣を取れ・・もう終わりだ・・戦え・眠れ・・喰らえ・・欲望のままに破壊しろ・・喰らえ・・全てを喰らい尽くせ】
2つの声が1つになり、どす黒い欲望がゼロを包み始めた。
祈りを止めてゼロ達の様子を見ていたセイラ達。
リックスは危険を承知のうえでセイラをゼロの所まで連れていくか否か迷っていた。
アンデッドと化したゼロを救うためにはセイラの力が必要なのではないか。
しかし、今のゼロの状態が分からない以上はセイラを危険に晒すことになる。
リックスが決めあぐねていたその時、突然セイラを眩い光が包んだ。
「何だっ!」
咄嗟に身構えたリックスだが、セイラは光の中で天を仰いでいる。
ほんの数秒の後、全身を包む光が消えてセイラが脱力するように倒れ込むのをアイリアが受け止めた。
「セイラっ!どうしたの?」
アイリアの声に顔を上げたセイラはアイリアとリックスを見た。
「今、シーグルの女神の神託が下りました。ゼロさんを救え、と」
セイラの目は決意に満ちていた。
イザベラとヘルムントもゼロの様子を窺っていた。
「ゼロってば、どういうつもりですの」
「サイノスとの戦いで果たすべき役割を果たしたというのか。ゼロ殿らしいと言えばそうだが、その手段が尋常でなさ過ぎる」
「ホントですわ!周りの迷惑を考えないで!」
「行こう、イザベラ。我等にも役目がありそうだ」
イザベラとヘルムントもゼロに向かって歩き出す。
ゼロと対峙しているレナ達は闇雲に動けずにいた。
一刻も早くゼロを呼び戻し、救わなければならないのに、その気持ちとは裏腹に本能的な恐怖感に足が竦んで動くことが出来ないのだ。
「このままでは間に合わなくなる。私がゼロを救う。そのためならば何も恐くない。私が何よりも恐ろしいのはゼロを失うこと!」
レナのゼロを想う心が恐怖心をねじ伏せた。
オックス達も同じだ。
「俺達はゼロを逝かせねえ!ゼロを力ずくで引きずり戻してやる!」
レナが、オックスが、ライズが、イズ、リズ、チェスター、カミーラが覚悟を決めた。
【敵が近づいてくる・・敵を倒せ・・・戦え・・目の前にいるのは敵だ!】
闇のゼロの声に飲まれてゼロが目を開いた。
その澱んだ目に写るっているのは仲間達の姿ではない。
剣を向けるべき敵だ。
戦うべき、倒すべき敵だ。
理由など必要ない、欲望のままに戦い、喰らうのだ。
虚ろなゼロが剣を構えれば、ゼロの前に立つアンデッド達もオックス達に刃を向けた。
「畜生!やっぱりゼロとやりあわなければならないのかよ!」
ライズが怒りに声を震わせながら剣を抜いた。
オックスも気持ちを奮い立たせる。
「みんな!ゼロを倒してゼロを救い出すぞ!」
オックスの号令に全員が武器を構える。
「ゼロ・・・絶対に、絶対に助けてあげる。私の全てを捧げても必ず助けてあげるわ」
レナの目には剣を構えるゼロの姿しか見えていなかった。
ゼロを救おうとする者達がゼロに挑む、本当に最後の戦いが始まる。




