神に挑む戦い2
プリシラとグレイの共闘が始まった。
プリシラの大鎌とグレイの槍で間断無くサイノスの杖を打ちつける。
流石に魔王の一撃はサイノスの体勢を大きく崩すが、やはりそれ以上の効果はない。
魔王プリシラの参戦によりサイノスの動きも変わったのだが、たまったものではないのがグレイである。
魔王と冥神の戦いに生身の人間だ。
サイノスの杖だけでなく竜巻のように振るわれるプリシラの大鎌に巻き込まれては冗談では済まされない。
実際、プリシラとサイノスが5回斬り結ぶ間にグレイは1回割り込めればいい方だ。
圧倒的な実力差なのだからグレイが引けばいいのだが、そうはしなかった。
プリシラに主導権を渡さないという戦士としての矜持などではない。
例えプリシラであろうとも、サイノスを倒すことは敵わないのだ。
それ程の相手だ、何が起きるか分からない。
故にグレイは危険を承知でサイノスの直近で戦い続けながら僅かな兆候も見逃すまいとしているのだ。
「やはり、決め手に欠ける。というか、妾でもどうにもならんの。こうなったらゼロの回復を待つしかあるまい」
言いながら大鎌を横一閃に振り抜くプリシラ。
グレイはプリシラの鎌の軌道を飛び越えて槍をサイノスの杖に叩きつける。
キンッ!
渾身の力を込めた一撃なのに軽い感触。
グレイの背筋に悪寒が走る。
(こいつ、本気になったか?)
「グレイッ!」
プリシラもサイノスの異変に気付いた。
虚ろだった目に光が宿り、グレイを捉えている。
(しまった!)
グレイに向けられた杖の先を避けるのは間に合わない。
咄嗟に槍を突き出した。
グレイの槍の穂先が神業的にサイノスの杖の先端に当たり、杖の軌道が僅かに逸れた。
「グッ、クソッ!」
グレイの胸に向けられた杖の先が逸れて左腕を貫いて千切り飛ばし、その勢いでグレイは地面に叩きつけられる。
「隊長っ!!」
薄れてゆく意識の中、グレイはエミリアの声を聞いた。
その様子を見ていたゼロは未だに体力、精神力共に回復していなかったが無理をして立ち上がる。
「ゼロ、貴方はこの戦いの要なのよ!無理をしては駄目!」
レナが止めるのも聞かずに歩き始めた。
「これ以上待てません!私が出ます!皆、行きなさい!」
ゼロの命令を待っていたオメガ達が一斉に動く。
ゼロがサイノスに差し向けたのはヴァンパイアのオメガ、バンシーのアルファ、デス・ナイトのサーベル、スピア、シールド、スペクター・マジシャンのシャドウ、スペクター・プリーストのミラージュ、ジャック・オー・ランタンが2体、そしてスケルトン・ナイトのリンツだ。
ゼロが最も信頼を置く10体の精鋭アンデッドがサイノスに向かい、ゼロもまたサイノスに向けて近づいていく。
「ゼロ、待ちなさい。貴方まで前に出てどうするの!無茶をしないで!」
慌てて止めようとするレナだが、ゼロは首を振った。
「あれほどの敵です。術師である私があまり離れていては彼等が存分に戦えません」
「そうは言っても・・・もうっ!仕方ないわね、私も一緒に行くわよ。また何をしでかすか分からないんだから!」
後に続くレナの声にゼロは肩を竦めた。
ゼロとレナはサイノスとの戦いに向かったが、他の仲間はついて行くことが出来なかった。
オックス、ライズ、チェスターは無事だったがダメージが大きく直ぐには戦いに復帰できない。
無防備な3人を守るためにイズ、リズ、リリス、カミーラもゼロとレナを見送ることしか出来なかった。
左腕を吹き飛ばされたグレイは倒れたまま動かない。
「隊長っ!しっかりしてください!」
グレイに駆け寄ったのはエミリアだ。
エミリアだけでなく、ウォルフ、アストリア、シルファもいる。
皆、グレイの命令を無視して後を追って来たのだ。
「グレイの部下かっ?丁度いい、直ぐにグレイを下がらせろ!」
サイノスと渡り合いながら叫ぶプリシラ。
エミリア達はグレイの止血をしたうえで巨漢のウォルフが意識が無いままのグレイを背負い、離脱していった。
「かなりの深手だが、彼奴ならば死にはすまい」
運ばれて行くグレイを見送ったプリシラは再びサイノスに斬り掛かった。
プリシラとサイノスの一騎打ちは長くは続かなかった。
グレイが後退して直ぐにオメガ達10体のアンデッドが現れたからだ。
そして、ゼロもサイノスの前に立つ。
「ここからが本番です。生者ではかすり傷1つつけられない冥神サイノス。私は死霊術師ゼロ。貴女に傷を負わせることが出来る私のアンデッド達が相手です」
オメガ達はサイノスを取り囲んだ。




