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開戦の狼煙

 攻撃の先頭に立つイザベラだが、その鎧は泥と埃に汚れ、兜に至っては完全に壊れて廃棄し、一般兵の兜を被っている。

 それでもイザベラの威厳は少しも失われてはいない。


(イザベラはこうでなくてはな)


 肩を並べるヘルムントはイザベラから旗槍を受け取った。

 ここから先は力ずくでの総力戦、その先頭でイザベラはサーベルを手に戦う。

 イザベラの背中はグレイの槍が守るとなれば、ヘルムントが最後まで、勝利の時まで旗を翳し続ける役目を担うのだ。

 戦いを前にイザベラは援護に馳せ参じていたオメガ達を見た。


「ここから先の援護は結構ですの。貴方達の主の下に戻りなさい。貴方達のおかげで被害を最小限に済ませることができましたの。ゼロにもお礼を伝えておいてください」


 イザベラの労いの言葉にオメガは深々と頭を下げた。


「死霊たる我々に過分なるお言葉ありがとうございます。聖騎士様からの労いで私達は些かダメージを受けてしまいそうです」


 冗談を言うオメガにイザベラは笑みを見せた。


「貴方達はこれからあのサイノスに挑むのですね。ならば、あえて言いましょう。貴方達全員、必ず生き残りなさい!」


 その言葉を受けてオメガだけでなく、デス・ナイトは軍隊式の敬礼で、シャドウとミラージュは膝をつき、ジャック・オー・ランタンは大鎌を翳して、そこにいた全てのアンデッドがそれぞれの方法でイザベラに対して敬意を表した。

 それはまるで死者を救う戦乙女を描いた絵画のような風景であり、それを見た全ての兵から死への恐怖感が払拭されていった。


「重ね重ねの優しきお言葉でダメージを戴いた死者からのお返しです。聖騎士様と皆様のご武運をお祈りいたします」


 そう言い残してオメガ達は姿を消した。

 オメガ達を見送ったイザベラは戦場を見渡した。

 サイノスに動きはないが、敵のアンデッドは増え続けている。


「さあ、行きますわよ」


 イザベラはサーベルを抜いた。


 ゼロも準備を整えていた。

 目の前に広がる夥しい数の敵アンデッドはオックス達やプリシラ、イザベラの両軍団が一掃してくれる。

 ゼロとアンデッド達はサイノスにだけ集中すればいいのだ。


「始めましょう」


 ゼロの言葉にチェスターとカミーラが前に出た。

 

「開戦の狼煙だ!派手に上げるぜ」

「・・・はい!」


 魔力を込めたチェスターの剣にカミーラが符を貼り付け、呪術の舞を踊り始めた。

 チェスターの剣が紅蓮の炎に包まれる。


「行くぜっ!俺達が生きる決意と散っていった魂への弔いの炎だ!」


 チェスターが剣を振るうと放たれた炎が大波となって戦場を駆け抜ける。


「大気よ私達の炎に集まれ!その身を燃やし、全てを焼き尽くせ!」


 カミーラの術で炎に酸素が焼べられて炎の威力を増す。

 大地を埋め尽くしていた昆虫等のアンデッドが焼き尽くされていく。


「さあ!道は開いたが長くはもたねえ、一気に行くぜ」


 チェスターとカミーラが走り出す。


「俺も行くか。下手こいてくたばってイリーナに叱られないようにしなくちゃな!」


 ライズもゼロの肩を叩き、笑いながら駆け出した。


「彼奴等ばかりに前衛を任せてはおれん!神に挑む戦いなんて経験出来んからな。俺も暴れさせてもらう」

「私は後衛でもいいけど、カミーラが突出したわね。ならば、私はカミーラの援護に回るわ」


 オックスが戦鎚を担ぎ、リリスが矢を番えながら3人を追う。


「まったく、皆でやる気を出しちゃって。ゼロの護衛がいなくなるじゃない」

「「それは私達の役目です」」


 静かに歩き出したゼロの後にレナ、イズ、リズが続いた。

 先行したチェスター、ライズ達は炎の波を乗り切ったアンデッド達との戦闘を始めている。


 その様子を見ていたプリシラも大鎌を手に進軍を始めた。


「ホントに奴を見ていると面白い。魔王となって永い時の中でこんなにも胸が高ぶったのは初めてかもな」


 プリシラの背後には魔物達が付き従う。


「行け!大暴れしてサイノスを丸裸にしてやれ」


 プリシラの命令で魔物達が突撃を始めた。


 連合軍も突撃を始め、全ての軍団が戦闘を開始した。


「最後の戦いが始まりました。私の出番です」


 ゼロ達が戦いに赴いた後に残ったセイラが杖を片手に跪いた。


「この戦場で戦う兵士、冒険者、魔物達、そしてゼロさんのアンデッド達を守るために力尽きるまで私の全ての力を注ぎます」


 戦場を包み込む祈りを始めるセイラ。


「セイラ、周りのことは何も心配しないで祈りに集中しなさい。セイラのことは私とコルツさんで守り抜く」

「了解しました。お任せください」


 アイリアの言葉にはリックスが心外そうだ。

 リックスも数多くの修羅場をくぐり抜けてきた。

 戦闘における技量だってコルツには及ばずともアイリアよりは上であることは間違いない。


「おいおい、俺もいるんだぜ?コルツ程ではないが俺だって十分に戦えるぜ?」


 リックスの抗議にアイリアが悪戯っぽく笑う。


「リックスさんには他にも役割があるんですよ。万が一の時にはセイラを安全な場所に連れて逃げてもらわなくちゃ。あの洞窟でゼロさんの剣から生き延びて、今まで生き残ってきたリックスさんなら簡単ですよね?」


 アイリアの言葉にリックスは苦笑した。

 リックスは過去に他の仲間と共に犯罪に手を染めていた。

 セイラ達のパーティーを襲い、若き剣士ライルを殺め、アイリアを傷つけ、セイラを手に掛けようとしたあの日。

 セイラ達を救出に来たゼロの刃の前に屈して命乞いの末に生き延びたあの時からリックスの贖罪の日々が始まった。

 心を入れ替えて鉱山での労役に励む中でドラゴン・ゾンビの厄災を生き延び、魔王との戦争で囚人部隊として戦い抜きながら多くの仲間を失った。

 この戦乱においても幾度も危機を乗り越えて人々を救ってきたのだ。


「これで少しは・・・。いや、犯した罪は消えることは無いな」


 しみじみと呟いたリックスだが、自分の生きた道に後悔は無い。

 ふと見ればセイラとアイリアが自分を見ている。

 命を奪おうとした自分に対して偽りのない笑顔を向けてくれている。


「確かに犯した罪は消えません。でも、だからといって前を向いては駄目なわけではありませんよ」

「リックスさんに私達は何度も助けられましたよ。私達にとってリックスさんは頼れる先輩冒険者です」


 2人の言葉にリックスは照れくさそうに鼻をすする。


「まあ、俺の罪は俺が背負うべき俺だけのもんで、生涯降ろしてはいけないもんだ。肩が凝るが前を向いて背負っていくさ」


 感慨深く語るリックスの言葉を聞いたコルツが慌てる。


「リックス殿!決戦前にそのようなことを口走っては危険な旗が立ちます!兵士の仲間内ではその手の言葉は禁句ですよ!」


 コルツの言葉にリックスは肩を竦めた。


「不吉なことはやめてくれよ。せっかくここまで生き延びたんだ。この戦いが終わったら若い冒険者の面倒を見るのもいいなと思っているんだぜ」

「だから!そういう思いを口にしてはいけないのです!」

「大丈夫だ。俺はそんなへまはしないさ」

「いや、だから、もう話さないほうが・・・」

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