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最終決戦2

「蟻っ?虫のアンデッドなんかあるのか?」


 チェスターが信じられないという声を上げた。


「昆虫とはいえ命あるものに違いはありません。それが死を迎えればアンデッドになることも有り得なくはないのですが。死霊術としては不可能です。私は当然のこと、フェイレス師匠でも昆虫のアンデッドを使役するなど不可能です」


 そう語るゼロの身体が小刻みに震えている。


(ゼロが震えている?恐怖を感じているの?)


 レナがゼロの異変に気づく。

 魔王を前にしても、生死の狭間に立たされても感情の起伏を見せなかったゼロが恐怖を感じているのだ。


「生と死の狭間の世界を漂う死者と心を繋ぎ、共に生きるのが死霊術です。昆虫は死してなお狭間の世界に留まろうという強い思念なんか持っていません。そもそも彼等は生きるために食べ、子孫を残すために繁殖する、その本能に従って生を全うするのです。そんな意思の疎通ができない彼等をアンデッドとして呼び戻して使役するなんて、死霊術の範疇を超えています。あれは紛う方なき神の力です」

「しかし、アンデッドで数が多いとはいえ虫けらだ。取り付かれないように注意して焼き払ってしまえばいいんじゃねえか?」


 相変わらず楽観的なライズの言葉にゼロは首を振る。


「例えアンデッドでなくても蟻の集団性、凶暴性を甘く見てはいけません。どんな強固な鎧を着ていようが、僅かな隙間から入り込み、身体に取り付かれれば全身の穴という穴から体内に侵入して身体の中と外から食い荒らされるんです。しかも、アンデッドとして使役されているならば、本能ではなく術者の意思に従って敵を襲うのです。しかも、蟻だけとは限りません。蜂であるとか、それこそ小さな羽虫であっても数万に襲われれば口や鼻を塞がれて窒息させられるかもしれません」


 ゼロの説明にことの恐ろしさを悟った全員の表情が青ざめた。


「だとしたらここもヤバいんじゃねえか?」


 ライズが爪先立ちになって周囲の地面を見回す。


「サイノスの顕現が不完全なもので、ここまではその力が及んでいません。奴が力を取り込むにつれてその範囲は広がるでしょうが、まだ大丈夫です。しかし、サイノスの脅威はこれだけではありません」

「まだあるのか?もう勘弁してくれ」

「昆虫のアンデッドを使役出来るならば、蠍や毒蜘蛛、毒蛇も然り、動物や魔物も同様です。ほら、あのように」


 言いながらサイノスを指差すゼロ。

 今、まさにサイノスの周囲に多種多様なアンデッド達が現れつつあった。

 人間の死者のなれの果てであるスケルトン、ゾンビ、グール等だけでない。

 エルフ、ケンタウルス、コボルト、オーク、オーガやサイクロプスのアンデッド。

 魔物だけでない、狼や熊、象等の動物まで、ありとあらゆるアンデッドがサイノスの周囲数十メートルの範囲に現れた。

 しかも、地面は絨毯のように黒く染められている。


「力が安定していないだけあって範囲は狭いですが、どう攻めたものか・・・」

 

 ゼロは決断を迫られていた。


 その間にもグレイ達は一歩一歩進みながらサイノスの影響範囲から逃れようとしている。

 グレイの周囲にも聖騎士を襲った蟻アンデッドの軍勢が集まりつつあり、エミリア達の結界とアルファが地面を凍りつかせることにより辛うじて防いでいた。


「アンデッドが出始めたが、向こうはまだ動きがない。間に合うか・・・」


 既に力を使い果たして倒れる隊員が出ている。

 中隊随一の法術を誇るエミリアですら先程から虚ろな表情で何時倒れても不思議ではない。

 目的の待避場所まではまだ数十メートルある。


「結界が弱まっています。お気をつけください。私の氷だけでは防ぎきれません」


 先導するアルファがグレイに警告する。

 

「た・い長・・すみま・・・」


 遂にエミリアが力尽きて意識を失った。

 グレイはエミリアを抱きかかえる。


「中隊、結界を解いて全速で撤退!力尽きた者に肩を貸せ!」


 グレイの号令で中隊は互いに支え合いながら走り出す。

 エミリアを抱えたグレイは殿を守るが、結界を解いた途端に周囲を黒い大地が埋め尽くした。


「走りなさい、私が道を開きます」


 アルファは周囲の大地を業火で焼き払い、グレイ達の前に炎の道を切り開いた。

 普段はほとんど行使することがないアルファの炎撃魔法。

 かつて森の魔女と呼ばれた彼女が人間だった時に最後に放ち、自らを焼き尽くした魔法。

 ゼロのアンデッドとして、人間だった自分と決別するために封じていた炎だ。


「行きなさい。生にしがみつくのです。生者としての責任を果たしなさい」


 アルファの声を背にグレイ達は炎の活路を走り抜け、その様子を見届けたアルファは炎の中に姿を消した。

 彼女がいるべき場所はゼロの傍らである。


 その一部始終を見ていたゼロ。


「グレイさん達も撤退できましたね。これでもう遠慮をする必要もありません。それでは神を殺す戦いに行きますか」


 ゼロは剣を抜いた。


「ちょっと待て。ゼロ、俺達を置いて行くつもりじゃあるまいな?」


 オックスがゼロを呼び止める。

 他の仲間達も決意に満ちた表情だ。


「サイノスには生者の刃も術も届きません。ここから先は死霊術師である私の役目ですよ」


 振り返って冷たい、寂しげな笑みを浮かべるゼロ。


「そりゃねえぜ!俺達にも出来ることがあるはずだ。サイノスには通用しなくても奴のアンデッドになら俺達の力も通用するだろう?俺も精霊騎士としてちょっとしたコツを掴みかけているんだ。一緒に行かせてもらうぜ」

「俺だって、イバンスの冒険者としての意地とプライドがある。それにな、まだ見せていないが俺とカミーラの取っておきの技もある。その技でお前の進む道を切り開いてやる」


 ライズとチェスターがゼロの前に出る。


「ゼロ、何を言っても皆を止められないわよ。説得しようとするだけ無駄。皆、勝手について行くわよ」


 リリスが諭す。


「ゼロはサイノスとの戦いにだけ集中しなさい。貴方のことは私が守る。蟻一匹だって貴方には近づけないわ」


 レナがゼロの肩を叩いた。


「ゼロ様、私達兄妹もゼロ様を守ります」

「私も死霊術師です。必ずお役に立ってみせます」


 イズとリズも頷いている。

 そして、セイラがゼロの前に歩み出た。

 

「私が皆さんを守ります。戦場全体を祈りで包み込んで全てを守ってみせます」


 リックスとコルツが笑う。


「俺は前線では役には立たないが、この嬢ちゃんだけは守ってみせるぜ」

「小官も前線でお役に立ちたいのですが、やはり聖女殿の護衛を全うします」


 それを見たアイリアが頬を膨らます。


「ちょっと2人共!セイラの直近護衛士は私です!」


 ゼロの仲間達はそれぞれが自分の役割を全うしようとしていた。


 そして、その気持ちはプリシラも同様だ。


「ゼロ!妾にも任せろ。貴様の仲間達と共にアンデッド共を一掃してやる。死霊術師としての道を全うしてみせろ!」


 前面にオーガやサイクロプスの大型の魔物を配置し、後方に機動力のある部隊を待機させる。

 この戦いでは温存していたグリフォンやワイバーンの飛行戦力も投入するつもりだ。


 ゼロは力強く頷いた。


「皆さん、行きましょう。最終決戦です!」

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