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最終決戦1

 冥神サイノスが顕現化したが、幸いにもゼロの声により撤退が間に合ったために顕現化の嵐の犠牲になった者はいなかった。


「すまねえ、神官の嬢ちゃんの回復を待っていて遅くなった」


 リックス達が体力が回復したセイラを連れてゼロに合流してきた。


「遅れてすみませ・・っ!あれが、サイノス・・・」


 嵐の後の中心に立つサイノスの姿を見たセイラが息を飲む。


「でも、やっぱり安定していない。不完全なままです」


 セイラの言葉にゼロが頷く。

 セイラの言ったとおり、サイノスは不完全なままで顕現化したようだ。

 その場に佇んだままで微動だにせず、禍々しい気を垂れ流している。

 その場に立つ全ての者がその気に気圧されて立ち竦んでいるが、それですら取り込んだ力を未だに制御出来ていない証拠なのだ。


 この場においてサイノスに有効な攻撃を与えることが出来るのはゼロのアンデッドだけであるが、直ぐには行動に移れない。

 アンデッドの攻撃ならば有効とはいえ、中位や上位アンデッド程度では勝利は望めない。

 ゼロがこつこつと育て上げた最上位アンデッドによる全力攻撃にのみ僅かな望みがあるのだ。

 しかし、今ゼロの手元にいるのはアルファのみ。

 オメガを始めとした他のアンデッドはイザベラの軍団の援護に向かったままだ。

 呼び戻せば直ぐにでも戻ってくるが、今はオメガ達を呼び戻すべきではない。

 イザベラの軍団には聖騎士や兵士、更にその後方にはシンシア達が移動してきている。

 イザベラやヘルムントはともかく、今この場に展開している軍団の中で一番弱く危険なのがイザベラ達であるためにオメガ達を呼び戻すわけにはいかないのだ。


「今のうちに仕掛けたいのですが・・・」

「あれはっ!」


 思案するゼロの言葉を遮ったのはセイラだった。

 皆がサイノスに目を奪われていたために誰も気付かなかった異変。

 聖なる気の気配を感じたセイラが指差した先はサイノスからほんの少し離れた位置。

 そこに展開された結界で身を守っていた集団、グレイの中隊だ。

 

「グレイッ!何をしていますの!」


 イザベラも危険極まりない前線に取り残されているグレイ達に気付いた。


 城塞都市の入り組んだ路地にアンデッドを引きつける遊撃戦を行っていたグレイ達は撤退が間に合わなかったため、エミリアや他の隊員による防護結界を張ってサイノス顕現の嵐を持ちこたえていたのだ。


「聖騎士団前に!特務中隊を救出します!」


 イザベラの号令で聖騎士達が突撃態勢を取り、馬を進めようとした時、グレイの声が響き渡った。


「来るなっ!近づいてはいけない!我々に構うな!」

「何を言いますの!サイノスが動かない今しかチャンスはありませんのよ!」

「駄目だ!我々は完全に包囲されている。結界を解くことはできないし、移動も困難だ!」


 叫びながらイザベラを止めるグレイだが、その周囲に敵の姿は無い。

 

「何を仰ってますの?気でもおかしくなりましたの?」

「私にも分からない!しかし、我々は囲まれている!」


 グレイの言うことが理解出来ないイザベラ。

 そのやり取りを見ていたゼロもグレイの言っていることがわからない。

 それでも、グレイ達は隊員の力を総動員して幾重にも結界を張り、ひたすらに見えない脅威から身を守っているのだ。


「隊長、一体何を感じているのですか?私には分かりません。イザベラさんの言うとおりにこの場を離れた方が良いのではありませんか?」


 結界を張っているエミリア達ですらグレイが何を警戒しているのか分からないのだ。


「職業軍人としての私の勘だ。国境警備隊員だった頃から今までに何度も味わったことがある。これは敵に完全に包囲されているときの感覚だ」


 誰もが理解できないでいる中でグレイは見えない何かと対峙している。


「とにかく、結界を解いたら一気に襲われるぞ!」

「しかし、何時までも結界を張り続けてはいられません。遠からず私も皆も倒れてしまいます」


 エミリアの言うとおり、グレイに命じられて最大限の力で結界を張ったが、このままでは訳も分からないままに力尽きてしまう。

 強力な結界を張りながら移動することは困難ではあるが、不可能ではない。

 グレイは少しでも安全で早く離脱できるルートを探していた。

 

 ゼロはグレイの周囲に姿を隠した精神体のアンデッドでもいるのかとその気を探ったが、そのような様子は無い。

 しかしながら確かにグレイ達の周囲には死霊の気配が満ちている。


「地下ですか!」


 ゼロはグレイ達の足下に途轍もない数の死霊の気が集まっていることに気付いた。


「アルファ、彼等のもとに飛びなさい。彼等の撤退を援護するのです」


 今回はゼロの命令を聞いたアルファが姿を消した。


 グレイは脱出ルートを決めた。

 東方に100メートル弱の場所にある1本の樹木が、先程の嵐に巻き込まれずに残っている。

 そこが安全である根拠はないが、今のこの場所に留まり続けるよりはいい。

 イザベラの本隊とは離れてしまうが、東に一直線に向かうしかない。

 

「このまま東のあの木までに移動する。結界を張ったままだ!」


 グレイが目標を指示する。

 走れば十数秒で到達できる距離だが、結界を張ったままでは四半刻はかかるだろう。

 中隊が移動を開始しようとした時、グレイの目の前にアルファが現れた。

 しかも、何重にも張った結界の内側にである。


「貴女は確か、ゼロ殿の・・・」


 アルファはグレイに向けてカーテシーを披露する。


「主様の命により援護に参じました」

「しかし、ここは結界の内側だぞ」


 驚くグレイだが、アルファは澄まし顔だ。


「失礼ながらこの程度の結界など私には何ほどでもありません。主様に長くお仕えした私はその辺にいる有象無象のアンデッドとは違います」


 そう言うとアルファはグレイの指し示した目標の木まで氷の道を作り出した。


「脅威は地中に潜んでおります。私の氷でも抑えきれません。皆様は結界を張ったまま離脱してください。足下が滑ります。細心のご注意を」


 アルファが作り出した退路を一歩一歩進み出すグレイ達。

 その様子を見ていたイザベラがしびれを切らした。

 グレイはどんな状況下でも生き残れるだろうが、彼の部下は違う。

 グレイに鍛え上げられて生き延びてきた精鋭達ではあるが、彼等は神官戦士に過ぎないのだ。

 このままでは隊員達が力尽き、中隊が瓦解する。


「聖騎士団各員は自己に対して防護結界を展開!特務中隊に合流してその撤退を援護する!」


 イザベラが率いるのは武術も法術め秀でた聖騎士達だ。

 個々に結界を張れば駆け抜けられる筈だ。


「聖騎士様、お待ちください。何やら異様な気配を感じます。あの隊長もそれに気づいているのでしょう。彼等には我が主がアルファを差し向けました。ここは踏みとどまってください」


 イザベラを止めようとするオメガにイザベラは慈愛の笑みを向けた。


「オメガ、だったかしら?流石はあのゼロのアンデッドですわね。私は神職にありながら貴方の声に耳を傾けてしまいましたの。でもダメ。私は聖騎士イザベラ!窮地の仲間を捨て置くわけにはいきません」


 そう言ってサーベルを抜いたイザベラを先頭に聖騎士団は走り出した。



「イザベラさん無謀です!」


 動き出した聖騎士団を見たゼロが声を上げたが、もう遅い。

 騎馬突撃の態勢の彼女達を止める術はない。


 イザベラを先頭に駆け出した聖騎士団だが、直ぐにその突撃は止められてしまう。

 突撃を開始して直ぐに複数の聖騎士が地中から現れた黒い影のようなものに包まれて倒れたのだ。


「ひいぃっ!ギャアーッ!」

「何だこれは!グァァ!」


 馬諸共に全身を黒い影に包まれてのたうち回る聖騎士達。

 何れも聖騎士として経験が浅い新兵で、防護結界の威力が足りなかったのかもしれない。

 仲間の聖騎士が影を払おうとするが、彼等も次々と巻き込まれて倒れてゆく。


「なん・・ですの・・・まさかっ!撤退っ!引きなさい、倒れた者はもう駄目です!構わずに撤退なさい!」


 イザベラの突撃は僅か数十メートルで崩れ去り、犠牲を出したうえで撤退を余儀なくされた。


 その有り様を見ていたゼロは愕然とした。


「まさか・・・あれは死霊術云々の問題ではありません。私も想像もつきませんでした。あれはまさに神の力です・・・」


 ゼロの言葉に周りにいたレナ達は首を傾げる。


「ゼロ、あの黒い影は何?」

「何が起きているのですか?」

 レナとセイラの問いにゼロは振り返らずに答える。


「あれは、おそらく蟻です」

「なんですって?」

「蟻の、昆虫のアンデッドです。数十万、いや数百万の群れで彼等を襲ったのです」

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