進むか引くか
「ドラゴン・ゾンビが3体!面倒ではありますが・・・」
ゼロ達の目の前に現れた3体のドラゴン・ゾンビ。
1体でも厄介なのに、それが3体、しかしノー・ライフ・キングはまだ複数のドラゴン・ゾンビを従えている筈だ。
「サイノス顕現の素材として温存していますね。どうする・・・一気に押してドラゴン・ゾンビを倒し、素材のドラゴン・ゾンビを戦いに引きずり出すか。一旦引いてサイノス顕現に備えるべきか・・・」
選択に迫られる。
このままではサイノス顕現化の可能性が高い。
一旦引いてサイノスとの戦いに備えて態勢を整えるべきか、それともドラゴン・ゾンビ3体を倒してノー・ライフ・キングに肉迫し、素材として温存している残りのドラゴン・ゾンビを引きずり出すか。
一気に攻めるだけの戦力はあるし、3体のドラゴン・ゾンビを倒すことも可能だ。
成功の望みはあるが、ドラゴン・ゾンビを倒してノー・ライフ・キングに肉迫した際に顕現化が行われたとしたら、何が起こるか分からない状況であり、顕現化に巻き込まれる可能性すらある。
かといって、顕現化に備えて態勢を整えたところでサイノスに勝てる保証もない。
進もうが、引こうがリスクが高いのは一緒だ。
ゼロが悩んでいることはオックス達仲間も分かっている。
その上でゼロの決断を信じてついて行くだけだ。
「ゼロ、迷うな!己が力を信じろ!」
「ゼロ!道は前にしかありませんの!一気呵成ですわ!」
プリシラとイザベラの声が響き渡る。
レナがゼロの肩に手を置いた。
「ゼロ、私達が一緒よ。それに・・・」
振り向けば優しい笑顔のレナ。
しかし、その笑顔が一瞬で冷たい笑みに変わる。
「あのドラゴン・ゾンビは私に任せて。ほんの少し時間を稼いでくれれば一撃で葬ってあげる。賢者として、ゼロのパートナーとしての私の力を見せてあげるわ」
冷たいレナの目にゼロの背筋が寒くなる。
「そういうことならば俺達に任せろ。レナと俺達で目の前のドラゴン・ゾンビは引き受けた」
オックスが戦鎚を担いで前に出る。
他の仲間も同様だ。
「ゼロ、ここは俺達に任せてお前のアンデッドは他に回してくれ。その方が手っ取り早い」
ライズに背中を叩かれてゼロは決断した。
「前に進みます。私のアンデッドは聖騎士団の援護に回します。レナさん、貴女の実力を見せてください」
ゼロの言葉にレナが真剣でありながら嬉しさに溢れた表情で頷いた。
「任せて!・・・・」
杖を構えて詠唱を始めたレナの周囲が帯電し始める。
今や大概の魔法は無詠唱で放つレナだから相当な魔法だろう。
「よし!俺達は前に出る。だが、あれはレナの獲物だ、俺達は牽制だけでいいから簡単だ!」
オックスを先頭にライズ、チェスター、イズが駆け出してドラゴン・ゾンビに立ち向かう。
リリス、リズ、カミーラは詠唱中は無防備になるレナの守りについた。
ドラゴン・ゾンビに挑むなど正気の沙汰ではない筈だが、全員の表情が確信に満ちていた。
ゼロの決断にプリシラとイザベラもドラゴン・ゾンビへの猛攻撃を開始する。
ゼロは配下のアンデッドをイザベラ達の援護に向かわせた。
プリシラの前にもドラゴン・ゾンビはいるが、そちらは問題ない。
今、一番戦力が必要なのはイザベラだ。
「援護など無用!と、言いたいところですが、一番損害を受けやすいのは私達ですわね。ありがたく援護されますわ」
オメガ、サーベル、スピア、シールド、シャドウ、ミラージュ、ジャック・オー・ランタンそしてリンツがイザベラの指揮下に入る。
シールド指揮下の大盾装備の防護部隊も聖騎士団の守りについた。
そんな中でアルファだけがゼロの下に残る。
「どうしました?貴女もイザベラさんの援護に向かいなさい」
術師の命令に忠実な筈のアンデッドであるアルファが動かない。
「私は主様のおそばにいます。たとえ主様の命令に逆らおうと、主様をお守りすることが私の忠誠の証しです」
サーベルと共にゼロに使える最古のアンデッドであるアルファ。
サーベルが時折ゼロの援護をあてにするような戦い方をするように、アルファは主のためならばその命令に抗う程の力を得ていたのだ。
「好きにしなさい」
ゼロの許しを得たアルファは無言で頭を下げた。
その間にもオックス達の凄まじい時間稼ぎは続いていた。
オックス渾身の攻撃で右の前足を叩き折れば、ライズ達が斬り掛かる。
それでもドラゴン・ゾンビには大きなダメージを与えられないが、時間稼ぎの目的は十分果たされた。
レナの詠唱が終わり、以前に放ったよりも多くの魔力が極限まで集束された雷撃の針を放つ。
ドラゴン・ゾンビの首から入った針はレナの狙いどおり脊髄に突き刺さった。
「爆散するわよ!離れて」
レナの警告にオックス達がドラゴン・ゾンビから離れたその時
・・・パチン・・
レナが指を鳴らすと同時に
バゴオォォンッ!
爆音と共にドラゴン・ゾンビが砕け散った。
以前にドラゴン・ゾンビの動きを止めた雷の針とは比べものにならない程の威力を秘めた雷撃の針はドラゴン・ゾンビの脊髄内で爆発し、その巨体を内側から吹き飛ばしたのだ。
「すげえ・・・」
「ゼロの奴、一生尻に敷かれるぞ」
思わずライズとチェスターが口走りながらゼロを見る。
ゼロもレナの強力な魔法に唖然としていた。
「ゼロ、レナを怒らせたらお前もああなるんだぞ」
「そんな、滅相もない」
ライズの言葉にゼロは慌てて首を振った。
レナが宣言どおり一撃でドラゴン・ゾンビを葬れば、傍らではプリシラが配下の魔物と自らの大鎌でドラゴン・ゾンビを完膚なきまでに叩きのめし、ゼロのアンデッドの援護を受けたイザベラ達も結界とアンデッドの攻撃に加えてイザベラやヘルムントの猛攻撃により損害を受けることなくドラゴン・ゾンビを討ち倒した。
「よし、想定よりも早いです!ここは一気に・・・」
ゼロも剣を手に駆け出そうとする。
オックス達もそうだし、プリシラとイザベラの軍団もノー・ライフ・キングに矛先を向けた。
「勝負です。ノー・ライフ・キングを・・・」
最後の攻撃を始めようとしたゼロの動きが止まる。
戦場の中心に佇んだままのノー・ライフ・キングを取り巻く死霊の気配が変わった。
「・・・間に合いませんでした。全員引きなさいっ!」




