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イバンス王国の冒険者

 ゼロ達は峠道にある国境の関所に到着した。

 アイラス王国側には関所の手前に国境警備隊が常駐する小さな砦があるが、国境の関所には両国の検問所があるだけである。

 ゼロ達はアイラス王国の冒険者であるのでその認識票により身分が証明されるうえに国を越えた依頼の証明書を持っているため、アイラス王国の検問所の国境警備隊員からも、イバンス王国側の検問所の衛士からも殆ど詰問されることなく関所を通過することができた。


 そして、イバンス王国に立ち入ったゼロ達を待っていたのは2人の冒険者だった。

 1人は真っ赤なプレイトメイルに同じ色の盾とマント、腰にロングソードを帯びた青年。

 もう1人は濃紺のローブを身に纏う女性だが、魔術師とは雰囲気が違う。

 その手には杖も剣も持っておらず、肩から雑嚢を掛けているだけ。

 長い髪で両目が隠れており、その表情を見て取ることができない。


「よう、待っていたぜ。アイラス王国のネクロマンサーでいいんだよな?」


 剣士が笑顔で声を掛けてくる。


「はい、私が死霊術師のゼロです。一緒にいるのが賢者のレナさんと精霊使いの兄妹のイズさんとリズさんです」


 値踏みするようにゼロを見る剣士だが、その視線に嫌らしさは感じない。


「手練れのネクロマンサーって聞いていたからもっと年寄りかと思っていたぜ」

「手練れかどうかは分かりませんが、私が死霊術師であることは間違いありませんよ」


 剣士は大きく頷いた。


「それは失礼した。俺はイバンス王国鉱山の街の冒険者、剣士のチェスターだ。横にいるのが相棒のカミーラだ」

「・・・・」


 カミーラと呼ばれた女性は無言で頭を下げた。

 そんな様子を横目にチェスターは肩を竦める。


「すまねえな。カミーラは無口で人見知りなんだ。愛想がないように見えるが気にしないでいてくれ」


 ゼロは首を振る。


「気になりませんよ。しかし、私達を待っていたとのことですが、私達が本日到着するのを知っていたのですか?」


 エルフォード領内でのことといい、このところゼロの行動がことごとく先読みされている。


「ああ、カミーラの占いでな、今日あたり到着するって目が出ていたんだ。だからここまで迎えに来ていたのさ。カミーラは腕っこきの呪術師だからな。占いもお手のものさ」


 呪術師は魔術職の一種であるが、特殊な呪術や呪いを操るため、死霊術師と同じく忌み嫌われがちな職種であり、上位冒険者に昇級する場合には黒等級となる不遇職だ。

 目の前の2人もチェスターは銀等級だが、カミーラは黒等級だ。


「しかし、ネクロマンサーが来てくれただけでもありがたいのに、そのパーティーも賢者やら精霊使いやらなかなかの強者揃いっぽいな。今回の依頼にうってつけだ」


 チェスターはゼロ達を見回してしみじみと話す。


「お役にたてるかどうか分かりませんが、調べてみましょう」


 ゼロの言葉にチェスターは頷く。


「頼むぜ。早速鉱山の街に向かいたいが、もうすぐ日が暮れる。ここから少し歩いたところに村がある。そこにある宿で朝を待ってから出発しよう。明日の夕暮れ前には到着できるさ」


 ゼロ達はチェスターとカミーラの案内で国境近くの村に向かい、その村に宿を取った。


「早速ですが、鉱山の状況を教えてもらえますか?」


 宿で夕食を共にしたゼロはチェスターに質問した。


「ことの発端は2ヶ月程前か、鉱山で遺跡が掘り当てられた時だな。遺跡からアンデッドが溢れ出し、鉱山の作業員や街の住民が多数犠牲になった。たまたま街の近くで訓練をしていた軍と街の冒険者達でアンデッドを撃退して被害の拡大を防ぐことができたんだ。鉱山自体を封鎖したんだが、付近でのアンデッドの発生が止められなくてな。調査のために

銀等級のパーティーが何組も遺跡に潜ったが、どのパーティーも戻らなかったんだ」

「なるほど・・・」


 チェスターは横に座るカミーラを見た。


「実はその前にカミーラの占いで東にいる死霊術師を呼べって目が出ていたんだが、俺達は街の冒険者でもはみ出し者扱いで誰も信じなくてくれなくてな。結局後手に回っちまったってわけだ」


 チェスターの説明を聞いていたレナ達はカミーラと同じ黒等級冒険者のゼロを見た。


「その者の本質を評価しようとする者が少ない。黒等級の冒険者を見る目なんてどこも同じね」

  

 レナの呟きにチェスターが首を振る。


「カミーラは長く人の社会から離れて生きてきたせいか、ちょっと世間知らずなところがあってな。冒険者登録するときにも同じ魔術職なんだから魔術師で登録すればいいのに本職の呪術師で登録しちまったんだ。そんなわけで仲間にも恵まれないもんで、危なっかしいから単独で活動していた俺がパーティーを組んだんだ。確かに呪術師は周囲から理解を得られないことは多いがな、俺はカミーラのおかげで何度も命拾いしているから全面的に信頼しているぜ。実際、カミーラの能力は占いだけでない、戦闘時にも呪術はとても役に立つぜ」

「・・・・・・とない」


 チェスターの言葉にカミーラが俯いて小声で何かを言ったようだがゼロ達には聞き取れなかった。


「確認したいことがあります。遺跡から溢れ出したアンデッドの種類は?例えば、ゾンビとか、スケルトンとかは?」


 確認するゼロにチェスターが答える。


「様々だ。俺達が見ただけでゾンビもスケルトンもいた。あと火の玉みたいな奴も見た」

「・・・レ・イスも」

「それから、見たこともないのもいた。黒く肥大した一回りデカい身体で、動きは鈍いがえらく力が強い奴だ」


 ゼロは頷きながら2人の話しを聞いている。


「下位から中位程度のアンデッドですね。黒い身体のはドラウグルでしょう。なるほどね、同種のアンデッドでなく、多種のものの同時出現ですか・・・」


 ゼロが腕組みする。


「何か心当たりはあるの?」


 隣に座るレナがゼロの顔を覗き込む。


「まあ、幾つかの原因は思いつきます。私のような死霊術師がいるか、リッチが出現したか、元々遺跡自体が大規模な墳墓で、何らかの理由で死霊達が目覚めて野良のアンデッドが大量発生したか等です。ただ、掘り当てられた遺跡に生身の死霊術師がいるとは考え難いですね。だとするとアンデッドを使役するアンデッドのリッチの仕業か、野良アンデッドの大量発生か」


 ゼロの言葉にチェスターとカミーラが顔を見合わせた。


「リッチといえば、ネクロマンサー自らがアンデッドになったって奴だろう?」

「そうですね。私のなれの果てです」

 

 表情を変えることなく話すゼロの脇腹をレナが小突く。


「それはまた厄介な相手だな。ゼロ、あんたに任せて大丈夫か?当然俺達も一緒に行くが」

「実際に潜ってみないと分かりませんが、最善を尽くしますよ」

「すまねえな。よろしく頼むぜ」

「・・・・・・す」


 差し出されたチェスターの手をゼロは握った。


「確かにこの案件は私が調べた方がよさそうです。手遅れになる前になんとかしましょう」


 この時レナはゼロの言葉とその表情に違和感を感じた。


(手遅れになる前に・・・?)

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― 新着の感想 ―
[一言] >不遇職が報われないのはどこも同じね 報われたら不遇職って言わないのでは? 頭が頭痛とか、頭痛が痛い、みたいな変な表現に見えます。
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