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生き残るための道

 結局、ゼロ達が取り逃がしたネクロマンサーはグレイの中隊によって呆気なく倒されていた。


「ということは、あとはノー・ライフ・キングを倒すだけなのか?」


 チェスターが期待するが、事態はそう甘くはない。

 ゼロの表情は険しいままだ。


「まだです。この都市は通常の死霊の気だけでない、禍々しい気に満ちています」


 ゼロの言葉にイザベラも同意する。


「確かに、この都市は厄介ですの。城塞都市だけあって攻め辛いのもありますが、ノー・ライフ・キングがいるだけあって敵が強力ですの」


 慎重策を採っているとはいえ、イザベラが部隊を指揮し、魔王プリシラの戦力を投入しているのに未だに都市の半分も掌握できていないのが何よりの証拠だ。

 

 城塞都市は四方に分厚い門を備えた強固な壁に囲まれた王都を守る軍事拠点である。

 都市の中心にはまるで城のような拠点砦があり、その周囲に大小幾つもの拠点が点在し、それらの隙間を埋めるように店や市民の住居が建てられており、いわば大規模な軍事要塞に都市機能が併設されているようなものだ。

 イザベラ達の6度に渡る攻撃により正面の門は破られて都市の半分弱は制圧したが、敵には損害らしい損害を与えられていないのが現状だ。


 今、イザベラ達がいるのは都市の正面の門を守る部隊の駐屯所跡の広場である。

 ここに集まっているのは連合軍司令官のイザベラと副官のヘルムント、シンシア女王に連合軍副司令官のブランドン、各国派遣部隊の隊長達、そしてゼロ達だ。


「ゼロのアンデッドを正面から進め、魔王軍に側面からの攻撃をお願いする。敵の動きを見極めて私の本隊が正面突破か迂回しての攻撃を判断する、では如何かしら?」


 イザベラの案にアンデッドの軍勢との戦いの経験に乏しい各部隊長は意見を述べることができないでいる中、大鎌を携えたプリシラがその場に現れた。


「アンデッド共に対するのみならばその策も悪くない。しかし、ノー・ライフ・キングを甘く見るな。奴は魔王にも匹敵する力を有しておるぞ。勢いだけでは絶対に奴は倒せぬ。アンデッドの軍勢に対することだけでなくノー・ライフ・キングを倒すことを考えるのだ。奴め、未だに何体かの腐竜を抱えておるぞ」


 更に何体ものドラゴン・ゾンビがいる。

 プリシラの言葉に皆が息を飲んだが、厳しい状況はそれだけではない。

 プリシラは広場の隅に立つセイラを見た。


「聖女としての才を持つが故にサイノスへの贄として狙われたお前なら分かるだろう?」


 セイラは神妙な面もちで頷くと皆の前に歩み出た。


「はい、2度に渡る日蝕の儀式を阻止され、私が皆さんに助けていただいたことで冥神サイノスの完全なる顕現化の手段は断たれました。そして、グレイさん達が月の光教団の主謀者を倒したことで彼等の再起は望めないでしょう。でも、完全ではないサイノスの顕現化の道は残されています」


 イザベラの柳眉が上がる。


「どういうことですの?」

「あのっ、強大なる死霊を糧としてノー・ライフ・キングの屍体を依代にし、サイノスを宿すということです」

「そんなことが可能ですの?」

「はい、完全な顕現化に比べてその神体は脆く、安定するまでに数百年を要するのですが、その力は絶大で、ノー・ライフ・キングの比ではありません」


 イザベラの鋭い視線に気圧されながらもセイラが説明する。


「完全体と比べて脆い、ならば私達にも望みはありますのね?」


 イザベラの言葉にプリシラが首を振る。


「そうは簡単にいかぬぞ」

 

 セイラも頷いて言葉を続ける。


「はい、冥神、つまり冥界の神たるサイノスには生者のいかなる力も届きません。剣も魔法もサイノスには効果がありません。それは顕現化しても同じ。例え勇者であろうとも魔王・・プリシラ様であろうともかすり傷一つ負わせることは敵いません」


 絶望的ともいえるセイラの言葉にプリシラが頷き、派遣軍の各隊長の表情からは血の気が引いた。

 あと少しで国を取り戻せると期待していたシンシアに至っては今にも泣き出しそうな表情だ。

 イザベラも厳しい表情だが、その瞳から闘志は消えていない。


「つまり、サイノスが顕現化する前にノー・ライフ・キングを倒せばいいだけですわね。それに、万が一の時、生者の刃が届かないというならば、貴方の出番ではなくて?」


 そう言ってゼロを見た。

 ゼロも頷く。


「そうですね。生者でない者、アンデッドの攻撃ならば剣でも魔法でも、サイノスに届きます」

「貴方のアンデッドで勝ち目はありますの?」

「私とて一端の死霊術師です。死霊達のことだけでなく冥界のことについての知識も人並み以上にはあります。それに、私自身2年間程冥界に落ちていたこともありますし。尤も、サイノスにはお目にかかれませんでしたが」

「で、勝てますの?」


 イザベラの問いにゼロは肩を竦めた。


「私の上位アンデッドを総動員して・・・五分五分、いや、三分七分といったところです。当然、私が三分です」


 ゼロの表情を横で見ていたレナが目を細めた。


(ゼロ、なんの躊躇いもなく嘘をついたわね)


 ゼロの表情に余裕がない。

 勝利の確率が三割というわけにはいかなそうだが、レナは敢えて何も言わなかった。

 これ以上皆の気持ちを折るわけにはいかないし、何よりイザベラもゼロの嘘を見抜いているようだ。


「よろしいですの。ならば、速攻と行きましょう。サイノスが顕現化する前にけりを付けてしまいます!」


 イザベラは作戦案を修正した。

 ゼロのアンデッドを前面にする方針は変わらないが、アンデッドの最大投入を避け、万が一に備えてゼロに余力を残す。

 前面の戦力不足を補うためにプリシラの側面攻撃を止めてゼロのアンデッドの後方に布陣させ、機を見てイザベラの本隊と同時に突撃する戦力に回す。

 敵は際限なく召喚されるアンデッドの軍勢の他にドラゴン・ゾンビもいる。

 甚だ不利な状況ではあるが、如何に敵の数が無限に近いとはいえ、ノー・ライフ・キング1体を倒せば勝ちだ。

 つまり、ノー・ライフ・キングのみを目標として突き進み、イザベラでも、プリシラでも、それこそ一兵卒の兵士でもノー・ライフ・キングを倒せばそれで終わりなのである。

 イザベラはそこに一縷の望みを見た。


「征きますわよ。私達には勝利しか許されませんの!生き残るための道は前にしかありませんのよ!」


 サーベルを抜いたイザベラは声高らかに叫んだ。


 残された時間は少ない、作戦は直ちに開始されることになる。

 そして、この作戦には中止も退却もなく、決着がつくまで終わることはない。

 生き残るためには勝利するしかないのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] くーっ!精霊騎士ライズが覚醒してダメージ与えられたりしないかなあ。生者だから駄目かなあ。 雑に扱われたリックスが意外性を発揮するとか!
2020/07/07 23:56 退会済み
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