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グレイの戦果

「ネクロマンサー?それならばここにいるグレイが討ち取りましたのよ」

「「「えっ?・・・」」」


 衝撃の事実をさらりと言い放ったイザベラにゼロ達は呆気に取られた。


 グレイの中隊が黒衣のネクロマンサーを討ち取った。

 これは事実であるが、グレイ達がそれを為したのは全くの偶然だった。

 セイラの救出に当たり陽動を担うという役割を果たしたグレイの特務中隊。

 セイラを救出し、オックス達と王都を脱出したグレイ達は王都に残ったゼロ達を待つというオックス達と別れて本隊に合流すべく城塞都市へと向かっていた。

 その途中において空を飛ぶ1頭のワイバーンを発見したが、そのワイバーンの脚には捕らえられたと見られる人影を掴んでいたのだ。


「中隊長!救助します」


 エミリアやシルファ他の弓兵が矢を番えた。


「待て!高度が高い、お前達の弓では十分な効果が望めない。それに下手に攻撃すると捕まっている人ごと落下するぞ!」


 狙いをつけるエミリア達を制止しながらグレイは中隊きっての狙撃手のアストリアを見た。


「いけるか?」

「問題ありません」


 アストリアの弓は対空弩並の威力を誇る強力なもので、彼の弓ならば射程距離だ。

 更に経験に裏打ちされた高い狙撃能力ならば捕らえられている人間を無事に救い出すことができる。


「ワイバーンは一度捕らえた獲物を放しはしません。だから下手に脚部は狙わずに翼を射て低空に引きずり降ろします」


 狙いをつけたアストリアは連続で3射、ワイバーンの翼の膜を射抜いた。

 揚力のバランスを失ったワイバーンはアストリアの言うとおり脚に掴んだ者を放すことのないまま高度を下げ始める。


「これで奴は地上に墜ち・・っ!隊長、あれはワイバーンではありません!ワイバーン・ゾンビ、アンデッドです」


 異変に気付いたアストリアの報告にグレイは最大限の警戒を指示する。


「落下点に向かう。ドラゴン・ゾンビ程ではないにせよ、ワイバーンのゾンビも危険だ。それにあれが運んでいたのは人ではないかもしれん、十分に注意しろ」

 

 警戒を高めつつワイバーン・ゾンビの降下地点に向かった中隊はそこで黒衣のネクロマンサーとワイバーン・ゾンビとの戦闘に突入したのだ。


「隊長、囲まれています」

「グレイ隊長、あのネクロマンサーだ!ヤバい、アンデッドだらけだ!数は・・・沢山!」


 エミリアとアレックスの声に周囲を確認すれば数百から千を超えるアンデッドに囲まれていた。

 とてもではないが、中隊規模で相手できる数ではない。

 そして、前方にはワイバーン・ゾンビに守られるようにネクロマンサーが座り込んでグレイ達を睨んでいる。

 降下の衝撃で何らかのダメージを受けたようだ。


「おのれ、邪魔をしおって!楽には死なせんぞ、生きたまま死霊に喰らい尽くされればよい」


 そう言ってアンデッドの包囲を狭めてくる。

 中隊は防御円陣を敷いた。

 エミリアがグレイの背後を守る。


「どうしますか?」

「数が違いすぎる、長くは持たん」


 悩んでいる暇は無い。


「前方に攻撃を集中!前面の敵を突破して敵ネクロマンサーを倒す!」


 一点突破からのネクロマンサーへの集中攻撃。

 時間を掛けることはできないのだ。


 中隊は防御を保ったまま円陣を三角陣に変形し、突撃を開始した。

 

「防御結界を張りつつ突撃!突撃しつつ攻撃よりも防御に集中!弓兵は敵ネクロマンサーとワイバーン・ゾンビに攻撃を集中しろ。牽制で構わないから攻撃を絶やすな」


 先頭を務めるのは第2小隊長のウォルフ。

 巨漢のウォルフが持つのはスパイクの付いた巨大な金棒だ。


「むんっ!」


 ウォルフが金棒を振るう度に目の前に群がるアンデッドが砕け散る。

 普段は寡黙であまり目立たないが、そのパワーは中隊随一であり、金棒の旋回範囲には隊員も近づくことができない。


 中隊はウォルフが切り開いた道を進み、側面や後方からの攻撃はアレックスの第1小隊が退ける。

 負傷者が出ればその軽重に関わらず陣形の内側に引き込まれてエミリアや救護隊員の治療を受け、代わりにアストリアの第3小隊やシルファの支援分隊の隊員が接触面に出る。

 その間にもエミリア、アストリア、シルファ達の弓矢の攻撃がネクロマンサーとワイバーン・ゾンビに間断なく浴びせられていた。


 グレイはウォルフの後方から吶喊のタイミングを見極める。


(まだだ・・・もう少し。やり直しはきかない)


 槍を構えて時を待つ。

 大剣を抜いたアレックスも吶喊の空気を読んでグレイの脇に出てきた。

 アストリアも射撃を止めて弓を極限まで引き絞り、狙いを定める。


「ぬんっ!」


 ウォルフが金棒を打ちつけるや目の前のアンデッドが吹き飛んでネクロマンサーへの道が開く。


「放てっ!」


 グレイが叫び、アストリアがワイバーン・ゾンビ目掛けて矢を放った。

 下から跳ね上がるように飛んだ矢はワイバーン・ゾンビの下顎から上顎を貫いて上下の顎を串刺しにした。


「今だっ!」


 グレイは決断した。

 アレックス、ウォルフを従えて飛び出してネクロマンサーに向かって一直線に駆けた。


「くっ!」


 ネクロマンサーが目の前に下位アンデッドの防御壁を作り出す。


「任せてください!」


 アレックスがグレイを追い越してアンデッドの壁に突っ込んだ。

 エミリア、シルファの矢がアレックスを援護する。

 全身をアンデッドに取り付かれながらも大剣を振るって突破口を開いたアレックスとその突破口を抜けたグレイとウォルフ。

 目の前にはワイバーン・ゾンビに守られたネクロマンサーのみ。

 グレイ達の前に立ちふさがるワイバーン・ゾンビ。

 ウォルフはアストリアの矢で貫かれて開くことができないその顎を金棒で突き上げて仰け反らせた。

 物理的に作られた一瞬の隙を突いてグレイが槍を翳してネクロマンサーに飛びかかる。


「小癪なっ!」


 ネクロマンサーの気がグレイに向けられ、新たに召喚された下位アンデッドの固まりがグレイに向かって喰らいついたその時、グレイの左右の耳元を2本の矢が掠めた。

 エミリアとシルファが狙ったのはネクロマンサーの両の目。

 グレイに気を取られていたためにその背後で狙いをつける2人に気付くことが出来ず、放たれた2本の矢はネクロマンサーの両目を正確に射抜いた。


「ぐっ、がぁぁぁっ!」


 両目を射抜かれて悲鳴を上げるネクロマンサーの喉をグレイの槍が刺し貫いた。


 グレイの一撃で仰向けに倒れ、その槍で大地に縫い付けられたネクロマンサーは喉から溢れ出した血液が逆流して肺に流れ込む。

 ネクロマンサーは自分の血で溺れ死んだ。


 その後、使役者を失ったワイバーン・ゾンビはその動きが鈍くなり、ウォルフの金棒によって頭を叩き潰された。

  

 結果としてグレイの中隊はアレックスを含めた重傷者3名を出しながらも、全くの偶然のうえ、誰も予想だにしない状況で黒衣のネクロマンサーを討ち取ったのだった。

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