セイラとアイリア2
精神支配から先に目覚めたのはアイリアだった。
目を覚ましたアイリアはゼロ達を見るや地に額を着けて涙ながらに謝罪した。
「すみませんでした!私、ゼロさんに2度も矢を・・・。オックスさんやライズさんが止めてくれたのに勝手に抜け出して、挙げ句に敵に利用されていたなんて・・・」
聞けばセイラとレナが捕らわれ、オックス達と共に脱出したアイリアだったが、どうしてもセイラを置いていくことができず、オックス達の目を盗んで渓谷の都市に戻ったのだが、そこで敵のネクロマンサーに捕まり、精神支配を受けて生贄のセイラを守る役目を負わされていたとのことだ。
「だから貴女に掛けられた支配の術は他の2人に比べて弱かったのね」
アイリアの解呪を行ったカミーラが1人で納得している。
元々セイラの相棒、友として、そして直近護衛士としての役を担っていたアイリアだ、目的こそ違えどセイラを守るという役をさせるために精神の上書きをするのにも大した力は必要なかったらしい。
「私の勝手な行動で大変なことに・・・。イリーナさんまで・・・すみません、すみません・・・」
イリーナの死を聞いたアイリアは尚更に額を地にこすりつける。
そんなアイリアの様子を見下ろしていたライズが口を開いた。
「やめろ!イリーナが死んだのはお前のせいじゃねえ!軽々しくイリーナの死の責任を背負おうとするんじゃねえ」
そう言ってアイリアの胸ぐらを掴んで強引に立ち上がらせた。
カミーラが止めようとするのをチェスターが制している。
「いいか?イリーナが死んだのは俺とイリーナの未熟故のことだ!その責任は俺達2人だけのものだ、他の誰にも譲らねえよ」
アイリアの胸ぐらから手を離してその手をアイリアの肩に置いたライズは笑みを浮かべた。
「アイリア、ゼロ同様にお前達とも長い付き合いだ。イリーナだってお前等2人の無事を喜びこそすれ、自分の死の責任を感じるなんてことは微塵にも望んでやいねえよ」
優しく諭すライズにアイリアは何も言えずに俯いた。
「まあ、直ぐには無理かもしれないが、後は自分で心の整理をしてくれ」
アイリアは力無く頷いた。
そんなやり取りの間にセイラも目を覚ました。
そして、アイリアの様子を見たセイラはアイリアに駆け寄ってその身を抱きしめた。
「アイリア、ごめんなさい。そして、ありがとう・・・」
泣きながら抱き合うセイラとアイリア。
ひとしきり涙を流したセイラは皆に向き合うと右手を胸に当ててシーグル教の作法による礼をした。
「皆さん、大変ご迷惑をおかけしました。そして、私とアイリアを救ってくれてありがとうございます」
深々と頭を下げるセイラとアイリアにゼロが歩み寄った。
「頭を上げてください。2人共に無事で良かったです」
「でも、私が捕らわれたせいで皆さんには途轍もないご迷惑を・・・」
アイリアに続いて謝罪するセイラだが、全員がそっぽを向いてその謝罪を聞いていない。
「敵は強大です。その敵に不意を打たれたのです、抗うことも出来なかったでしょう」
穏やかに話すゼロ。
「確かに私ですら抵抗できなかったのですから、貴女達が抵抗できなくても仕方がないわ」
レナが2人をフォローする。
「賢者のレナさんですら敵に支配されて魔法で私を焼こうとしたのですからね。それに比べればね」
調子に乗るゼロの背中をレナが小突いた。
何時までも謝罪や感謝に時間を費やすわけにはいかない。
月の光教団の目論みは阻止したが、戦いは終わっていない。
何よりも、黒衣のネクロマンサーと白きノー・ライフ・キングは未だに健在なのだ。
直ぐにでも城塞都市に向かってネクロマンサーとノー・ライフ・キングを倒して戦いを終わらせなければならない。
ゼロに現状を聞いたセイラだが、何かを思い出したのか、突如としてその顔色が青ざめた。
そして、震えながら口を開いた。
「彼等は冥神サイノスの顕現化を諦めてはいません。最後の手段でサイノスを呼び覚まそうとするはずです・・・」
「どういうことですか?2度の日蝕での儀式を阻止して生贄たる貴女も無事です・・・まさか、他にもサイノスを顕現化する手段があるのですか?」
ゼロの言葉にセイラは頷いた。




