セイラとアイリア1
王都は解放されたがそこに生きる者の姿は無い。
ゼロ達によって解放されたとはいえ、この都市は未だに死に支配されているのだ。
ゼロはスペクター等の偵察によって残存する敵がいないことを確認した。
「敵の死霊術師を取り逃がしたのは失態でした。奴が向かったのは間違いなく城塞都市です。私達も直ぐに追いましょう」
ゼロの言葉にレナは周囲を見渡した。
「でも、この王都はどうするの?私達が離れたらもぬけの殻よ」
確かにレナの言うとおり、ゼロ達が城塞都市に向かえばかつては数万の人々が住んでいた大都市が無人で無防備となってしまう。
周囲を見渡せば、その大都市の物音も無く静まり返っている姿がより一層不気味に感じる。
「死霊術師を取り逃がし、最終決戦は城塞都市です。イバンス国内の状況を見ても、放っておいても問題ないと思いますが・・・」
そう言い放つゼロだが、誰も同意しない。
「さすがにそれはないだろう。せっかく奪還したんだぜ?」
呆れ顔のライズ。
「ゼロ、どうにかならないか?」
「・・・」
困惑顔のチェスターとカミーラ。
「ゼロ、何とかしなさいよ」
レナの言葉にゼロは周囲を見ながら暫し思案する。
「・・・ならば、守備兵力を配置しておきますか」
そう言いながらスケルトンナイトに指揮されたスケルトンウォリアーを3個中隊と更にスペクターを10体召喚した。
「彼等に守備に就いてもらいましょう」
そう言ってアンデッド達を王都の警備に配置した。
本来ならばオメガあたりに指揮をさせたいところだが、これからの決戦のことを考えるとゼロの最上位の配下達を戦力から外すわけにはいかないのだ。
「まあ、これが最善の手なんだろうが・・・何だろうな、この違和感は・・・」
王都内に散ってゆくアンデッドを見送るチェスターが呟く。
死霊達から解放された王都の警備に死霊達が就いているのだ。
端から見ると何ら変わりがないように見える。
「これで大丈夫です。我々も行きましょう。城塞都市の前にオックスさん達と合流します。セイラさんとアイリアさんが心配です。あと、リックスさんも」
チェスターの違和感をよそにゼロは歩き出す。
まだ戦いは終わっていない。
チェスターもカミーラもイバンス王国の冒険者としてゼロと共に行かなければならないのだ。
王都を出発したゼロ達は予め決めておいた合流地点において先に脱出したオックス達と合流した。
そこは王都から少し離れた村とまで言えないような集落跡で、セイラとアイリアは建物内で寝かされていた。
ゼロ達を迎えたオックスが状況を説明する。
「神官の娘は全く目を覚ます様子はない。お前の弟子の話しだと、眠っているというよりは魔法か何かで仮死状態にされているってことらしい。だから下手なことはせずに様子を見ていた。ハーフエルフの方は一度は目を覚ましたがひどく暴れてな、埒があかないからリリスが眠らせている」
セイラとアイリアの状況を聞くゼロ。
セイラもそうだが、アイリアもアンデッド化したわけではなく、レナのように操られているだけのようだ。
ゼロがカミーラを見ればカミーラもゼロを見て頷いている。
「とりあえず、2人が無事で良かったですね。一安心です」
胸をなで下ろすゼロ。
「俺のことは心配してくれないのか?ゼロさん」
背後から声を掛けられてゼロは苦笑した。
「リックスさん、あの時はありがとうございました。アイリアさんの弓の腕も中々のもので、そのアイリアさんが私を本気で狙っていましたからね。助かりましたよ」
「その割に俺の扱いが雑なんじゃないか?」
「いや、リックスさんの危険察知と回避能力には目を見張るものがありますし、何よりも運の強さは天下一品ですからね」
ゼロに言いくるめられてリックスは釈然としないながらもそれ以上は何も言わなかった。
「まあいいか。とりあえずここから先は俺も連れて行ってもらうぜ。必ず役に立ってみせる」
リックスの申し出をゼロは受け入れた。
レナの時と同様にカミーラの手によってセイラとアイリアに掛けられた支配魔法を解かれることになった。
何時また目覚めて暴れ出すか分からないアイリアの解呪を先にすることにしたカミーラはアイリアの胸に符を貼り付け、薬品をアイリアの額に垂らして呪文を唱える。
「1人目は終わり・・・もう1人も済ませてしまう」
そう言ってカミーラはセイラの解呪も続けて済ませてしまう。
「後は目を覚ますのを待つだけ。多分そんなに時間は掛からない」
解呪は呆気なく終わり、後は2人が自然に目覚めるのを待つだけとなった。




