ドラゴン・ゾンビ
この世界において生きる全てのものの頂点はドラゴンである。
数千年の時を生き、神の如き知識を重ね、その巨大で強靭な身体と水、火、風の力を操る絶対的存在。
他者との接触を好まないドラゴンは天を突く高い山や光も差し込まない深い海や湖の底でひっそりと暮らしている。
友となれば多くの知識を人々に与え、敵とならば国すらも潰される絶対的な存在だ。
そんなドラゴンが死を迎えた時に何らかの要因で死霊の力に取り憑かれ、アンデッドに墜ちたのがドラゴン・ゾンビ。
知能や知識は失われ、欲望のままに破壊の限りを尽くす絶対なる邪悪の存在である。
今、ゼロの前にそのドラゴン・ゾンビが立ちはだかっている。
「あの時は完膚なきまでに叩き潰されましたが、二度目はありませんよトカゲ野郎」
否、ゼロの方がこそドラゴン・ゾンビの前に立ちはだかっているのかもしれない。
かつてゼロが戦って敗北したドラゴン・ゾンビはイザベラ達聖騎士団によって討伐され、目の前の個体は別のドラゴン・ゾンビである。
しかし、そんなことはどうでもいい。
目の前にいるドラゴン・ゾンビが今のゼロの獲物なのだ。
ゼロはドラゴン・ゾンビの餌となるアンデッド達を消し去った。
残されたのは背後に控えるヴァンパイアのオメガ、バンシーのアルファ、デス・ナイトのサーベル、スピア、シールド、スペクターマジシャンのシャドウ、スペクタープリーストのミラージュ、そして、ジャック・オー・ランタン2体。
ゼロのアンデッドの中でも最上位の9体。
いずれの個体もかつてゼロと共にドラゴン・ゾンビと戦った者達だ。
一度は敗北したとはいえドラゴン・ゾンビをもう一歩のところまで追い込んだあの日からゼロもアンデッド達も成長しているのだ。
そして、レナとライズもゼロと共にいる。
絶対に負けるわけにはいかない。
黒衣のネクロマンサーも勝利を確信しているらしく、ドラゴン・ゾンビの背後に回り込み、ゼロ達を囲むようにアンデッドの軍勢で囲み込んだ。
その様子を見たレナとライズ。
「ゼロ、周りの雑魚は焼き払っていいかしら?」
「俺はドラゴン・ゾンビを相手にするぜ。腐っちゃいるが奴を倒せばドラゴンスレイヤーだ!」
ゼロは頷いた。
「お任せします。好きに暴れてください」
ゼロの許しを得て先に動いたのはレナだ。
手の平の上に幾つもの蛍のような小さな火の玉を作り出したレナがそっと息を吹きかけると無数の火の玉が周囲に散った。
・・・パチンッ
レナが指を鳴らすと小さな火の玉が炎の竜巻と化してアンデッド達を焼き尽くす。
続いて帯電した指先をクルリと回せば炎に包まれたアンデッド達に雷の嵐が襲いかかる。
「幾らでも召喚してみなさい。全てを焼き尽くしてあげる。ゼロ、ライズ、周りのことは気にしないでドラゴン・ゾンビに集中しなさい。そっちの援護もしてあげるわ」
妖艶な笑みでネクロマンサーを挑発するレナ。
「すげえな、1人で軍の魔導部隊並みの戦力じゃねえか」
「彼女も魔導院史上最年少の賢者ですからね」
感心するライズとゼロは目の前のドラゴン・ゾンビに相対する。
「私達も始めましょう」
「そうだな。周囲の損害は気にしなくていいんだな?」
「結構です。巻き込まれる住民はいませんし、壊れた建物は再建できます。教団の信徒達が残っていますが、好き好んで残っているのですから私達が心配するのも筋違いでしょう。逃げるならば構いませんが、そうせずに巻き込まれるならば自己責任です」
そう言うとゼロは背後に立つオメガ達を見て無言で頷いた。
「畏まりました」
「主様のお心のままに」
ゼロの命令を受けたオメガ達はドラゴン・ゾンビに飛びかかっていく。
オメガの鋭い爪による斬撃、全てを凍結するアルファの氷結魔法、シャドウの衝撃魔法にミラージュの幻惑。
ジャック・オー・ランタンの大鎌と火炎攻撃にサーベル、スピア、シールド3体のデス・ナイトによる物理攻撃による猛攻が浴びせられた。
それぞれが鉱山の町でドラゴン・ゾンビと戦ったあの日よりも格段に強くなっており、その攻撃に曝されたドラゴン・ゾンビもたまらずに押し戻される。
しかし、文字通り腐ってもドラゴンである。
オメガ達の攻撃に圧倒されても大きなダメージを与えるには至っていない。
ドラゴン・ゾンビの口から毒気が漏れ始める。
全てを毒で犯す毒のブレスを吐くつもりだ。
「ウィンドカーテン」
レナはゼロ、ライズ、自分自身の周りを風の膜で覆った。
それはまるでそよ風のような優しい風であったが、ドラゴン・ゾンビがブレスを撒き散らした瞬間、その風が毒気を絡め取り、ゼロ達の周囲から散らす。
「毒気のことは気にしないで大丈夫。ドラゴン・ゾンビに踏み潰されたり噛みつかれたりしないように気をつけて戦いに専念しなさい」
高度な防御魔法を行使しながら何事もないかのようにウインクするレナ。
攻撃に援護と次々に能力を発揮するレナを見たライズが奮起した。
「俺も負けてられねえ!行くぜ!」
剣を抜いて駆け出す。
「盾持ち、足場を頼むぜ!」
走りながらシールドに向かって叫ぶとその意図を汲んだシールドが膝を着いて盾を構えた。
その盾を踏み台にしてドラゴン・ゾンビの頭部よりも高く跳躍したライズ。
「流石はゼロの配下だ、角度バッチリだぜ!」
ライズは跳躍の力を加えて大上段からドラゴン・ゾンビの頭部目掛けて剣を振り抜いた。




