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ゼロの大博打1

 決戦の日を迎えた。

 未だ朝日も昇らぬ森の中に焚かれた篝火の前にカミーラが立っている。

 その背後にはチェスターの姿と2人の援護のためにゼロが召喚したシールドに指揮されたスケルトンナイトとスケルトンウォリアーが20体程。

 カミーラは普段のローブを脱ぎ、最小限の布を纏っただけの肌も露わな儀式用の装束で、顔だけでなく全身に呪術的な化粧を施している。


「これほどの術を使うのは初めて。儀式が始まったら私はトランス状態に陥る。その状態の私は殺されても気付かない。だからチェスター、私を守ってね」


 振り返ってチェスターを見るカミーラ。

 チェスターは剣を抜いた。


「任せろ。何者が来ようとお前に指一本触れさせねえ。だからお前は術に集中し、必ず無事に成し遂げろよ」


 カミーラは頷くと静かに呪術の踊りを舞い始めた。

 旋律も歌も無い静かな舞だったが、カミーラの精神が深く沈んでいくのに連れてその激しさは増してゆく。

 恍惚の表情を浮かべて一心に舞うカミーラだが、時折腰布に挟んだ符や薬のような物を篝火に投げ込んでいる。

 カミーラの神秘的な美しさに加えて篝火から漂う何やら不思議な香りに引き込まれたチェスターは思わず見とれそうになるが、気を取り直しして周囲に気を配る。

 今のカミーラは完全に無防備であるだけでなく、自分の意思でその術を止めることもできないのだ。


 夜明けの時、王都は霧に包まれていた。

 空も見えぬ濃い霧であるが、霧の先で日が昇り、天頂に向かっていることは朧気に見える。

 むしろ霧が太陽の強い光を遮ってその輪郭をさらけ出しており、王都ではその太陽の姿を確認しながら信徒達が儀式の準備を急いでいる。

 儀式が行われるシーグル教会前の広場に立てられた柱には既に意識の無いセイラが縛りつけられている。


「日蝕まで時間があるのに、早いですね。セイラさんをさらけ出して我々を誘っているのでしょう」


 ゼロ達は未だ王都内には潜入しておらず、代わりに潜入したオメガからの報告を受けてゼロは敵の思惑を予測する。


「儀式の前に私達を排除しておきたいのでしょう。ならば、その挑発に乗ってあげましょう」


 不敵な笑みを浮かべるゼロは救出作戦の開始を指示した。


 霧に遮られた太陽は未だ天頂には届かず、日蝕の始まりまでは時間がある。

 そんな中、シーグル教会に近い王都の東門から突入を試みる集団がいた。

 グレイの特務中隊である。

 彼等は敢えて警戒が薄くされていた東門を難なく突破して都市内に展開したが、そこで待っていたのはスケルトンロードやヴァンパイア、スペクター等の上位アンデッド数百体だった。


「手強そうだが、数が少ない。我々が陽動だと見抜いて侮っているな。ならば、その判断が誤りであることを教えてやろう。全員このまま敵を殲滅しつつ前進!陽動などでなく我々が直接聖女を救出する!」


 グレイの号令で中隊は一丸となって突撃を開始した。


 王都東側でグレイ中隊による激しい戦闘が開始されたがゼロはまだ動かない。

 オメガからの報告を受けて静かに時を待つ。

 

「流石はグレイさんですね。決死の攻撃を演出してくれています。全ては順調に進んでいます」


 薄い笑みを浮かべるゼロだが、その額からは汗が流れている。

 

(相当なプレッシャーを感じているわね)


 ゼロの傍らにいるレナは何も言わず、そっとゼロの額の汗を拭いた。

 ゼロだけではない、オックスが、リリスが、ライズ、イズ、リズ、コルツの全員が固唾を飲んで時が来るのを待っている。

 最善と考えられたゼロの策だが、一つでも間違えば全てが瓦解する危険な策でもあるのだ。


「そろそろグレイさん達が引きますね」

 

 ゼロは呟いた。


 その頃、グレイの中隊は敵のアンデッドの集団に対して強烈な突撃を敢行して前進を続けていたが、次から次へと召喚されるアンデッドに対して勢いを失いつつあった。


「中隊の損害を報告!」


 グレイの声に各小隊長が返答する。


「第1小隊、軽傷2名戦闘継続に問題なし!」

「第2小隊、軽傷1、現在応急手当て中ですが戦闘復帰予定!」

「第3小隊損害無し!」

「直轄分隊も損害ありません」


 現時点まで損害らしい損害は無い。


「中隊長、損害は皆無ですが、戦闘継続による体力の消耗は大きいです」


 エミリアの報告にグレイは決断した。


「一旦後退する。突撃隊形から防御隊形に変換、ゆっくりと後退。戦力の立て直しを図る!」


 グレイは後退を開始した。


 やがて霧に遮られた太陽が天頂に差し掛かり、その端を月が浸蝕し始める。

 いよいよ日蝕が始まった。


「予定どおり行動を開始します。グレイさんの中隊が再突撃を開始するのに呼応してオックスさん達も突入してください」


 オックス、リリス、ライズ、コルツがそれぞれの武器を手に立ち上がる。


「いいですか、あくまでも必死に攻撃しているが今ひとつ届かない、でお願いします」


 ゼロの指示にオックスは笑った。


「それは分かっているが、相手に張り合いが無くて隙があれば俺達がセイラを助けちまうぜ」

「お好きにどうぞ。でも無理だけはしないようにしてください」

  

 ゼロは肩を竦めながら続いてイズとリズを見る。


「イズさん、リズさんも所定の行動を。オメガもリズさんに従うように指示してあります」

「「お任せください」」


 オックス達4人とイズ、リズ兄妹は二手に別れて王都に向かった。

 ゼロの大博打は始まったばかりだ。

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