決戦に向けて
ゼロはイズ達が持ち帰った情報を吟味していた。
「これだけ多くの情報、助かります」
イズ達が持ち帰ったのは王都の地理情報や教団信徒等の些細な情報だが、その数は膨大だ。
その中から必要な情報を吸い上げて組み合わせて確度を高める、イズが予想したとおりである。
「しかし、教会の地下に巨大な死霊の気・・・厄介なのがいます。今回は避けられないでしょうね」
リズが持ち帰った教会の地下に存在する巨大な死霊の気についてゼロは渋い表情を浮かべる。
「それって、まさか!あの時の・・・」
チェスターがゼロを見るとゼロは静かに頷いた。
「ドラゴン・ゾンビです。多分、セイラさんを守っているのでしょう。どう足掻いても奴との戦いは避けられませんね」
全員が息を飲んだ。
ドラゴン・ゾンビと戦うなど正気の沙汰ではない。
「前回は完膚無きまでに叩きつぶされましたが、今回はそうはいきません」
自分に言い聞かせるように呟くゼロにチェスターが首を傾げる。
「前回って、あんたの指示で俺達はドラゴン・ゾンビには何も手出ししなかったろ?」
思案に集中しているゼロとチェスターの会話がかみ合っていない。
ゼロに代わってレナがチェスターとカミーラに説明する。
「ゼロは以前にドラゴン・ゾンビと戦ったことがあるのよ。アイラス国内にドラゴン・ゾンビが出現したことがあって、住民を逃がすためにゼロはたった1人でドラゴン・ゾンビと戦ったの。勝つことはできなかったけど、ゼロがドラゴン・ゾンビを足止めして稼いだ数時間で都市の人々が救われた。その時にゼロは左目を毒に犯されて、ゼロを助けるために私がその左目を抉ったのよ」
「嘘だろ、ドラゴン・ゾンビとたった1人で渡り合って、生き延びただと?」
「信じられない・・・」
レナの説明を聞いてチェスターとカミーラは戦慄した。
「あの時はいいようにしてやられましたが、今度はそうはいきません。あの程度のトカゲに何度も負けるわけにはいきません」
ゼロは独り言のように呟く。
「・・・しかも、勝つつもりかよ」
「チェスター、私達も・・・」
「ああ、イバンスの冒険者としてゼロにだけ任せるわけにはいかねえ!」
チェスターとカミーラは覚悟を決めた。
あれこれと策を練っていたゼロだが、その表情は渋いまま首を振った。
「どう考えても現状でセイラさんを救出するのは困難ですね。そうなると、やはり儀式を狙うしかありません」
イズ達の言うとおり王都の警戒は不自然な程に緩い、しかしそれは見せかけだけのものであり、隙の無い警戒網が敷かれていることは間違いないだろう。
セイラが捕らわれている場所が特定できないが、ゼロの言うとおり大教会の地下でドラゴン・ゾンビが守っているとなると、救出を強行すれば大規模な戦闘に突入することは避けられない。
また、敵の狙いがゼロ達を誘い込むことならば大教会の地下にセイラが居ない可能性すらもある。
一度はセイラの救出を失敗しているのだから二度目の失敗は許されないのだ。
その上でゼロは考えうる最善の手段を編み出し、皆に作戦案を説明した。
「マジかよ。俺達、本当に恐ろしい奴を呼び込んじまったな」
「恐るべき悪知恵・・・」
ゼロの策を聞いて狼狽えるチェスターとカミーラだが、ここまできたら後戻りはできない。
しかし、他のメンバーの反応は
「またゼロの悪い癖が出た」
「でも、その策に賭けるしかないわね」
「ゼロ様らしいといえはそうなのだが・・」
「やはり私が矯正しなければ・・・」
と呆れ顔のオックスとリリスにイズ、リズ兄妹
「ゼロらしくていいじゃねえか」
「いかなる状況であろうとも連隊長殿に従います」
と楽観的なライズと、ゼロの策というだけで無条件て受け入れ、難しいことは考えないコルツに
「まあ、そんなところだろうと思ったわ」
と澄まし顔のレナと、皆がゼロの策にあまり驚きもしない。
そんな中、ゼロの策の鍵を握るのはカミーラだった。
「この作戦はカミーラさんの呪術が必要不可欠です。出来ますか?」
ゼロはカミーラに問いかける。
「出来ると思う・・・いえ、やってみせる!」
カミーラはゼロを真っ直ぐに見て頷いた。
そんな相棒を見てチェスターが口を開く。
「ゼロ、聞いてくれ。カミーラはあんたの要求は必ず成し遂げる。その上でだ、戦いの中で万が一、何かの事態が起きて誰かを捨て駒にする必要がある時、その時は俺とカミーラを使ってくれ。イバンス王国の冒険者としての意地と責任を取らせてくれ」
「・・・」
チェスターの覚悟にカミーラも頷いている。
ゼロは頷いた。
「そうならないように策を講じるのが私の役割です。それでも、その時はよろしくお願いします」
作戦案は決まり、別の場所に潜んでいるグレイの中隊にもその役割が伝えられた。
失敗は許されない。
ゼロ達は決行の時まで何度も作戦内容を確認した。
そして、日蝕の日の夜明けが訪れた。




