潜入、イズとリズ
ゼロ達はイバンス王都付近の山中にまで到達、情報を集めていた。
次の日蝕まで3日、城塞都市での戦いは既に始まっている筈だ。
ゼロは今、レイス数体を王都に潜入させてセイラの居場所や敵の情報を集めているが、思うように情報が集まらない。
敵に気取られぬように下級アンデッドのみを放っていることもあるが、敵である月の光教や首魁のネクロマンサーも最初の儀式を阻止されて警戒しているのだろう。
「どう?何か分かった?」
レナがゼロを覗き込むがゼロは難しい顔だ。
「駄目ですね、セイラさんを何処に監禁しているのか、敵の死霊術師がどこにいるのか、掴めませんね」
相手の情報が集まらないと作戦の立てようがない。
このままだと前回のように儀式を強襲してセイラを奪還するしかないが、できればそれは避けたいところだ。
「思い切ってアルファかオメガを潜入させてみますか・・・」
今、ゼロの手元にはオメガやスピア達も戻ってきていて配下の全てのアンデッドが集結している。
多少の危険を冒して上位アンデッドを強行偵察に出し、セイラの位置を特定して一気に勝負に出る策もあるが、リスクが大きい。
加えて強行策は別の場所で待機しているグレイの中隊との連携も困難になる。
「ゼロ様。私達にお任せいただけませんか?」
思案しているゼロを見たイズが口を開いた。
「何を考えています?」
ゼロの問いにイズとリズは互いに顔を見合わせて頷いている。
「私達兄妹は長くゼロ様と行動を共にさせていただいており、ゼロ様のお考えの一端も分かるようになりましたが、失礼ながらゼロ様の欠点も知っています」
ゼロを真っ直ぐに見るイズ。
「兄の言うとおりです。ゼロ様は今、敵の情報を集めるために如何にアンデッドを運用するのかを考えていますよね?それこそがゼロ様の欠点です。全てを自己完結しようとアンデッドによる策を考えていますが、もう少しアンデッド以外の仲間のことも信頼して任せて欲しいのです」
その様子を見ているレナがクスクスと笑っている。
ゼロは訝しげな表情だ。
「貴方達に任せるとは、具体的には?」
「私と兄様が王都に潜入します。私達シルバーエルフはアンデッド程の隠密性はありませんが、情報収集は得意ですし、様々な状況に臨機応変に対応できます。必ずお役に立ってみせます」
「しかし・・・」
それでも難色を示すゼロだが、そんなやり取りを笑いながら見ていたレナがリズ達に助け船を出す。
「流石はゼロの一番弟子ね。ゼロのことを良く理解しているわ。ゼロ、イズとリズの2人なら大丈夫よ。任せてみなさいよ」
レナだけでなくオックス達も頷いている。
「確かにそうだ!俺達は皆上位冒険者だ。それぞれに得意な分野がある。俺だって力比べならばお前には負けんぞ。もう少し俺達を信用して任せてくれ」
ゼロは頷いた。
「信用はしていますが、確かに私は少し自分の考えに凝り固まっていましたね。分かりました、イズさんとリズさんに任せます。但し、情報の有無に係わらず明日の夜明け前には戻ってきてください」
ゼロの許しを得た2人は自信に満ちた表情で王都に向かって駆けて行った。
イズとリズを見送ったゼロはリズに指摘された欠点を踏まえてセイラの救出作戦における役割分担のためにパーティーを2つに分けた。
ゼロ、レナ、ライズ、チェスター、カミーラの5人とオックス、リリス、イズ、リズ、コルツの5人。
基本的には全員で行動するが、必要に応じてこの二組に別れて行動する。
特にセイラを救出した場合にはオックス達の組がセイラを守りながら脱出する役割を担うこととした。
一方、王都に向かったイズとリズは直ぐには王都に潜入せず、周辺の様子を探っていた。
「妙だな・・・」
「ええ、都市の周辺にはアンデッドがいません、門の警戒も教団の信徒でしょうか?警戒が甘いですね」
外観を見ても都市を囲う外壁の外側にはアンデッドの姿は無く、幾つもの門の警備も少数の信徒が立っているだけだ。
試しにリズがレイスを放ってみたが、外壁の内側にもアンデッドの姿は無い。
「警戒が緩すぎる。我らを誘っているのか?それとも、他の理由があるのか?」
「兄様、とにかく潜ってみましょう」
2人は警戒に当たる信徒の僅かな隙を突いて王都へ潜入した。
王都は正に死に支配された都市だった。
教団の信徒以外に生きる者の姿は無く、不気味な程の静けさに包まれていた。
数体のアンデッドが彷徨っているが、何らかの目的を持って動いているようには見えない。
「兄様、どう思いますか?」
「これまでの戦いに比べて不自然なまでのアンデッドの少なさ、はっきり言って危険だと思う。ゼロ様のように必要とあらば即座に大軍を召喚できるから無駄に力を使っていないのではないか?」
「やはり、そうでしょうか。もしかしたら私達の潜入にも気付いていながら捨て置かれているのかもしれませんね」
「確かに、それ程の力の持ち主ならば余計な力は使わずとも警戒に穴を空けるようなことはあるまい」
「だから私達のことは放っておいても必要な情報は与えない万全の構えですか。確かに、私達に対して何らかの措置を講じてそれがゼロ様に伝わればゼロ様はその情報を無駄にはしませんからね」
イズの顔が険しくなる。
「我等2人は敵に脅威とは思われていないのだろう。だが、それは不愉快だな。ならば、我等を甘く見たことを後悔させてやろう」
「兄様、無理は駄目ですよ」
「そんなことは分かっている。伊達にゼロ様と長く共にいない。無理せず、他愛のない情報を数多く集めて持ち帰ろう。個々の情報は些細なものでも数が多ければ大きなものにもなろうさ」
2人は手分けして都市内の情報を数多く収集した。
特にマッパーとして類い希なる才能を持つイズは何らメモを取ることなく広大な王都の詳細な地図を脳裏に作り上げた。
リズは日蝕の日に儀式が行われるであろうシーグル大教会の周辺の状況を探っていた。
予測される太陽の位置と日蝕の時間、それらを考慮すれば儀式は大教会の前の広場で行われることが予想できる。
そんな中、リズは大教会の地下に異様な力が溜まっていることに気がついた。
「何だろう?とても大きな・・・死霊の気?」
試しにレイスを送り込もうとしたが、強大な力に阻まれて入り込むことができない。
「レイスでは駄目、ならばスペクターなら・・・」
何とかして力の正体を突き止めようとしたリズだが、それをイズに止められた。
「止めておけ、今のところは強大な存在がある、それだけでいい。無理に探ろうとすると敵の反撃を呼び込む可能性がある。そうなると事態が急速に変わってしまうかもしれない」
イズに言われてリズは頭を冷やす。
「そうですね。すみません兄様、私の方が無理をしようとしました。ゼロ様のためにと功を焦りましたね」
「お前はゼロ様のことになると周囲が見えなくなるからな。何をするにしても焦るな、機会はある」
「そう・・ですね。私にも機会はありますよね」
その後も2人はあまり深くは首を突っ込まずに小さな情報を数多く収集し、最後には任務失敗を装って王都から脱出して情報を待つゼロの元に急いだ。




