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最終局面へ

 工業都市の議会棟の会議室には各部隊の指揮官が集まっていた。

 イザベラとブランドン率いる連合軍の各部隊長、アイラス王国からの増援を率いて合流した大隊長に加えて本隊の到着はまだだが、先行して工業都市に来た東の連邦国と共和国の援軍の指揮官が揃う。

 イバンス女王のシンシアもイザベラとブランドンの間に座り会議を見届けていた。

 彼等が率いるのは2千程度の軍勢であるが、これが連合軍の投入可能な総兵力である。

 加えてゼロもレナを伴って末席に着いていた。


「我が軍の諜報員と冒険者が入手した情報から敵の規模とその目的の一端が判明しました」


 会議を仕切るイザベラの説明に皆が聞き入っている。

 イザベラはクロウが入手した情報にゼロが持ち帰った情報を加えてより正確で重要な情報を導き出していた。


「この国を襲ったのは月の光教なる遥か昔のカビが生えた邪教団とその支配下にあるアンデッドの軍勢ですの。首謀者は黒衣のネクロマンサーと、こちらはアンデッドですが、白きノー・ライフ・キング、それから邪教団の生き残りです」


 ノー・ライフ・キングの名を聞いて会場にざわめきが起きるが、続くイザベラの言葉に皆が驚愕する。


「敵のアンデッドによる総兵力は20万以上。この先の城塞都市とイバンス王都に分散配置されていますの」


「20万以上!」

「いくら何でも差がありすぎる!」


 各々が口走るが、それはもっともな意見である。

 単純計算で百倍以上の戦力差だ。

 しかしながら、それだけの兵力差を前にしても進まなければならないし、勝利しなければならないのだ。


「私達はアンデッドに襲われたイバンス王国で唯一持ちこたえた鉱山の都市を守り抜き、草原の都市、渓谷の都市、そしてここ工業都市を解放しましたの。これまでも薄氷を踏むような、ぎりぎりの戦いを強いられてきましたが、この先は更に無謀ともいえる戦いになりますわ。それでも私達は進まなければなりません。なぜなら、月の光教が目論んでいるのは・・・冥神サイノスの顕現化です」


 一同は息をのみ、言葉すら失った。


 冥神サイノス、この世界に数多といる神の中でも最も恐ろしい闇の存在である。

 その力は魔王にも匹敵するか、それ以上であるといわれている。

 但し、サイノスは自らの力では顕現化は出来ず、更に顕現化していないサイノスは冥界の底で冥界を守る静かなる神である。

 しかし、何らかの力により一度顕現化したならば世界中を冥界と同じ闇で支配する邪神と化すのだ。


「月の光教が何故にサイノスを呼び起こそうとしているのかは分かりませんが、どんな目的にせよサイノスが現れれば世界の終焉に突き進むことは明白ですの。だからこそ、何としてもその顕現化を阻止しなければなりません」


 その事実を突きつけられれば逃げるという選択肢がないことは明らかだ。


「しかも、サイノスの顕現化の儀式は8日後、イバンス王都のシーグル大教会で行われます」


 次々と伝えられる悪い情報に皆はうんざりとし、半ば諦めの境地に至っている。


「状況は分かりました。しかし、これだけの戦力で為す術はありますでしょうか?」


 東の連邦国の軍団長が口を開く。

 共和国軍司令官も頷いているが、それでも双方ともに引くつもりはなさそうだ。

 イザベラは説明を続ける。


「まず、私達連合軍はその持てる全兵力を持って城塞都市を攻めます。それでも50倍もの敵を相手にする必要がありますの」


 イザベラの策に対して何人かの者が反対意見を口にする。


「しかし、それでは王都はどうする?我々の戦力と残された時間では城塞都市すらも陥落させることは難しいぞ」

「ならば、一か八か、先に王都を攻めてはどうだ?うまく行けば儀式を阻止することができる。そこから対応を立て直せば道はあるかもしれん」


 反対意見を聞いたイザベラは満足気に頷いた。

 少なくとも皆が勝つための道を模索している。

 その士気こそが貴重なのだ。 

 そして、絶望的な状況でありながら前向きな意見が出始めた、一番効果的なタイミングでイザベラは秘策を披露する。


「王都での儀式は別働隊が攻めて阻止します。1人で数万のアンデッドを操るネクロマンサーの冒険者ゼロに任せます。連邦国と共和国の皆さんならば聞いたことがありますわね?アイラス王国の黒等級のネクロマンサーのことを」


 イザベラの言葉に連邦国と共和国の司令官がゼロを見た。

 如何に秘匿されたとはいえ、軍の要職にある彼等ならば先の魔王との戦いにおいて暗躍していたネクロマンサーの存在は知っている。

 そのネクロマンサーが目の前にいるのだ。


「王都はゼロに任せてサイノスの顕現化を阻止してもらいます。そうしますと、むしろ大変なのは私達城塞都市攻略部隊ですのよ。戦力差があり過ぎますが、他に手段はありません!皆さん、覚悟を決めてくださいまし!」


 胸を張るイザベラの宣言にその場にいる連合軍各指揮官は決死の覚悟を決めて頷いた。


 作戦の方針は決まった。 

 しかし、その決行には更なる綿密な計画が必要だ。

 イザベラ達はその作戦計画の議論に入ったが、会議室の外が俄に騒がしくなってきた。

 何やら揉めている声が近づいて来る。

 何事かと会議が中断したその時


「ここか?」

 バキバキッ!


何者かが力任せに扉を開け放ち、その勢いに負けて扉が根元から引きちぎられた。


「ひっ!」


 そこに立っていた人物を見たイザベラががらにもなく顔色を変えて後ずさった。

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