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神官戦士対アンデッド

 議会棟の中は不気味な程静まり返っていた。

 建物側面の通用口を破ってグレイ達が突入したのは広い回廊だった。

 突入した通用口はリズのスケルトンウォリアーが盾を並べて外からの追撃に備えるが、アンデッドが追ってくる様子はない。

 突入したグレイ達は即座に防御陣を敷き、周囲を警戒するが回廊にアンデッドの姿は無かった。


「アンデッドは正面の出入口から外に溢れてきていた。回廊に沿って正面に回ってみよう」


 ウォルフの第2小隊を先頭に中隊は密集しながら回廊を進んだ。

 

 同行するリズはスペクターを先行させて偵察に当たらせる。


「・・・この先の中央ホールにおびただしい数のアンデッドがいるようです」


 議会棟全体に結界のようなものが張り巡らされているのか、リズの能力で得られる情報はそれまでであり、具体的にどんなアンデッドだどれだけいるのかまでは分からない。


「隊長、どうしますか?本隊を待ちますか?」


 エミリアが伺う。

 エミリアの言うとおり本隊の突入を待った方が確実ではあるが、グレイは首を振った。


「いや、この場でのほほんとしていても時間の無駄だ。手柄を急ぐわけではないが先に進もう。そのうちに本隊も突入してくるだろうさ」


 中央ホールの扉を蹴破って中央ホールに突入したグレイ達。

 密集体形で中央ホールに飛び込んだが、そこで待っていたのは誰もいない広々とした空間だった。

 ただ、ホールの奥にある演台の上に白いローブを纏った人影が1つだけ。

 ローブに覆われてその表情は窺えないが、突入してきたグレイ達を見ていることは間違いなさそうた。


「何だ?・・・リッチか?」


 注意深く観察するグレイ。

 傍らに立つエミリアが顔色を青ざめさせながら首を振る。


「グレイ隊長・・・あれはリッチ、アンデッドではありません。生身の人間の・・ネクロマンサーです。それもかなり高位の・・・」


 エミリアの報告を聞いてもグレイは表情を変えなかった。


「そうか、ならば問題ないな」

「?」


 余裕のようなものを感じられるグレイにエミリアが首を傾げた。


 その時、シルファが震える手で天井を指差した。


「たっ、隊長・・・あれを・・」


 シルファの横に立つリズも険しい表情で天井を見上げている。

 グレイ、エミリアが、隊員達が見上げる。


「なっ!」


 そこに居たのは無数のアンデッドの姿。

 数百にも及ぶグールやヴァンパイア、吸血鬼系のアンデッドが蝙蝠のように天井にぶら下がりグレイ達を見上げていた。


「うわっ!なんだあれ、気持ち悪っ・・・総員防御円陣を敷きつつ頭上警戒!」


 思わず本音を漏らしかけたグレイが即座に指示を出す。

 盾を持つ隊員とリズのスケルトンウォリアーが盾を頭上に構え、密集した。

 エミリアやリズ等、弓を持つ者は矢を番えて盾の隙間から狙いを付ける。


「奴らは飛べるのか?だとしたらあの数は厄介だ」

「いえ、あれは天井に張り付いているだけでグールは飛べません。ヴァンパイアは飛ぶことも出来ますが、あまり機敏には飛び回れません。飛び回りというより、浮遊と滑空するような感じです」

「ならば、奴等は天井から飛び降りてくるな」


 リズの説明を聞いたグレイは盾の下に隊員の持つハルバート等をあてがい敵の急襲に備えた。 

 そのうえで積極的前進の考えを切り替える。


「ゆっくり、扉の前まで下がるぞ、陣形を崩すな」


 中隊はジリジリと後退を開始した。


「離脱するのですか?」


 エミリアの問いにグレイは首を振る。


「いや、外に出ては元も子もない。折角確保した突入口だ、後方を確保しつつ現状を維持する」


 後退を続けるグレイ達、扉まで後少しというところにおいて敵が動いた。

 アンデッド達が天井から一斉に襲いかかってくる。


「来たぞ!先ずは後方確保を優先、退路を断たれるな!」


 頭上から次々と飛び降りてくる敵を盾で受け止めながらも後方の扉を確保したグレイ達は半円形の防御陣を組み、敵を受け止めながら反撃する。

 数こそは多いが下位のグールや下位から中位のヴァンパイアならば、神官戦士であり精鋭部隊と呼ばれるグレイの中隊だ、無理をしなければその対処はそう難しくない。


「よし!この場所を確保しつつ戦う。絶対に突出するな」


 グレイは陣形の中央で指示を出しながら演台の上のネクロマンサーを見る。

 何らかの術を行使しているように見えるが新たなアンデッドを召喚している様子はない。


「リズさん、あのネクロマンサーの動き、どう思いますか?」


 グレイは死霊術師としての能力を持つリズの見解を聞く。


「そうですね・・・あのネクロマンサーは戦闘が始まってアンデッドを操るのに手一杯なようです。だから新たなアンデッドを召喚する暇が無いんです。アンデッドの数が更に減って余裕ができたら新たに召喚するかもしれませんが。ただ、歪な感じがします、死霊術師としての力は強いのにその技能と知識が足りていないのではないでしょうか?」


 リズの説明を聞いたグレイは頷いた。

 強い力を有しながら未熟、グレイも似たような疑念を抱いていたのだ。

 グレイはアストリアとシルファを呼び寄せた。


「2人は断続的に敵ネクロマンサーに対して矢を射掛けてくれ。さすがに仕留めるのは難しいだろうから無理せずに牽制程度でいい」


 グレイの指示を受けたアストリアとシルファはそれぞれ盾の隙間からネクロマンサーを狙って矢を射るが、ネクロマンサーを守るアンデッドに阻まれて矢は届かない。

 だが、それはグレイも想定済みだ。


「それでいい。敵に余裕を持たせるな。アンデッドでない生身のネクロマンサーならば効果があるはずだ」


 ネクロマンサーに断続的に牽制攻撃を与えることによりその注意をそらし、アンデッドを再召喚させるのを阻止することが目的だ。


「このままを維持、敵に決定的な隙が生じれば吶喊するが、今は無理をしなくていい」


 敵の懐にまで侵攻したグレイ達だが、あと少しというところで足を止めて慎重策を選択したグレイとその指示を末端まで行き渡らせる各隊長と、命令を忠実に守る隊員達。

 聖務院聖監察兵団の精鋭中隊と呼ばれているが、その統率と団結力が彼等が精鋭部隊として評価されている所以である。

 その中隊を率いるグレイは神官戦士でありながら神を信じないと公言して憚らず、頑なに信念を曲げることがない頑固者であるが、こと作戦行動に至っては非常に柔軟な判断をして部下達を守ってきたのだ。


 グレイ達は無理に前進することなく、損害を避けながら敵ネクロマンサーに対する牽制と目の前の敵を確実に撃退することに専念していた。 

 第三者であるリズにしてみれば、多少の損害を覚悟のうえで積極的に行動すれば敵ネクロマンサーに肉迫することもできる気がするし、リズのアンデッドを前面にすれば損害も最小限に抑えられると思う。

 しかし、戦いが始まって四半刻が経過しても戦況に大きな変化は現れないが、それでもグレイは動かなかった。

 見かねたリズが意見具申しようとしたその時


「何時までモタモタしていますの?あの程度の敵、貴方だけで十分ではありませんの?」


 グレイ達が確保していた中央ホールの扉からイザベラが呆れ顔で踏み込んできた。

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