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工業都市攻略戦

 工業都市を巡る戦いは熾烈を極めていた。

 それもその筈、速攻を決めたイザベラは部隊の大半を攻撃部隊に回して一点突破を敢行したのである。

 工業都市を占拠する数千から数万に及ぶアンデッドに対して騎兵と歩兵を合わせて千にも満たない部隊で突撃する、失敗すれば部隊の立て直しができないどころか、即敗北へと繋がる無謀とも言える作戦だ。


 それでもイザベラは後に続くヘルムントの加護の祈りを受けながら文字通り先頭に立ち、華麗にサーベルを振るい、群がるアンデッドの首を刎ねながら敵中を斬り裂いて行く。

 有言実行、率先垂範、指揮官先頭を体現し、戦場を駆け抜けるイザベラの姿を見て、その後に続く兵達の思いは2つに分かれていた。


「あの凛々しい姿はまさに戦乙女だ、彼女について行けば勝利することができる!」

「彼女こそ神に愛された存在だ」


というイバンス王国軍の兵士と


「また無理を言い出して無茶を始めた、しかし彼女について行かないと生き残れない!」

「聖騎士でありながら神に匙を投げられて別の何かに守られているんじゃないか?」


というアイラス王国軍の兵士である。

 相反する評価のように見えるが、共通しているのは


「イザベラについて行けば(行かなければ)勝てる(生き残れない)」


というものであり、全ての兵が必死の覚悟でイザベラに続き、結果的にその周囲の攻撃力が強化されて敵を蹂躙していった。


 そんなイザベラの傍らにはシルバーエルフの双子の兄、イズが続く。


「何かと存在感の薄い私ですが、今回は私の力を示させてもらいます。ゼロ様に見ていただけないのは残念ですが」


 そう言ってイザベラの本隊に同行したイズはその力を遺憾なく発揮していた。

 矢のように一丸となって戦場を貫く連合軍本隊の左右にはゴーレムと見紛う程の巨大な土の巨人がアンデッドを蹴散らしながら突き進んでいる。

 イズが召喚した大地の精霊ノームが宿った土人形だ。


「私に続きなさい!勝利するまで止まりませんわよ」


 連合軍は戦場に響き渡るイザベラの笑い声と共に一直線に駆け抜けて行った。

 この戦いの後、イザベラは一部の兵士、主にアイラス兵から【首刈りの戦乙女】と陰で呼ばれるようになったのである。


 イザベラが戦場を突き進んでいたその時、別働隊のグレイ達も激しい戦いの最中にいた。

 グレイが率いるのは自らが指揮する特務中隊の隊員54名と双子のシルバーエルフの妹であるリズだ。

 陽動を担うグレイ達は都市を迂回して敵右翼後方に位置取るとイザベラ達本隊の突撃に呼応して突入を開始した。

 グレイもまた先頭に立ち槍を振るうが、グレイの周囲にはリズが召喚したスケルトンウォリアーが盾と槍を揃えて敵を受け止め、突き返している。


 そんなグレイ達だが、正面から突撃を敢行したイザベラ達本隊に比して遥かに少人数での突入であることが災いした。

 本隊が予想以上の打撃力を発揮して突き進んでいたため、敵アンデッドの殆どが正面の本隊に向かってしまい、側面から突入した少人数のグレイ達に向かう敵が少ないという誤算が生じてしまったのだ。

 その結果、本来の目的とは逆に本隊が陽動となるような形になり、グレイの中隊が本隊よりも先に敵の中枢に到達してしまい、そこでアンデッドの大軍に囲まれてしまったのである。


 今、グレイ達がいるのは工業都市の中央にある都市議会棟の裏であるが、この建物から次々とアンデッドが這い出してくることからも敵将がこの議会棟に居座っているのは明らかだ。


「まずいな・・・」


 隊員とリズのアンデッドによる防御円陣を敷いたグレイは周囲を見回して口漏らした。

 リズの放ったスペクターの情報により本隊の位置は把握しているが、敵陣を突破するには今暫く掛かりそうだ。


「グレイさんはどうしたのですか?」


 敵を突破しながらも突然足を止めたグレイの様子を見たリズが傍らにいるエミリアに声を掛ける。


「いつものことです。イザベラさんに踊らされて困難を押し付けられるのは」


 半ば諦め顔のエミリアが答えた。

 エミリアの言うとおり、イザベラが最初からこれを狙っていたのかは謎であるが、作戦会議の際のイザベラの


「あわよくば敵将を討ち取っても構わない」


との言葉が現実味を帯びてきた。

 

 グレイも全てイザベラの掌の上で転がされていたような気がしてきたが、流石に敵中で何時までも足を止めている程の愚か者ではない。


「やむを得ない。全員建物内に突入する!」


 グレイは決断した。

 中隊全員で議会棟に突入して敵将を討つ。

 敵中で孤立している以上は生き延びる手段はそれしかない。

 広い議会棟とはいえ50人以上の中隊が突入するとなると中での行動が制限されるかもしれないが、部隊の一部を外に残すわけにもいかない。


「リズさん、突入したら貴女のアンデッドに出入口を固めさせることは可能ですか?」


 グレイの問いにリズは頷いた。


「問題ありません。スケルトンウォリアー達にやってもらいます。後から突入する本隊の邪魔をしないようにもしておきます」


 イザベラの答えを聞いたグレイは命令を下す。


「全隊議会棟へ突入!先頭は第2小隊、殿は第1小隊が守れ!」


 グレイの号令でウォルフ率いる第2小隊が敵を突破して建物内に突入し、アストリアの第3小隊、グレイ、リズ、エミリアにシルファの直属分隊が後に続き、最後にアレックスの第1小隊が飛び込んでいった。

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